魔界典章・我が故郷は魔性の地 3
いきなりぱっと手を離すカーラ。少女は涙目となり、はあはあと荒い呼吸をしている。そして、股間には濡れ染みが・・。
「おい、お前。私を襲ったのは誰かの差し金か? 答えろ! 」
少女の背に腰かけたまま問いかける。
「はあ、はあ、・・え? 差し金って、何? 」
(こいつは奴等の言っていた「試練」とは無関係なのだろうか? )
「何言っているのか全然分からないっす。お、おいらはただの可愛い美少女っす」
「・・・あのなあ、『可愛い美少女』はいきなり人の乳に齧り付いたりしないんだよ」
ぽかりと握りこぶしで頭をどつく。
(試練か・・どうせ禄でもない事をさせるつもりだろう)
で、ふと思いつく。少女に向き直り、
「なあ、お前。何か当てが無いのだったら私について来てもいいぞ。別に無理にとは言わんが」
少女、カーラの意外な言葉に驚いたようである。無理もない。
「え?!本当? いいんすか? 」
すっと立ち上がり、いかにも嬉しそうに顔を輝かせる。
「ところでお前・・・」
問いかけようとするるカーラに少女、
「あ、おいらはスティハというっす。姉さんは? 」
「カーラだ。で、お前スティハは何であんな所でぶっ倒れていたんだ? 」
スティハ、少しためらいつつ、
「ちょっと訳ありでして・・その・・」
どうも答えたくない理由でもあるのか、言葉を濁す。
カーラ、少し呆れながら歩みを早める。すると、
「何やら集落の様な物が見える」(そういえばここの世界は住民とか居るのだろうか・・)
多分持っている貨幣はここでは使えないだろうな、と思うカーラ。
(正直嫌だが頭下げてお願いするしかないか・・)
ふとスティハを見るとこちらに来ようとせず、何やらもじもじしている。
「・・お前もしかしてここの村の食糧盗もうとしてヘマこいたかしたんだろう? 」
「・・っ!?そ、そんな事・・」
「あるんだな? 」
「は、はい・・」
さっきとは打って変わってしおらしくなるスティハ。
「いい。私が何とかするから」「お前はここら辺で待ってろ」(何でそこまでしてやるんだ? 私・・? )
村に立ち入り一軒の家の前に来たカーラ。扉をこんこん叩きつつ、
「もし。どなたかおられるか? 」
数秒の間を置き戸が開かれた。そこから訝し気な顔を覗かせたのは一人の(人間でいえば中年くらいなのか何しろ魔の者であるので正確な年齢は分からない)男。
「あのう、私めは旅の者でして・・えーと、食べる物が尽きてしまって困っておりまして・・、その、少し分けていただけたらと・・」
慣れぬことを慣れぬ口調で揉み手しながら申し立てるカーラである。
彼はそんなカーラを見渡したと思いきや「待ってろ」と言いつつ奥に入って行った。そして、手に幾ばくかの食品と思しきものを持って戻って来た。
「差し上げられるのはこのくらいだが不足かな? 」
意外な展開に一瞬きょとんとするカーラ。
(何だ? 魔の界の者ってえらく親切じゃないか。結構意外だが・・)
「あっ、どうもありがとうございます。おかげで助かります。それにしてもえらく親切にしていただいて・・」
柄にもなくぺこりと頭さげる。
「この地では旅の者には施しを乞われたら与えることになっておるのでな・・」
改めて礼を言いつつ退散しようとするカーラに男は話しかける。
「時に旅のお方、道中化外の者を見かけませんでしたか? 」
「ケガイ? って何? 」
いきなり意味不明な言葉が出てきたのできょとんとするしかないカーラ。
すると、男、信じられない、というような顔で
「あんたがどちらからいらしたのか知らんが、ここ魔界における化外を知らんなどとはちと考えられないが・・」
カーラ、これは何かやばいかもしれない、と思い
「えー、ええと私の今迄いた所はあまりそういうのがおりませんかったのでー・・」
しどろもどろになりつつ言い訳めいたことを言う。
「それは実に羨ましいですな。あんな汚らわしい奴等がおらぬとは。今日も不届きにも我々の食料をくすねようとした輩がおって。叩き殺しやろうとしたがまんまと逃げられてしまって・・」
心底忌々しそうにしている。
(まさか、スティハ、あいつが・・?)
「さあ、別にそれらしき者とか見ませんでしたが」「もしそんな不届きななのが襲ってきたらぶちのめしてやりますよ」
さっさと退散しようとするカーラ。
「あっ、姉さん、食べ物持ってきてくださったんですね。さすがっす」
カーラの姿を見とめると駆け寄って来たスティハだった。
「・・なあ、スティハ。ちょっと聞いていいか? 」
少々渋い顔つきのカーラ。
「え? 何っすか? 別に何でも聞いてもらっていいっすよ」
持ってきた食べ物、穀物の粉を捏ねて焼き上げた感じの物、にかぶりつきながら答える。
「あのな、『化外の者』って何だ? 」
スティハ、手にしていた食べ物思わず取り落とす。
「・・・姉さんはどちらからいらしたんです? もしやここの世界とは別の所から来たとか? 」
「私は今まで人の界に居た。なのだが、少し訳あってこっちの世界に来るハメになったというか・・、そんな感じで・・」
驚き思わず目を見開くスティハであった。
「姉さんは『人』なんすか? 」




