戦慄の王都・道化を憐れむ唄 2
「もう試合開始の時間が迫っていますので、急いで闘場にいらしてください」
係りの者が急かす。(いきなり試合? 開会式とかやらないのか? )疑問は尽きないが、それでも渋々と立ち上がり、闘場に向かおうとする。
「カーラさん、あの・・」
不安げなフイリン。両手を組んでいる。
「ルウカスのバカが何企んでいるか知らないが、野郎がその気なら受けて立ってやるってもんだ」「行くぞ」
再び覆面を被り、すたすたと歩んでいくカーラ。後を追うフイリン。
その闘場は、いかにも急ごしらえといった風だった。城の敷地の・・恐らく普段は兵たちの訓練施設か何かとして使われているのであろう・・広場に無理やり設えた感じであった。観客のための席も、椅子を持ってきて並べただけ、にしか見えない。その観客だが、どう見ても大半が城の兵士や使用人と思しき者たちだ。何なのだ、街で宣伝していたんじゃないのか? で、肝心のレイミ姫であるが・・あれ? いない? ・・どうしたのだろうか?
司会の男が、名を読み上げる。
「東コーナー、凶悪死刑囚、ボルディアーノぉぉ!! 」
観客の騒めきと共に反対側から対戦者がのっそりと登場してきた。かなりの巨体に怖ろしくごつい顔立ち、扁平な鼻、左右繋がっている眉、針金の様な口髭顎鬚、獰猛な肉食獣を彷彿させる目、そして、薄い囚人服の上からでもよく見れる分厚い胸板と剛毛、さらに鎖の付いた鉄球を手に下げている。
(何だ? いきなりルウカスが出て来ると思ったら・・。先にあれをぶつけて出方を探る気なのか? )
「そして、彼に挑戦するのは、西コーナー、謎のマスクドウーマン、ミスXぅぅぅぅっ!!」
「ルウカスよ? これはどういうことだ? あの囚人がカーラめを辱めるとでもいうのか? 」
ここは闘場とも観客席とも死角となっている片隅の場所。そこにホークウィンド王とルウカスが居た。
「いえ、とんでもございません。あれはあくまで前座にてございます。本命の私が最初から出てしまっては面白くありませんので。観客の興味を引き付けておくことも考慮いたしませんとね」
自信たっぷりに弁を振るうルウカス。
「ちなみにあの死刑囚・ボルディアーノには『手段を択ばず何をしてもよいし、相手を負かしたら好きに扱ってよい、さらに、優勝の暁には無罪放免に処す』と申してあります」
「勝手な真似を! もし奴が本当に勝ってしまうということが・・」
「ご心配なさるな、陛下。奴ではカーラには決して勝てぬでしょう」
闘場の入り口付近でひたすらはらはらしているフイリン。
(カーラさんのことなら心配しなくても大丈夫と思うけれど・・。でも何かとても不吉な予感が・・)
「フイリン!?」
突然何者かに声を掛けられビクッとする。
「え、えーっと、私はフイリンなどという者ではございません・・。私は謎の覆面格闘家、ミスXの・・」
言いかけて、顔のマスクを探るが・・(しまった! 部屋に置いてきてしまった)
「フイリン、あなたカーラと居るうちにボケ度増したんじゃないの? 」
聞き覚えのある声。もしや・・。
「あっ!?あーレイミさん・・」
そう、声を掛けたのは懐かしのレイミ姫その人だった。
「うっううっ・・会いたかったです! 」
思わずひしとレイミに抱き着く。そして、感極まり、涙が止めどなく溢れ出す。
「私も、会いたかった・・」
レイミも負けじとギュッと抱きしめる。
「そうだ、折角の再会だけどそれどころじゃないんだった。ルウカスが何やら企んでいるようだし、マノンがその辺探ってたようだけど詳しいことよく分からないみたいだから・・」
「あの、レイミさんでもその辺何とかならないのでしょうか? 」
ルウカスの所業は、王の娘であるレイミならどうにかできるのではないか、と思うのであるが、被りを振るレイミ。
「それがあの人は完全にお父様の後ろ盾で動いているから。お父様は最早私の言う事に聞く耳持たないし・・。あと少し気になることも・・」
何やら言葉を濁すレイミ。
「ミスX、いやカーラさんならその辺何とかできそうな気がしますが」
「だといいんだけれどねえ、今回は一筋縄ではいかないような気がするわ・・」
(ああ、アンジュエラ様、カーラさんをお守りください・・)
自分にできるのはただ祈るだけしかない、というのをもどかしく思うフイリン。
観客席からの歓声も碌にない。
(ああ? なんだこれ? 折角の格闘技大会なんだからもっと盛り上げろよ)
「ぶっへへへ、ぼめぇ中々いい体してんじゃねえか。こいつあラッキーだぜ。ブォデ様がたっぷりといたぶってやるぼ! 」
ミスXことカーラに向かって目を血走らせながら突進して来る、凶悪死刑囚・ボルディアーノ。
「なにしろ、でめぇを殺れば無罪放免になれるからなあ。もぢろん殺る前にたっぷりと楽しませてもらうで。・・うぁを、もう辛抱たまらんんんん」
非常に嫌な事にこの野郎、誰の目にも分かる程股間をビンビンにたぎらせている。
『このボルディアーノは明らかになっているだけでも500件以上の殺人・強姦・強盗を繰り返している凶悪犯罪者です。その恐ろしさはすこぶる付き。さあ、挑戦者・謎の覆面ウーマン・ミスXはどう立ち向かうのか~~~?!』
無理に盛り上げようとする実況。とりあえず構えを取るミスXことカーラ。
(こんな野郎はその気なら一撃だが、少し観客にサービスしてやるか)
「手足の骨砕いてからぶち犯したるぅう! 」
鉄球がカーラ目掛けて飛んでくる。地面に激突する寸前に大げさに飛びのき、ゴロゴロと転がってみせるカーラ、もといミスX。すると、若干ではあるが、観客席から感嘆の声が上がった。
そして、素早い動きでボルディアーノの背後に回り込み、膝の裏に蹴りをかます。
「んぐを!?」
堪らず前のめりに倒れるボルディアーノ。
「おい、バケモノ。私とヤリたいのか? だったらこの覆面剥ぎ取ってみろよ。できたらヤラせてやるよ」
そして、思い切り奴の脇腹に蹴り入れる。
「ぐげえっ! 畜生この糞アマーッ! 調子こいてんじゃねえぞ! 」
すかさず立ち上がり、再び鎖付き鉄球を手にし、今度はそれをミスXことカーラに振り下ろした。と、それを何と片手で防いでいるではないか。むろん、"気"の力によるものであるが、あまり派手にそれを使うと正体がばれてしまう恐れがある。ましてや、かつてカーラの技を数多くのこの城の人間が目撃しているのであるから。そして、"気"力で砕け散る鉄球。ボルディアーノ、残った鎖だけを手に持ち、呆けている。
「どうした? これでお終いか? 芸の無い奴だな」
指をくいくいと動かし、挑発するミスX。はっと我に返り、今度は鎖を両手に持ち、それで彼女の動きを封じようとする。すると、あっさり鎖を腕ごと胴に巻き付けられ、そのまま引き倒されるミスX。「ああ」という客席からの声も聞こえる。
「ぐふふ、早速その覆面剥ぎ取って面を拝んでやるぼ。わざわざ覆面して面隠すとはよっぽどのブスなのが・・、まあウォデは〇〇〇さえ付いていればどうでもいいげどなぁ」
これはピンチか?




