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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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訪問者 1

 リーシアは眠れない夜を過ごしていた。

 未来が視えない日を迎えるのは初めてで、落ち着いて眠ってはいられなかった。

 カチュアの励ましもあって気にしないようにしていたが、後は眠るだけになれば考える余裕が出来てしまう。


 眠っている間に死んでしまうのではないか。

 今までは自分が死んだ後の未来も視えていた。

 だから視えないから死ぬとは言えない。

 なら何が起こるのか。


 リーシアはそんな不安と恐怖に苛まれていた。

 同室のユレアノは、沈みこんだリーシアを心配して治癒をかけたが、いつも通り治らなかった。

 病気ではなく塞ぎこんでいるだけだからだ。

 ユレアノが心配するので、リーシアも寝るかのように寝台に横になってはいた。

 寝た振りをする内にユレアノも自身の寝台で眠りについた。


 眠らなくても夜は明ける。

 何事もなく夜が明け、寝不足のリーシアの顔色は悪かった。

 ユレアノはリーシアを心配しながらも、前日の片付けや反省会のために部屋を出ていった。


 リーシアが暫く部屋で休んでいるとカチュアがやって来た。

 カチュアは医師のローレッタにお願いして体調不良と診断して貰ったという。

 

「カイやマロ君にも護衛を頼むつもりだったけど、部屋で籠っている方が安全かもね」


 カチュアはユレアノと簡単にリーシアの看病について打合せして来たとも言った。

 ユレアノは『自分がお世話したかった』と後髪引かれながら授業へ向かったという。


「ユレアノ様にはいつも本当にお世話になっています……」

「ユレちゃはリィのお世話大好きだからね。

 お礼に追加の看病を要求されるわよ」


 リーシアがカチュアの軽口に笑っていると、部屋の扉が叩かれた。

 カチュアは手でリーシアを制して扉へ向かった。

 リーシアは用心のために、扉の正面からずれた、離れた位置に立った。


 二人の緊張に反し、扉の向こうから掛けられたのは穏やかな声だった。

 扉を開ければ声の通り、寮の管理人の一人で、よく知っている人物だ。


「体調はどうですか?

 無理が無ければこれを読んでお返事を貰えると」

「急ぎますの?」


 カチュアが問いで答えた。

 管理人は含みのある視線をリーシアに投げた。


「それは私が聞きたかったくらいです。

 緊急の要件は満たしているけれど、断るか考えましたから」

「どういう事でしょうか」

「こちらを読んで貰えば分かります。

 ここで待っていますので、読み終えたらお返事を。

 リーシアさんへの手紙ですので、許可なくカチュアさんは見ないようお願いしますね」


 管理人はそう言うと、説明なく扉を閉めた。

 カチュアとリーシアは戸惑いを隠さず視線を交わした。


「怪しいわよね?」

「えぇ……ひとまず読んでみます……え?」


 手紙の差出人は両親からだった。

 つい不安から筆跡が同じか考えかけたが、リーシアは筆跡の違いを見分ける技能は付けていないので、大人しく封を空けて読んだ。


「何かあったの?」

「いえ……面白い人と会ったから是非会って欲しいと。

 今、この手紙を持って訪れていて……」


 リーシアは読み上げずに文面をカチュアへ見せた。

 説明を面倒くさがったのではなく、声に出して良いか迷ったためだ。

 聞こえないはずだが、扉の向こうには寮の管理人もいる。


 カチュアも黙ったまま目を通していた。

 手紙の内容としてはこうだ。


『会わせたい人物に手紙を持って行かせた。

 面会出来るよう頼んでいる。

 断っても良いが会った方が良い。

 突然になったのはその方が良く伝わるだろうからだ。

 君は今きっと不安に駆られているだろう。

 愛する娘の幸せを祈って、父母より』


「随分奔放な方なのかしら、伯爵様は」


 カチュアが半笑いで呟いた。

 親子といえ、ここは学園の敷地内だ。

 普通なら学園にも娘にも訪問の伺いをたて、返事を受けて、それから警護などの準備を挟んでいざ面会となる。

 手紙を持って来た人物と会え、は突然すぎだった。


悪戯(いたずら)は好きですが――人が困る事は普段ならしません。

 要件を満たすとはこちらですよね」


 リーシアは手紙の別の箇所を指した。

 急な訪問が受け入れられる条件と、それに必要な申請が書かれていて、既に手配済みかつ関係者に個人的にも連絡しているので問題ないと説明があった。

 今後必要なら寮の外出許可も承認が出やすいよう手配している、とも。


「ここまで手回して会うように勧めるなら、深い理由があると思います」

「本当にリィの両親からなの?」

「……おかしな点はありませんが、今は私も先が分からない状態ですし、似せた筆跡を見分ける能力もありませんし」

「それはそうよね……」

「でもきっと、これが暗闇の正体ですよね」


 根拠はないが、タイミング的に疑わない理由の方がない。

 一つ引っ掛かるとすれば、この訪問が突然だと手紙に書かれていた事だ。

 リーシアの両親は異能も知っているし、娘が未来を確かめながら過ごしているのも知っている。

 リーシアには驚くほど突然の出来事はあまり起きない。

 突然という表現は、誰かに見られた時のための建前とも考えられたが、未来視が出来なくなっていると知っていたためと取れない事もない。


 二人で迷っていると、扉の向こうからまたノックが聞こえた。

 返事を待たせていると思い出し、リーシアとカチュアは覚悟を決めた。

 悪い事が起きると決まっている訳でもないし、リーシアの父母からの提案だ。

 リーシアは管理人へ、面会を受けると答えた。




 校門には警備員のための建物があり、面会に使える部屋も備えられている。

 外部からの訪問を受け入れるのは稀なため、生徒にもあまり馴染みのない部屋だ。

 寮を出ると案内は管理人から警備員に代わり、警備員は移動しながら二人に注意を促した。


「急な話なので安全のために警備員がこのまま付き添います。

 もし内密な話がある場合はそれに応じた手続きを取り、後日話すように了解を得ています。

 ――もし、面会の途中で不快になったり危険を感じたら、こちらへ声を掛けなくても良いのですぐに退室をお願いします」

「慎重ですのね。

 貴方のような方に警備して頂いて心強いです」


 カチュアは緊張を煽る警備員に探りを入れた。

 警備員は淡く笑んで言葉を濁した。


「ありがとうございます。

 ――こちらでは珍しい雰囲気のお客様ですので。

 こちらの生徒様方には慣じみのない言葉をお話になられるかもしれません」

「会話が難しいと困りますわね」


 惚けたような会話が続き、リーシアには良く分からなかった。

 カチュアは何かを察しているようで、一緒に居てくれて嬉しいとリーシアは心から感謝した。




 案内された客室には、見知らぬ男性が二人ソファに座り、警備員が二人立ってた。

 見知らぬ男性達は、一目で平民と分かる雰囲気だった。

 年はリーシア達より少しだけ上に見えた。

 一人は動きやすそうな明るい色合いの服を着て、活発そうな顔立ちをしていた。

 もう一人は顔も服も大人しげで、一歩間違えば暗そうにも見えた。


 部屋の空気は堅く、リーシアは不安に駆られてカチュアの腕に触れた。

 触れた事でカチュアの体も強張っているのが分かり、リーシアは少しだけ不安を押さえ込めた。


 リーシアとカチュアが部屋に入ってすぐ、見知らぬ男性の明るそうな方が目と口を大きく開いて嬉しそうに笑った。


「可愛い子が二人も!

 どっちがお嬢様?」


 面会相手の顔も知らないと明かしたも同然の男性に、警備員達は警戒を強めた。

 しかし男性らは気にしていないようで平然と座っていた。

 リーシアとカチュアも緊張していて警備員達の動向にまでは注意を向けていなかった。

 カチュアは腕に触れているリーシアの手に、一瞬だけ自分の手を重ねて離した。

 カチュアの外行きの笑顔を見て、リーシアも手を離して背筋を伸ばした。

  

「私達はどちらも『お嬢様』と呼ばれる立場です。

 どういった意図の質問かお伺いしてもよろしいかしら?」


 カチュアの物言いに男性は大笑いした。


「背筋がかゆくなるー!

 俺らにでもこんな丁寧に話すんだなお嬢様って」

「お前は黙ってろ」

「ならお前が喋れよ」


 大人しそうな男性が注意し、明るそうな男性が笑いながら言い返した。

 男性らに悪気は全く見えないものの、とても失礼な反応で、馬鹿にしているとも取れる言葉だ。


 リーシアは両親と共によく領民と接していたものの、『領主様の娘様』として扱われていた。

 カイもリーシアの前でここまで粗雑な話し方はしないため、リーシアは内心ではかなり動揺していた。

 ただカチュアが横で美しい姿勢を保っていてくれるから、平静を演じようと奮い立てた。

 もし貴族の中でしか育ってきていない深層の令嬢なら、警備員が心配したように、恐怖を感じたはずだともリーシアは理解した。

 それを理解すると、警備員達がどう判断するかに思い至った。


 警備員は生徒を守るのが仕事なので、危険だと感じれば大事に至らないように早めに排除する。

 この学園において、彼らにはその判断が許されている。

 リーシア達がこのまま怯んで男性らのペースで会話されれば、彼らは追い出されてしまうだろう。

 

 リーシアは小さく息を吸った。

 これは劇だと思いきり、自由な彼らにすぐに好感を抱いたように演じようと決めた。

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