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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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異能者 2

 リーシアは呆れられたと少しの焦りを感じて一生懸命考えたが、どこも理解出来なかった。


(不安で抑えられない時もあるし、危険があれば勝手に見えたりもするし、悪い事が起きると分かっていて使わないなんて出来ないのに、元々使わないってどういう事なのかしら。

 私を信じているから視なくて良いというのもどうして?

 私を信頼出来たとしてそれがゼオ様の事故を防げる理由にはならないわ。慣れない場所で道を迷ったり、悪質な方々に目をつけられたりするかもし……駄目だわ。ゼオ様とジオ様と無事を視なければ、土地勘もないはずだし。本当に力が戻るのかしら。戻らないならゼオ様に私を信頼するのでなく自分自身で未来を確かめて危険回避をしていただかないと。それに私の危険も去ったか分からないのだから、場合によってはお二人にはもう会わない方が)


 リーシアはジオに話しかけるつもりではなく、自分の疑問として思考を巡らせていた。

 しかしそれも全てジオに伝わってしまっている。


《落ち着け。

 あんたよっぽどきつい人生抱えてんだな。

 ゼオは一月先を確かめて放置だぞ》

《……え?》

《後は一年に一回だけ一年後を視てるんだっけか。

 それ以外は気が向いた時にたまに使う程度らしい》


 リーシアは日常的に未来視をしている。

 婚約解消後に回避できた安心感で自重して減らしたくらいで、常に未来を気にしていた。

 懸念が一つあれば解決するまで見続けるし、何より婚約解消までは止める訳にいかなかった。

 自分だけでなく大切な人達の未来も関わっていたのだから。


《平民には町や国を巻き込むような一大事はそうそうないからな?

 てか、力がばれないようにとか、食いっぱぐれないようにとか。

 普通に生きられるように力を使ってたみたいだけど。

 後は金に困ったら博打にいく、その位だ》

《バクチ……?》


 聞いた事のない言葉で、リーシアは考えた。

 貴族にはない町中の文化かとリーシアは結論を出した。

 実際は貴族でも手を出す人達は居て、良い遊びではないと認識されていて、女性がするのはなお悪いとされている。

 そのために言葉すら耳に入らないよう育てられる令嬢は少なくはなく、そういった言葉を知っているかどうかで世俗知識の指標となったりする。

 リーシアは未来視で鍛えられている部分が大きいものの、視なかった部分に関しては耳を塞がれている分野がある。


《賭け事?で分かるか?

 例えば見えないコインが裏か表か予想して、金を預けて、当たった人に掛けた集めた金を分配する、悪い遊びだ》

《まあ、それは……》

《未来が分かるなら簡単だよなぁ。

 物によっちゃ俺も得意だけどな。

 相手の考えを読みあうタイプの賭けもあるから。

 力を使えば負けなんてない、儲けて終わりだ》

《不審に思われませんか?》

《いいね》


 リーシアは疑問を投げたが、帰ってきたのは唐突な賞賛だった。

 皮肉ではないのは伝わってくるものの、ジオの真意は読めなかった。

 返事のどこかに好感を持った、それだけは分かった。


《疑われない程度に敗けを挟んで、勝ちすぎないようにする。

 後は通わないとか、通う必要が有る時は一度に勝つ金額を低くするとかな》

《加減が上手なのですね》

《はは、あんた本当にイイと思うよ》


(何が良いのかしら???)


 読まれているのも忘れ、リーシアはただ疑問に思った。

 相変わらずリーシアにはジオの感想が分からなかったが、嫌われていないのはありがたかった。

 お互い異能者と知る関係で、今後上手くやっていく必要もありそうだからだ。

 リーシアの中で父に連絡を取るのは確定だが、既にジオ達への疑心はほとんどなかった。

 きっと説明された通り、二人に連絡をとって町の見学をするのだろうと、漠然と感じていた。


《まぁゼオはそんな感じだから、あんたはまた未来が視えるようになる。

 ならなければその時考えようぜ》

《えぇと……はい》

《その時はゼオが代わりに視てくれるさ。

 後は町の見学に出た日にな。

 制限時間も監視もいるんじゃゆっくり話も出来ない》

《そうでした》


 リーシアは監視されているのを忘れかけていた。

 ゼオとの会話に集中していたためか、監視役の声も聞こえなくなっていた。

 不審に思われてないか、監視の心へ意識を向けた。


《――いていて嫌がらせをしている可能性も?

 しかし病弱なのも事実らしいし。

 どれだけここでぼんやりしているつもりなのか》


 監視者は不満気な思考の真っ最中のようで、リーシアはぼんやりしているだけにしては結構な時間が過ぎているのを悟った。


(私を見ている方の退屈が募っているようで、もっと沢山お話ししたい事もあるのですが。

 この辺りでお仕舞いが良さそうですね》

《俺も。

 けどゼオも仲間にいれてやろうぜ。

 町に出て三人ならもっと話し込めるだろ》

《え、えぇ……それは》

《さすがにまだ信頼までは出来ないよな。

 申し訳なく思わなくていい。

 伯爵様によく確認を取ってくれ》

(ありがとうございます。

 急ぎで連絡を取って、学園に許可を出して……二週間以上の余裕はあると思います》

《ながっ……

 お貴族様はのんびりしてるなぁ。

 数回町に出たら一年が終わっちまうんじゃねぇか?》

《領内なら簡単だったのですが。

 でも父の許可が確認出来れば後は学園内だけで済みます。

 多くても週に一度の休日、催事があれば外出の出来ない月も有るかと思います》

《伯爵様、太っ腹だなぁ……護衛なんてほとんどないのに俺らをキープするんだから。

 金や名声に利用するためでもなく。

 研修費と生活費つぎこんでもドブに捨てるだけかもしれないのに》


 ジオの崩れた言葉はよく分からないものの、リーシアは父を誉められたのは分かった。


《誉めていただいているようでありがとうございます。

 娘から見ても父は優しくて素敵な人です》

《あんたは本当に嬉しそうにするね》


 ジオの返事に疑いが混じり、リーシアは不思議に思った。

 大好きな尊敬する両親が誉められて嬉しいのは、リーシアにとっては当然だからだ。

 だから、続いた言葉に、リーシアは硬直した。


《そこに悲しみや……諦め?が混ざるのは何でだ?》


(――心を読まれるとは、こう言う事)


 リーシアは心を読まれるのも監視者の視線も忘れ、微かに声を出して笑った。

 気付かれた事はなかった。

 気付かれていたとしても、問われるまでではなかった。


《そんな事まで……いえ、全て知られているのですね》

《どうだろうな》

《お気になさらないでください。

 生まれ持った力なのですから》

《あぁ……》

《ご覧の通りに、私は醜い人間です。

 嫌われようと、(さげず)まれようと、私自身の責任と覚悟しております》


 ジオから伝わる戸惑いは、ジオの人の善さのためだろうとリーシアには思えた。

 リーシアは制服についた汚れを手で軽くはたいた。

 監視者へ意識を向ければ、いきなり声を出して笑った事も含め、上品さに欠けると呆れたような感想を感じ取れた。


《監視者の件もありますし、今日は失礼いたします。

 本日はありがとうございました》

《またな》


 ジオからは大きな動揺も軽蔑も感じられず、リーシアはふと先程聞いた言葉を思い出した。

 異能者や能力を知っていると読みづらいと言うなら、もし今後リーシアが読もうとしても、ジオは隠すのも上手いのかもしれない。




 エイゼンと結婚する未来を初めて知った未来視――リーシアは父母やエイゼンだけでなく、他の人達からも見捨てられていたようだった。

 リーシアの知らぬ所で、リーシアを理由に婚約が解消されてしまっていたのだから。

 それを伝えたエイゼンの眼差し。

 すぐに消えたあの未来で、リーシアが何をしたのか確かめ直す事は不可能だった。

 しかし他人の優しさに触れる度に、リーシアは本来の自分の醜さを想像した。

 自分は何をしてしまったのか。

 見えないからこそ最低の想像を、自分を切り捨てる人達が優しいほど、その優しさからこぼれ落とされるようなどれだけ最低な行いをしたのかと悩んだ。

 自分の本性はそちらなのだと、戒めた。


 エイゼンに振り向いて欲しくて、両親に良い娘だと認めて欲しくて。

 あの時告げられなかっただけで、視なかっただけで、恐らく周りの人間も全てリーシアを軽蔑していただろうと、リーシアは考えていた。

 嫌悪されていただろう、と。

 リーシアはあの善良で優しいエイゼンと両親から見放されるような事をしたのだ。

 優しい人達との関係性は修復できない壊れていて、周りもそれを納得していたはずだ。

 リーシアが悪いのだと。



 

 部屋に着き、リーシアは抑えられなくなった涙をこぼした。

 人の心が読める能力なんて、あってほしくなかった。

 善人であろうとするだけの醜い心根を見抜かれてしまったのだと思った。

 リーシアは学園に入る頃まで、エイゼンに好かれようと色々な努力をしてきた。

 優しい人であろうと頑張りもした。

 ユレアノとの友情も、彼女を好きになったからだけではない。

 嫉妬して憎むなんて醜いのだと、リーシアは負の感情を理性で抑えつけて小さく押し潰した。

 ユレアノ以外へも、嫉妬以外でも。

 おかげでリーシアの成績は優秀で、人に嫌われる事もほとんどなかった。

 未来が視えるのだから、失敗しないよう心がけた。


 上手く隠してきたはずの張りぼてがはがされたのだと思った。

 

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