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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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訪問者 3

 カチュアは拒むように上から言い放った。


「答えになっていませんわ。

 そのような態度を続けるなら伯爵様の指示でも友達としてリーシアさんを預けられません」

「ごめんごめん。

 良い所のお嬢サマなのに、俺らを頭から追い払わないからさ。

 さっきも言ったけど、悪いけど俺ら自分を証明出来るモノ何もねぇの。

 これくらい?」


 ジオはそう言ってズボンのポケットに手を突っ込んだ。

 その瞬間、警備員の一人がジオを取り押さえた。

 かなりの早業で、リーシアは何をどう動いたのか分からなかった。


「ちょっ、手紙出すだけ!

 これっ!」


 別の警備員がジオから小さな封筒を取り上げ、リーシアに許可を取って開いた。

 突然の捕物にリーシアは恐怖を感じたが、同時に不審な動きがあれば警備員らが守ってくれるのだと安心出来た。

 どうやら警備員らは男性らを不審人物として扱う方針だと、リーシアは察した。


 リーシアは手紙だったのだからと放して貰えるよう頼んだ。

 リーシアはふと、ゼオがいつの間にかソファの座る位置をジオから少し離れて避難していると気付いた。

 ジオに比べて大人しそうだが、警備員の気配に気付いて避けたのなら運動能力が随分高いのかなとリーシアは少しだけ引っ掛かった。


 ジオはふぅっと息を吐いて座り直した。


「怖い怖い、それ伯爵様から。

 俺らを信用する証明書らしい」

「『らしい』と言うのはどういう意味です?」

「あー、かもしれない?もしかして?可能性?」

「言葉の意味ではなくて中身を知らないのかと尋ねています」

「そりゃお貴族様の使う小難しいお言葉は貧民には読めねぇよ」


 カチュアは片眉を上げてジオを睨んだ。


「不勉強にも程がありますわ。

 それでどうリーシアさんの案内をすると言うのです」

「ま、順番に話すよ。

 あぁ、その前に俺らに聞いておきたい事を教えてくれるか?」


 リーシアは頭に浮かんだ中から妥当な物だけを拾う事にした。

 警備員の警戒を煽るような質問は今しない方が良い。

 今後の関係が存在するなら、私的な話に踏み込みすぎるのも失礼だ。

 証明書は確かに、リーシアの父が遠くに使いに出す使用人に持たせる証明と一致していた。


「お父様にはまた手紙を送りますから、貴方がたの身の上のお話は大丈夫ですわ。

 貴方がたに護衛して貰って町を見るのは決定事項、つまりお父様のご指示と受け取って良いのでしょうか。

 それはいつから始めるべきで、何を目的に、どこへ訪れるべきかなども指示がありましたか?

 それと貴方がたとどうやって連絡を取ればよろしいですか?」

「御丁寧すぎて右から左へ流れてくな……

 まず命令じゃねぇよ。

 やりたくないなら断って良い。

 ただお嬢ちゃんは家に戻りたくないんだろ?

 生活とか仕事とか悩んでんなら実際町の空気を体験した方が良いからな」

「どうして家に戻りたくないというお話になったのでしょう?」

「あれ?違うのか?

 弟の世話になりたくないんだろ?」

「そちらのお話でしたのね」


 家を嫌って出たいようにも聞こえてリーシアは驚いたが、端的に述べただけだと理解して納得した。

 それが納得出来ると他の部分が気になった。

 リーシアは領地の見回りに着いていくので町の暮らしを知らない訳ではない。

 ただそれを言うと背伸びする子供のようで、リーシアは発言を控えた。

 その思いに答えるようにジオは付け足した。


「領主様の娘に見せる顔は別物だからな」

「そうですね」

「町娘として領じゃない場所で親以外と行く事に意味がある」


 カイから聞く話を思い出し、リーシアはすんなりと理解した。

 カイは気を使いつつも、友達として正直に現実を語ってくれる。

 領民達は善意から領主の娘に生々しい汚ない部分を隠してくれているので、リーシアが見回りで見ている世界は綺麗な部分ばかりだ。

 顔に現れていたかと、リーシアは微笑みを整えた。


「綺麗な部分しか見せて頂けないそうですね」

「だからお忍びで出掛けるのに、俺らみたいなガラの悪い奴はぴったりだろ。

 とても一緒にいる女の子が良いトコの御嬢様には見えない」


 ガラとは何だったかとリーシアは一瞬考えた。


「ほら、上品なお貴族様は言葉使いが悪い俺らみたいなのとは一緒にいないから」


 続けられた説明に、リーシアは言動の事かなと理解した。


「お父様は私の卒業後のために見聞を広げる機会を用意してくださったのかしら」

「俺も気を付けるからお嬢ちゃんももう少し砕けて話して欲しいな。

 町の女はそんなオキレイな話し方しねぇから」

「ごめんなさい、気を付けますね」

「町へは行きたくなければ行かなくて良いし、行きたければお嬢ちゃんの都合の良い日に始めれば良い。

 その時は俺らは領に戻って伯爵様の小間使いになるだけだ。

 行くなら危ない場所じゃなければどこでも良いが学園の回りの町からだな。

 お泊まりはダメらしいから遠くは行けねぇな。

 俺らとお泊まりしたい?」

「おと……」


 へらっと笑いかけられてリーシアはつい身を強ばらせた。

 ジオが突然滲ませた誘いに、出会ったばかりの見知らぬ男性達への不安が一気に煽られた。

 夫でもない相手と夜を共に明かすのは、貴族令嬢にはあり得ない事だ。

 旅路なら男性護衛はいるが、必ず女性の側仕えが居る。

 男性護衛二人と令嬢一人の組み合わせはあり得ない。

 そもそも護衛がそういう対象として見ていると受け取られる言葉を護衛対象に向けてはいけない。

 守ってくれるはずの護衛を常に警戒しなければいけなくなるし、何より行儀よく生きてきた令嬢にとっては恐怖となる。


 リーシアは突然向けられた言葉に不信に傾いた。

 よく知る相手ならたちの悪い冗談だと笑い飛ばせたし、何より普段なら未来視が反応して心構えがある。

 貞淑を尊ぶ令嬢としてジオは信用出来ない対象に傾いた。


 カチュアはジオを睨みながら、守るようにリーシアに手を回した。


「リーシアさんにいやらしい視線を向けないでくださる?」

「そこはお断りって突っ込むトコだろ……

 マジに怖がられるなんて思わなかったし、クソ。 

 今後は気を付けるけど、町で暮らすなら下ネタ……じゃ伝わらないか、いやらしい話を全く振られないで過ごすなんて無理だぞ。

 若い男は元気だし、おっさんどもは若い女が好――黙ります」


 警備員が威圧するように動いたため、ジオは無抵抗を示すように両手をあげて言葉を止めた。

 リーシアは未来視の中でそう言ったものを知識としては知っていたが、突然向けられる心構えは無かった。

 町で暮らす事を現実的に考えるなら、リーシアの反応は過剰だった。

 この会話を知っていれば、未来視での心構えが出来ていれば、もっと未来視から経験として消化出来ていれば。

 内心はそんな風に落ち込みながらも、リーシアは何とか持ち直した。


「大丈夫です。

 ジオ様の言う通りですね。

 ジオ様達と出掛ければ町の人々の本当の暮らしが見えるかもしれません」

「リーシアさん、町でももっと上品な方々の方が多いですわ」

「町に出るなら守られた場所だけに居るのは難しいと思いますの。

 耐えられないなら町では暮らせないと分かりますわ。

 町で暮らすというのは候補の一つですから、出来ないと分かるならそれも必要な経験です。 

 後ジオ様達にお伺いすべき事は――」


 未来視が出来ないままジオ達を信用して良いのか考えながら、リーシアは言葉を探した。


「お二人との連絡はどうすればよろしいですか?」


 ジオは黙ったままゼオを肘でつついた。

 話者の交代で、リーシアはほっとした。

 ゼオが話す方が警備員も警戒を和らげるだろうし、何より予想外の言葉をかけられる事でリーシア自身が平静を保てなくなるのは怖かった。

 これ以上怯えた態度を見せれば、警備員はすぐ二人を追い出すかもしれない。

 悪い人では無さそうだけれど、とリーシアはジオをちらりと見た。

 ジオはまた、苦笑しながらリーシアを見ていた。

 その視線は何故かとても柔らかくて、リーシアは不審感を与えないように視線を逸らした。


 ゼオは少しの間を置いてから、ゆっくりと話し出した。


「俺達はお嬢さんが卒業するまで学園の近くの町に住む事になってる。

 伯爵様が用意してくれてるから、いらないって言われたらまた旅に出るけど。

 一度は伯爵様に頼まれた通り、お嬢さんを町に案内したい」


 ゼオはじっとリーシアを見つめながら言った。

 お世辞や建前ではなく本心のように見えて、リーシアは居心地の悪さを感じた。

 自分のために動きたいと言ってくれるのは純粋に嬉しいものの、その真剣さの心当たりがないのだ。

 しかもゼオは会話をジオに任せがちで、ここまで辿り着くまで意思表示はしてこなかった。

 父に何か恩義を感じての事だろうかと、リーシアは心の中で辻褄を合わせた。


「そちらのご住所へ(ふみ)を出せばよろしいでしょうか」「ああ。

 それともう一つ預かってきている。

 お嬢さんが驚くと行けないから最後に渡してくれって頼まれてる」

「私が驚くような物なのですね」


 これが本題だろうかと、リーシアはカチュアと視線を交わした。

 さりげなく、父からのプレゼントに喜ぶように。


「町へ楽しい気持ちで見学に行けるようにって。

 ――あぁ、ヒントになってしまったかな」

「いえ、服か飾りか、靴かもしれません。

 楽しみです」


 リーシアは年頃の娘らしく楽しそうな笑みを作った。


 驚くようなプレゼント。

 町へ楽しい気持ちで見学に。


 父の言葉にしてはおかしいと、リーシアには分かった。

 父からの言葉ではないか、裏の意味があるかだ。

 そもそもリーシアは服や飾りで喜べるほど心に余裕はなかった。


 エイゼンの心を留められるよう、昔から美容やお洒落も頑張っていた。

 だからこそ、楽しめはしなかった。

 どれだけ磨いても振り向かせられられないと分かっていて。

 どれだけ可愛らしく装っても求めては貰えなくて。

 なのに自らを飾るのを好きとは思えなかった。

 父母はそれを知っている。

 だとすれば公になっていない魔石を隠して作り上げたアクセサリーが妥当だとリーシアは推測していた。

 以前頼んだ疲労回復の魔石が見つかったのかもしれないと、リーシアは期待を抱いた。


「連絡先の住所とかは伯爵様がプレゼントの箱に入れていた。

 無くしたり伝え間違えたりしないように。

 そちらの聞きたい事はもう良い?」


 リーシアはカチュアへ困ったような笑みを向けた。


「何か気にかかる事はあります?」

「リーシアさんが気になさらないなら大丈夫ですわ。

 もっとも、伯爵様にお伺いしたい点は幾つかありますが」


 カチュアはゼオ達をじろりと見回し、リーシアは気に留めなかったように、にこにこと呑気に笑んでみせた。


「私もお父様にお礼の手紙を出したいです」

「なら箱を渡して今日は解散だな。

 そこの……警備の人?」


 先程ジオが取り押さえられたからか、ゼオは警備員を呼んでから箱を取り出した。

 警備員はリーシアの許可を得て、危険物でないか確認してリーシアへと渡した。



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