狂乱の魔人 狂気のスラッシュ感染 5
「おっ? おっ? おごっっっ!?」
いきなり奇怪な声が聞こえた。皆一斉にその方向に向く。見るとザイクロファーが苦しんでいるようだ。しかも何としたことか、身体のあちこちがまるで焼けただれたように波打ち、異臭と煙のようなものを発している。
「な、何? 何が起こっているの? 」
何が何だか分からない、と言いたげなレイミ。
「あら、ようやく効いてきたようですね。先程は何も無かったので駄目だったのか、と思いましたが・・」
答えたのはミメント。
「おい、これは一体どういう事なんだ? 説明しろ」
さすがにカーラも理解の外にいるようだ。
「彼は魔の物の力によって『不死の力』を得た、とおっしゃっていました。ならばと、わたくしが先程彼に食らわせたのは魔界の炎の魔法。そう、魔の力にダメージを与えるには同じく魔の物の力なら可能ではないかと判断いたしました。どうやらその判断、正解だったようですね」
(・・何かよくわからんがそういう理屈が成り立つのか? ・・)
そうしているうちにも、ザイクロファーは苦しみ悶え続けている。どうも与えられたダメージと再生能力がせめぎ合っているようだ。
「さすがに見ていられない。一思いにとどめ刺してやるべきだろう」
マノンが堪りかねたのか口を出す。そして、どよめく間もなく大剣「ラウダーザンヘルマークⅡ」を抜き、一閃の早業でザイクロファーのそっ首を斬り落としたのだ。
転がり落ちる首。胴と首、双方の切り口がぶすぶすと泡立ちにも似た状態になっている。
「うっ・・ぐぐぐ・・」
生首と化したザイクロファー、何やらこの期に及んで言う事あるというのか、無理しているように口を開く。
「ぐぐっ・・・俺はかつては顔も不細工、身体も貧弱で体力も無いような男だった・・。そんな男がもてるわけもねえ・・。言い寄っても全く相手にもされやしねえ・・。しかし、女とはヤリたい、付き合いたい、欲しい・・。どうしようもないまま悶々としていた俺の所に奴が現れた。奴は言った。『お前に力を与えてやろう。さすればもう我慢する必要は無い。したい、やりたい放題何でもできるようになる』と。そうよ。文字通り俺は悪魔に魂を売ったんだ・・」
「俺は無敵の力を得た。今まで俺を見下し馬鹿にしていた奴等も皆俺を恐れ敬い従うようになった。もちろん女ともやり放題になった。何しろ手前から股開くようになったしな・・実にサイコーな気分だったわ・・」「・・俺が力を得るために引き換えたモノは・・」
「あのー別に誰も自分語りしろ、なんて言っていないんですけど」「お願いだからさっさと死んでね」
言うなり、カーラ、まるでサッカーボールを蹴るが如くザイクロファーの頭部にキックを咬ます。飛んだ頭部は数メートル先の岩盤にぶつかり、ぐちゃっと音を立てまるで熟し過ぎた果実の如く潰れたのだった。
「うわっ?!何だこれは? 」
見るとマノンの剣がとろけ出し、まるで溶けたアイスキャンディーのような状態になってしまっている。
「あら、相手に触れた物も影響してしまうのですね」
呑気な口調のミメント。
「ねえ、カーラ、あいつの口から力を与えたという『奴』のことちゃんと聞いてから始末した方がよかったんじゃないの? 」
「それは私も気になりましたが・・」
今度はレイミとフイリンが言ってくる。
「いや、あんな自分語りなんか聞いているの苦痛だし・・、別に細かい事はどうでもいいし」
「さて、事も済んだし帰るか」
「あ、あの・・」
シイナが何やら言いたそうに来る。
「ありがとう、貴方たちのおかげで姉や皆の無念を晴らすことができた」
深々と頭を下げる。そして、レイミとフイリンの方に向き直り、
「それから、そこのお子様二人。私はこう見えても貴方らより年上なのだからね」
「えっ?!嘘っ?!」
「ええっ?!そんな・・?!」
意外な言葉に驚くのは二人だけではなかった。が、次の瞬間、彼女の姿は一陣の風と共に消え失せていたのであった。
奴らのアジトにはやはり十数人もの人が捕えられていた。呆れたことに年頃の女子ばかりでなく少年までも混ざっていた。改めて奴、ザイクロファーとその手下どもの恐ろしさ悍ましさに戦慄するのだった。
「でもやはり気になるのではないですか? あの者が得た力の事」
帰路での魔動車での車中、ミメントが話を蒸し返す。
「・・・お前、何か知っていたりするのか? 」
訝し気に聞き返すカーラ。
「うふふ、どうでしょうかねえ・・ってうううっっっ」
キレたかいきなりミメントの首絞め出すカーラ。
「何勿体ぶっているんだよ! 私はそういうのが大嫌いなんだ、こん畜生が! 」
「うっっううっ、ご、ごめんなさい・」
「あーっ! 運転運転! 危ないってば! 」
涙目のミメント、ようやく語り始める。
「・・これはわたくしの想像ではありますが、恐らく、魔の物の一勢力が関わっているのではないかと・・」「つまり貴方の半身、父方の者たちですね」
「今まではどちらかというと魔の者は人間に対し不干渉を貫いていたと思います。しかし、最近どうもそれが変化してきているのではないかと・・」
「別にどうでもいい。私は魔の連中とは関係ない。奴らが何しようが私に害を及ばせないのなら別に構わんし、大体生まれてこの方あいつらと会ったことすらないしな」
本気でそう思っているのか、それとも何か思う所があるのか、カーラの真意は分からない。
晴れ渡る田舎の道を魔動車はひた走り続ける。
この時はその後に来るであろう過酷な展開に思いを馳せる者はまだ誰も居なかったのだった。




