計画 2
自己完結しているらしいマロッドを見ながら、カチュアは集まった目的へと話を移した。
「こっちは第三王子狙いだったわ。
マロ君の方はどうだった?」
「申し込みをしている家は多そうだね。
三才程下の嫡子ではない子達がメインみたいだよ」
唐突な会話に理解が出来ず、リーシアは素直に尋ねた。
「何のお話ですか?」
「リィちゃんの話よ。
ちょっと整理するわね」
カチュアはそう言って、リーシアに説明もないままマロッドと言葉を交わした。
リーシアは二人の話が終わるまで、静かに聞いていた。
二人の会話が終わる頃、リーシアも何となく概要は掴めていたが、理解しがたい内容だと感じていた。
「あの、それが私の話と言うのは……」
「リィちゃんの話よ。
まずリィちゃんの人気が上がった裏の話をしましょうか」
二人は様々な思惑でリーシアへ近付こうとする人々の話をしてした。
リーシアは人気とは何かと考えたが、黙って耳を傾けた。
「エイゼン君への芝居でリィは一部の女の子達に尊敬されてたの知ってる?」
「いえ……」
「普段は令嬢として淑やかなリィが、あんな正反対な演技をこなすんだもの。
自分達と似たような性格なのに大胆に演技するリーシアが輝いて見えた。
って女の子達が結構いてね」
リーシアは追い詰められて思い余って悪女演技をしていたのだが、端からはそんな風にも見えたのかと驚きを覚えた。
猫被りで言えばカチュアの腕前も高い。
しかしカチュアは素が自由奔放な方で、リーシアは素が令嬢然とした方だ。
少女達が自分を重ね合わせるには、リーシアの方が気持ちが近く、感動も大きくなった。
「演技って所も心に響いたって。
外に出せない内面を殺すんじゃなくて、自分を保ったまま演じられるようになればって。
性格と真逆の演技を目の前で見せられて勇気付けられた子もいたみたいよ。
我慢しろって口で上から言われるんじゃない、目的のために振る舞いを変えるのを目の前で見る事に意味があったのよ。
しかもその頑張りの結果、リィは望んだ婚約解消を手に入れてる。
リィは輝いて見えたのよ」
予想外の評価で、リーシアは相槌も打てなかった。
カチュアは構わず続けた。
「これがまず純粋な好意で近付いてきてる子ね。
次に第三王子やエイゼン君狙いの子達」
「ルクレイス様と、どんな関係が?」
「第三王子の興味がリィにあるのは今は公然の秘密なの。
だから第三王子の視界に入りたい人はよってくる。
それにリィが全く第三王子に興味ないでしょ?」
「……えぇ」
マロッドも一緒にいるため、カチュアは二人で深めた会話が無かった前提で話している。
リーシアは戸惑いながらも肯定した。
「第三王子は平民と結婚するって言ってたのにリーシアを気にしている。
となると第三王子を狙いたい子達は自分にも可能性があると希望を持ってしまう。
平民じゃなくて貴族で良いならってね」
「そうですね……?」
「ここでリィがエイゼン君を捨てたのが効いてるのよ」
「捨てただなんて……」
「リィは納得出来ない相手とは何をしても結婚したくない、そういう信頼が出来てしまっているの」
「それは……そう、ですね」
リーシアは結婚に限らず、誰かを不幸にしそうな選択を選べない。
両親にも許して貰えているため、意思に反した結婚はまずあり得ない。
肯定したリーシアに、マロッドはどこか面白そうな眼差しを向けた。
しかし二人の会話に口は挟まなかった。
「第三王子がその気になってもリィが頷かなければ縁は繋がらない。
ならリィの気持ちが第三王子に向かない内に、自分が第三王子の目に留まれば良い。
リィに近付いく事で第三王子の視界に入りたい子達は創立記念日を利用しようとしているの。
日常より非日常の方が心は動かしやすいから、心に響く演出でも企んでるかもしれないわ。
時間をかけてじっくりと取り組む案件でもないから急いでいるし」
「そうなんですか……」
リーシアは特に言える事がなかった。
自分の力で視た場面なら臨場感があるが、言葉で人伝に聞いても実感は沸きづらかった。
「応援はしますが……駆け引きは関係の無い所で行って欲しいです」
「何言ってるの。
リィちゃんが一番の関係者でしょ」
「……そうなるのでしょうね」
早く穏やかな未来に向かいたいと、リーシアは小さく溜め息をついて俯いた。
しかしカチュアは更に追い討ちをかけた。
「所でリィは実家に婚約の申し込みが大量に届いているの知ってる?」
「え?」
両親からは何も聞いておらず、リーシアは動揺をあらわにした。
「私にですか?」
「他にいないでしょ?」
「どうして?」
カチュア達のお陰で大事になっていないものの、リーシアは学園で暴れている自覚がある。
高慢で我儘な女を演じ、淑女とは言えない奇行を繰り返した。
そうでなくとも度々熱を出して授業も受けられない体の弱さだ。
子を繋げたいと考えればどうしても倦厭される。
疑問を投げ掛けるリーシアに、カチュアは困り顔を返した。
「ヴィジット領と縁が欲しいらしいわ。
私の想像してた以上にリィの実家は人気があるのね」
「……」
「それとエイゼン君狙いの家も動いてる。
彼、諦めてないでしょ?
リィに相手が出来ればエイゼン君は諦めざるを得ないから、早く事態を動かしたい人達もいるみたい。
コーラス家に直接手を出したら宰相が敵になるしね」
「……何と言えば良いのか……一生懸命、ですね?」
リーシアへの恋愛感情が欠片もない説明に、リーシアは不満も悲しみも出さなかった。
強がった訳でなく、長年愛されない未来に苦しめられたリーシアにはそれが当然だったからだ。
「そういったのがまた創立記念日に関わってくるんだけど、リーシアを連れ出してお見合いをさせたいらしいのよ」
理解できない言葉に、リーシアは言葉もなく首を傾げた。
分からなさすぎて、何をどう尋ねれば良いかも分からない。
「普段はユレちゃがリィから離れないでしょ?
創立記念日だとユレちゃが異能者の催しで離れる。
なら私に用事を作らせればリィを連れていけるわ」
「着いていきませんよ……?」
「知らない男に誘われればそうでしょうけど、女の子なら?
知っている友好的な女の子なら断らないでしょ?
一緒に行動する間に男子と合流されたり、どこかに置き去りにされたら?」
「……」
「普段と違って授業もないから、誰がどこにいても、姿が見えなくても問題にされにくいわ。
警備の人員が増やされていて安全だし、見ている側はデートかな位にしか思わないわ。
リィと行動しているはずの女の子が黙って隠れてさえいれば、リィはその子と遊んでいる事になるからね。
そうやって女の子に誘わせてリィちゃが納得するように、口説こうと計画してる奴等がいるみたいよ」
「……」
リーシアは何と答えれば良いか分からなかった。
自分の知らない所で、自分を囲い混むように計画が張り巡らされているなんて、飲み込めるものでなかった。
「私、去年のように部屋で休んでいた方が良いのかしら」
「その辺りはまた相談しましょ」
カチュアがマロッドに見えないように手で合図をした。
リーシアは支えて貰える安心感で、ほっと安堵の息をついた。
黙って聞いていたマロッドが口を開き、補足をした。
「リーシアさんは三才くらい年下の男の子を見たら気を付けて。
制服を着ていないからすぐ気付けると思う。
同学年の男子は相手が決まっている人が多いから、年下の子が候補として動くみたい」
「外部からの参加は、審査が厳しいと聞いてますが……」
「厳しいけど、生徒や有力者の家族は大体認められるから。
弟や従兄弟をリーシアさんを会わせて欲しいと、何人かに頼まれたよ」
「ご迷惑をお掛けしてすいません……」
「婚約の内定かと探られた時よりは話しやすかったかな」
マロッドが冗談めかして言ったため、リーシアも笑う事が出来た。
「私達の方でも気を付けておくよ。
気になる事が出てきたら伝えるね」
私『達』と言うのはマロッドの男友達らだ。
リーシアとも友達である男子生徒もいれば、あまり話した事のない相手もいる。
「ありがとうございます。
私のために」
「気にしないで。
私も含めて皆一応は紳士として教育を受けてるから、女性の助けになるなら苦労とは思わないよ」
「一応、なのね?」
カチュアがからかうように突っ込んだ。
マロッドはおおらかに笑った。
「そう、一応だよ。
可愛い女の子の役に立てれば嬉しい連中だから、お礼を言って貰えれば十分だよ」
「まぁ……マロッド様、そんな……お礼はしっかりとさせて貰いますわ」
面と向かってさらりと可愛いと言われ、リーシアは戸惑った。
例え腹の知れた友人同士でも、社交の場では挨拶として誉め合うが、学園内ではその限りでない。
マロッドは軟派な事を軽く口にする性格でもない事もあって、マロッドからそんな風に言われたのは初めてだった。
「そうだね。
嬉しそうにしっかりと笑ってくれたら、皆それで満足だよ」
「……そんな風に、言わないでください」
マロッドは普段通りに親しげに笑った。
特別な意味が含まれていないのは分かっていたが、リーシアは女の子として持ち上げられて、ほんのりと嬉しくなった。
カチュアとマロッドの助けを得て、リーシアは今の自分を取り巻く物が見えてきた。
リーシア本人がどうと言うより、リーシアに関係する誰かを巡って何本もの手が伸ばされている。
いくら自分の未来を視ようとも、直接関わらなかった周囲も変わっていく。
カチュアに未来視を相談した事によって情報としてもたらされた。
一つを調節している間に、他の幾つもがずれていく。
ただこの周囲の思惑のほとんどが自分に関わってこないと、リーシアは知っている。
教えられる前も、教えられた後も、おおまかな未来は変わらない。
リーシアに直接関係してくる親しい人々は、リーシアが気付かない内に悪意を遠ざけるほど優しい。
また多少の悪意では行動を変えないほど意思が強い。
逆に向けられる強い悪意も変えられない。




