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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
優しい人
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計画 1

「創立記念日ですか?」


 リーシアは楽しそうな友人らに、言葉そのまま聞き返した。


 年に何回か、学園が始められた日にイベントがある。

 その内の一つが創立記念日だ。


 授業がなく、校内で催しが開かれる。

 厳しい審査を受け許可を得た外部の団体や店が入り、騎士などが応援に入って警備が強化される。

 一部の生徒達もクラブ活動などを披露をしたり、技術を持つ生徒は展示をしたりもする。

 貴族的な雰囲気と平民的な雰囲気の混ざった独特なイベントで、催事の裏でどんな計画がされ、処理や準備があり、参加側との視点も学ぶ。

 祭事をコンパクトにまとめた体験型の学習だ。

 それだけでなく単純に楽しいと生徒らに人気がある。


 入学してから二度目になるものの、リーシアはそのイベントに特に興味はなかった。



 リーシアは一年目の創立記念日は半日寝て過ごした。

 一年目のリーシアは、ユレアノ達と歩こうと考えたものの、下手にうろつけばエイゼンに誘われると視て知っていた。

 午前の数時間をカチュア達と遊び、途中で疲れたと医務室へ抜け、それから寮へ帰った。

 最初から寝ていれば寮へ見舞いの打診が来るとも分かっていたため、遊びすぎた疲れを演出し、場所を移動しつつ逃れた。


 リーシアは学園に入る前、領にいた頃は両親が行う視察に着いて行っていた。

 だから祭りを特別に珍しいとは感じていない。

 庶民的な祭りの雰囲気も知っているし、貴族相手の見世物にも慣れている。

 祭りの雰囲気を短い時間しか友達と過ごせないのは切なかったが、イベント自体に執着はなかった。

 言われてそういえばと思い出した程度だ。


 近頃のリーシアはカチュアと相談しながら未来視を調節しているため、近くに控えた創立記念日をどう過ごすかは視ていなかった。

 今年も病弱を理由に部屋に引き上げた方が良いか、ちらりと考えた程度だ。



 創立記念日に関して話しかけられたのは、一ヶ月後に控えた放課後である。

 学園や外部はもっと早い段階から準備をしているが、生徒らが動き始めるのはこのくらいの時期だ。

 ユレアノも異能者としての参加があり、打ち合わせに呼ばれていてこの場には居なかった。

 むしろそのために出た話題でもあった。


 反応の薄いリーシアへ、友人らはねだるように声を向けた。


「リーシア様は去年カチュア様達と午前中に見回っただけでしたよね。

 今年は私達とも一緒に過ごして欲しいのです」

「勿論休憩しながら歩きますわ。

 一緒に遊びましょう?」

「私達もお誘いに参りましたの。

 もう予定をたててしまったのですか?」


 友人らの誘いに、リーシアはカチュアにそっと視線を送った。

 親しい友人だけでなく、挨拶を交わすだけの関係の者達も集まっている。

 リーシアはここですぐ答えて良いものか迷った。

 いくらカチュアと親しいといえ、視線で細かい打ち合わせが出来る訳はない。


 カチュアはいたずらっぽく笑って会話に参加した。


「あなた達、何が目的かしら?

 私のリィちゃんを口説くなんて」

「いやですわ!

 口説くだなんて」

「私達だってもっと仲良くしたいのです。

 そうやって独占するのはずるいですわ」


 取り合われているようで、リーシアは居心地が悪い思いをした。

 以前から親しい間柄の者が多かったが、こんな風に強く行動を共にするよう誘われるのは始めてだった。


「私と一緒だと休憩が多くてご迷惑をおかけしてしまいます。

 どうかお気になさらず計画なさってください。

 当日体調が良さそうなら私も無理のない範囲で参加させて頂きます」

「迷惑だなんて!

 そんな事仰らないで」

「私達ももっと色んなお話をしたいですし、一緒に遊びたいのですわ」

「どこを誰と回るか計画を立てましょう?

 リーシア様は気になるお店や催物はありますの?」


 勢いに当てられて、リーシアは戸惑ってしまった。

 どうしてこんな風に誘われるのかリーシアには分からなかった。

 ここまであからさまに取り合われると、どう答えて良いか困ってしまう。


「……ごめんなさい。

 もう少し期日が近付いてから考えますわ。

 早くに計画だけ立てて当日体調を悪くしてしまっていたら申し訳ないですもの。

 どうか私は不参加の前提で計画くださいませ」

「残念ですわ」

「日が近くなりましたらまた相談いたしましましょう?」

「どうか元気でいらっしゃいますように。

 お祈りさせて頂きますわ」


 残念そうに、しかし無理強いはしない友人らに、リーシアは淡い笑みを向けた。

 尽きない疑問はカチュアと相談しようと思った。



ο ο ο



 リーシアはカチュアに相談しようとしたが、カチュアはマロッドも呼んで目立たない場所に移動した。

 カイもユレアノと同じように準備に呼ばれているのでこの場にはいない。


 マロッドはリーシアを見て、珍しく苦めに微笑した。

 リーシアは何かあったのかと首を傾げた。


「まずはお礼からさせて。

 伯爵様への連絡をありがとう。

 話がすぐにまとまって、卒業後の行き先は決まったよ」

「それは良かったです。

 マロッド様ならお父様達とすぐ仲良くなれるかと思います」

「あ……そうだね」


 親とすぐに仲良くなれる、それは裏を読もうと思えば読める言葉だ。

 リーシアは嬉しそうに微笑んだ。

 そこに異性への特別な感情は見られなかった。



 正直な所、マロッドは、カイに責められユレアノに驚愕を向けられても、リーシアとの色恋について全く考えて居なかった。

 あっても友達の延長で誰かと婚約出来れば楽かなくらいの思いで、決して相手を欲する感情ではない。

 しかし二人の反応を経て、端からみればリーシアの家へ婿へ入りに頼んだように見えると自覚してしまった。

 客観的な他人事としてでなく、我が身として認識してしまった。

 リーシアを手に入れるために、自分から動いたかのような。

 そんな気まずさをきっかけに、まるでそうであったかのような想像をした。


 マロッドは先日、深い考えもなく気軽にリーシアへ伯爵への中継ぎを頼んだ。

 伯爵はそれまでは慎重に話し合いをしていたのに、娘からの一声があった途端、すぐにマロッドを受け入れると意見を変えた。

 決まった後にその成り行きを実家から詳しく知らされ、かつ家族からもリーシアを望むのかと問われた。

 家の方に伯爵からもそれとなく狙いを探られたりもしたという。


 マロッドはさすがに意識せざるを得なくなっていた。

 まるで花婿候補として迎え入れられたようで、かつ申し込んだのは自分なのだ。

 周囲がマロッドに確かめたのは、気持ちがあるのか、お互いに一生の苦楽を共にしたいのか、そんな覚悟だった。

 今までにも他の女性と婚約の打診はあったが、そんな事を問われるのは初めてだった。

 マロッドは婚約の条件に、家格や利害、あっても性格の相性くらいしか考えてこなかった。

 家に不利益がなく、可能なら親しみやすい人なら良いとしか思っていなかった。

 ――今は昔と違って、政略のみの結婚は当たり前ではなくなったのに、マロッドの中では未だそれが当たり前になっていた。

 家柄もあるし、兄達が嫡子とその次席として、家格を重視して結婚を決めていたから尚更だ。

 マロッドは恋愛について、初めて深く考えた。



 そんなこんながあって、マロッドはリーシアを見ると心が乱された。

 一方でリーシアの反応や言葉は全く今まで通りで、周囲から邪推されるような行為があったというのに気にかけた様子もない。


 普段通りのリーシアの態度を見て、マロッドは冷静にさせられた。

 周囲から深読みされて勘ぐられて、何が自分の本心か見失いかけたものの、投げ掛けられていた言葉はマロッドの中にあった感情ではない。


 マロッドから見て、リーシアは夫婦になった後の事を憂いて皆が羨むような婚約を解消するような少女だ。

 結婚に強い思い入れがあるのだろうと感じられた。

 マロッドは婚約解消の本当の理由を知らないので、リーシアが恋愛面が満たされない結婚を嫌がったと結論づけるよりなかった。


 リーシアに全く意識されていないのは、友達として付き合いが長いためマロッドでも気付けた。

 今までマロッドも、異性を異性として意識していなかった。

 だからこそ、見たままに女の子らしいはずのリーシアがマロッドやカイとも仲良く出来るのだと分かった。


「リーシアさんは変わらないなぁ」

「何マロ君も気になってきたの?」

「私よりも周りの人がね。

 色々と聞かれて自分の気持ちが自分でも分からなくなりかけたよ」

「何を聞かれたのですか?」


 心配そうなリーシアは可愛らしいと、ごく自然にマロッドは思った。

 病弱だと言う思い込みもあいまって、どこか儚げで頼りなさげな印象を抱いている。

 大人しく優しく弱々しげな少女は、以前から確かに可愛らしい存在ではあった。

 ならそこに男女の情を絡められるかと、マロッドは返事をしながらついじっと見つめてしまった。

 可愛いと好きは同じではない。


「私がリーシアさんに婚約を申し込むためにヴィジット領での勉強を願ったのではないかと」

「まぁ……」


 リーシアは思わずというように声を上げた。

 驚きより困惑の方が大きそうに見えた。

 照れも恥じらいもない。

 マロッドはその反応がおかしく感じられて微笑んだ。

 自分達の関係は、やはりこちらの方が似合って見えた。


「伯爵様も気にしていたよ。

 私の両親は探りを入れられたらしい」

「それは……大変失礼をしました。

 お父様達にはすぐにでも誤解だと手紙を出しますわ」

「私は困らないから任せるよ。

 話はしてあるから大丈夫だけど、リーシアさんの都合で好きに話していいよ。

 知っての通り、どうにでもなるとのんびりしてきた私には婚約者も気になる人もいないし」


 カチュアはマロッドの言葉に、おやっと思った。

 マロッドは今までも話の流れでついでのように、友情の延長で結婚しようかと言う事があった。

 それは本当に言葉通り、深く考えず親愛から口に出されていた。

 本気であるほどに反比例して軽くなる言葉だった。

 今も熱い情は含まれていない。

 しかしカチュアには、今のマロッドの言葉には確かな芯が感じられた。


 ただリーシアはそれに気付かず、いつも通りに言葉をかけた。


「マロッド様、結婚は大事な人生の分岐です。

 マロッド様は友達を伴侶にするのに向いていないと思いますわ」

「もうよく分かってるよ。

 大丈夫」

「そうなのですか?」


 夫婦としての未来を想像してみて、マロッドは今までと少し考えを改めていた。

 もしリーシアと結婚が成立したら、リーシアは友情でなく男女の愛を求めてくるだろうと思えた。

 子を成すという義務だけでなく、心の在り方を求めてきそうに思えた。


 マロッドは友達と夫婦を両立して振る舞うのは、自分には無理だと気付いた。

 そもそも相手が自分と同じ未来を望むか分からないのだ。

 友達の気分のまま仲良くやっていこうと自分が望んでも、相手が同じとは限らない。

 夫として愛を請われる想像をすると、育ちきった友情が気分を盛り下げた。

 自分の心の中の友情に恋愛を加えられる気がしなかった。 

 両立出来ないかもしれないなら友情が良いと選択した。

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