魔界典章・我が故郷は魔性の地 1
カーラは一人郊外の荒れ地に来ていた。その顔には焦燥と不安が垣間見える。実に彼女らしくはない。そのまま歩き出す。歩くうちにだんだんと湿地のような場所になってくる。
「ふん、こんな辛気臭い場所に呼びつけるとはな・・」
いかにも不快そうに吐き捨てる。
話は二、三日前に遡る。
例によってキルミスターの城でだらだらと過ごしていたカーラであった。
「あー何も無いとやっぱ暇だわー。かと言ってレイミにちょっかい出すとえらい剣幕で怒られるしなー」
すると、
「カーラ様当てにお手紙が来ております」
城の使用人が手紙を届けに来たのだ。
「手紙? 私に? 」
心当たりは全くなかった。とりあえず開いて見てみる。
『不肖の子、カーラへ 用件がある 〇日に以下の場所に出向くように』
(・・・何だこれは? ふざけてんのか? )
手紙を丸めて放り投げようとするカーラ・・。
(いや・・単なるふざけならわざわざこんな物寄こさないか・・)
考え直す。それにここしばらく気にかかることが立て続けに起こっていることを考慮すると何かしらの手掛かりが得られるかもしれない。何者かによる罠かもしれない。この所落ち着いたとはいえ、私を狙う輩はまだ多く居るのも確かだ。
「何が出てくるか分からんが・・まあ、仮に敵が出てきたりしたら潰せばいいだけの話だ」
そして、今日がその指定された日なのだ。しかし、まだ相手の姿が何も見えない。
(いないのか・・舐めとんのかクソが・・大体用があるんならそっちから出向けって話だわ)
「おーい、わざわざ来てやったぞ。早く出てこい」
シュッ!
風切り音を立てて何かが飛んできた。
間一髪かわすカーラ。湿気った地面が抉れる。すると次は別の方向からきた。
(二人居るのか?)
慎重に辺りを見渡す。
「そこかッ!?」
見当を付けて気弾をぶち込んでみる。と、ほぼ同時にその場に飛び寄るカーラ。するとそこに居たのは一人の女。ショートボブの髪の前を片側だけ垂らし、その服装はというと、ノースリーブの袖に胸元を開き気味にした感じで丈は短く腹部を出している。下はというと短めのスカートに似たものを付けている。何というかあまり見かけない感じのものだ。そとてカーラが目ざとく見つけたのは・・少し尖り気味の耳。彼女は一見若く見えるが・・。
(こいつ、魔の者か? 或いは私と同類の・・)
そう考えつつも彼女の背後に回り、その腕を後ろ手に締め上げる。
「おい? お前何のつもりだ? でもってどこの者だ? 答えろ! 答えたくないのなら少々痛い目をみることになるぞ」
「い、痛い。お願いだから答えるからそんなに痛くしないで」
彼女が口を開いた。そして彼女らの前方よりもう一人の人物が姿を見せた。その者は・・今締め上げている人物と瓜二つだった。ただ前に垂らしている髪の向きが異なっている。彼女らは双子か何かなのだろうか?
「突然の無礼はお詫びいたします。だからフロトサムに酷い事しないで! 」
嘆願する双子の片割れ。
「私を試したつもりなのか? 舐めた真似してくれるな、え、おい?!」
カーラ、捕えているフロトサムと呼ばれた者の胸を揉み始めた。その上彼女の耳を舐り出す。堪らず、
「ん、んあっ」
声を上げる。そして、もう一人何と今度はカーラの脚に縋りつき、
「不快な思いをさせてしまったのは謝りますから。もう許してください! 」
半泣きになって詫びる彼女。
「あー分かった、分かった、分かったから離せ」
いい加減、シラけてしまったのか、本来の目的を思い出したか、投げやりになるカーラであった。
カーラはかったるそうに付近の倒木に腰かけている。その目前に二人が立っている。
「呼びつけたのはお前らか? 用があるんならさっさと言え。私は別に暇じゃないんだ」
「私はフロトサム」
「私はジェストム」
「「魔導女帝・セパルティラ様に仕える者です」」
ハモりながら答える二人。
「詳しい事情は居城にて申し上げたいと思いますので、お付き合い願いますか? 」
「『居城』って? お前らどこに連れて行くつもりだ? 」
さすがに警戒するカーラ。
「ご心配なく。すぐに行き帰り可能ですから」
言うなりその双子、近くの何もない空間に互いに手をかざしたかと思うと、空間が歪み、何やら穴の様な物が姿を現した。
(!?こいつら、空間移動の能力あるのか? )
「「さあ、参りましょう」」
二人同時に言う。そして、カーラの手を取るのであった。
「『参りましょう』って? おい?!勝手に話を進めるなよ」
あわてるカーラだがすでに穴の中に入っていく。
「っつ!?」
軽く立ち眩みを覚えるカーラ。
「「着きましたよ」」
あたりを見回すと明らかにさっきまで居た土地とは違っている。
「さすがに早いな・・」「しかし、ここは・・? 」
何やら見た事も無いような植物が周りに生えている。しかし、一番違和感あるのは・・。何と、空の色が毒々しさをも感じさせるような紫色をしているのだ。
「ここが魔界というやつなのか? 」
問うてみるカーラ。
「はい、そうです」「我らの居城もすぐそこですよ」
事も無げに答える、フロトサムとジェストムの二人。
確かに、一種異様な外観の城が目の前に見えている。この作りはいままでカーラが目にしたことのあるいかなる城にも似ていなかった。やはり、人に非ざる者のセンスなのだろうか。
「趣味の悪いデザインだ、絶対住みたくないわ、こんな城」
中に入り、案内された先は広めの部屋だった。普段何に使われている部屋なのだろうか、内部はやはりというべきか、よくわからない異様な感じの装飾が施されている。
中には二人の男女が居た。男の方は濃い目の灰色のロングの髪に血の気の少なそうな肌の色をしている。
ただし、人と異なるのは頭部に生えている角・・明らかに魔の者とわかる。椅子に腰かけているが、背丈はかなりありそうだ。人間ならばイケメンの部類であろう。
女の方・・彼女が双子が仕えているという「女帝・セバルティラ」なのであろうか? 桃色がかかったような色の波打った髪、その瞳は人よりも獣に近い感じだと、カーラは思った。そしてやはり頭には角が。
「フロトサム」「ジェストム」
「「カーラ様をご案内し、只今戻りました」」
双子ら、両名に対しうやうやしく申し上げる。
「ご苦労だった。お前たちは下がってよい」
「「ははっ、セパルティラ様」」
やはりその女がセパルティラなのか。
部屋から退場していく二人を見つつ、男の方が口を開く。
「カーラよ、わざわざ呼び立ててすまぬ。まずはそこに腰かけてくれ」「私はウェグウェイ、ここ魔界の君主の一人である。そして彼女はセパルティラ。やはり君主である」
カーラ、いきなりのことに何が何だかさっぱり分からないでいる。それでもようやく、
「君主って? 何人か居たりするのか? 」
かろうじて質問する。
「順を追って話そう。今現在ここ魔界には大きく二つの勢力が存在する」
話始めるウェグウェイと名乗った魔界人・・。




