運命の翼・飛翔する戦士たち 3
「日が暮れてしまったな」
宵闇の中、カーラとフイリンを乗せた魔動車が街道をひた走る。クレイドフルの城で見つけた(正確にはミメントに押し付けられた)「エントムドの光」を換金しようとトアオミの街を回ったが思うような値にならず、別の街に移動しようとしているのであった。
市街地を抜け、周りは森や林、たまに草原が見える程度となった。
「あのお婆さん、お気の毒でしたけれど形見を渡せて良かったですね」
「ああ・・そうだな」
何か気の抜けたような返事である。やはり別れたレイミらの事が気になるのであろう。
「なあ、フイリン」
「はい? 」
「お前もレイミたちと一緒に行ってもよかったのだぞ」
「いえ、そうしたらカーラさん、一人になってしまいますし・・」
「・・つまらん気を使うな。私は一人の方が慣れているから・・」
しばらく沈黙が続く。
「あのルウカスという人、どうも私やマノンさんの事疎ましく思っているみたいでしたし・・」
ぽつりと呟くように言うフイリン。
「ああ、ああいうタイプの野郎は信用ならん。口ばかり達者で腹に一物あり、という感じだからな。お前も変な男に引っかからないように気を付けろよ」
それとは裏腹に夜風が心地よい。このまま夜通し走ってもいいかと思わせる陽気だが、腹も減ったし風呂にも入りたい。しかしこの近辺に宿などなさそうだ。
「あれ?!」
遠目に何やら明かりが見えてきた。
「あれ、明かりですよね? 民家でもあるのでしょうか? 」
「妙だな、以前もこの道通ったのだがこのあたりに建物なんか無かった気がするのだが・・」
何はともあれ、近づいてみる。するとそこにはかなりの規模の一軒の屋敷が建っていた。魔動車から降り、建物の門前に立ってみる。確かに屋敷の窓の幾つかに明かりが灯っている、ということは無人の建物ではないという事だ。
「これは一般のご家庭なのでしょうか? それとも旅館でしょうか? 」
「ラブホだったりしてな」
「はい? 」
「いや、何でもない」
玄関の前まで進み、ノッカーを鳴らす。
「たのもう」
「道場破りですか・・」
ガチャリと音がして扉が開く。現れたのは執事と思われる長身の髪を七三にし、丸い眼鏡を掛けた男だ。
「何・か御用です・かな? 」
妙に作り物臭い声を出す。
「うむ。夜も更けた事であるし、一夜の宿をお願いできたらと」
カーラ、一瞬ぎょっとしたようだが、冷静を務める。
「お願いします」
フイリンも頭を下げる。
「・・どう・ぞお・入りく・ださい」
すんなりと中に入れてくれた。入った先は広い玄関ホールになっていた。両脇にメイドや使用人とおぼしき者たちが居並び、一斉に、
「ようこそいらっしゃいませ」
と、声を掛ける。
(突然の訪問なのにえらく準備よくないか? まるで予め分かっていたような・・)当然の如く疑問に思うカーラ。思考を纏める間もなく、正面より現れたのは・・一人の少女、それもフイリンより2、3歳は下であろう外見の少女・・。黒い髪をサイドテールにし、頭には赤い色のリボンを付けており、白のブラウスに黒のリボンタイ、下は黒を基調とした白いレースのフリルの付いたスカートを身に付け、やはり黒のタイツを穿いている。顔色は灯りのせいかも分からないが、かなり生白い。何となく先のクレイドフルを連想させてしまうのは穿ち過ぎか。瞳は何か黒目部が常人より多い気がする。
「わちしはこの屋敷の主人、パラス・トロスダイである。中途何も人家なども無くさぞ難儀したことであろう。食事と風呂も用意したのでゆるりと休むが良かろう」
彼女はその外見に似合わぬ古風というかやたら仰々しい物言いをする。警戒しつつも招きに応じるカーラであった。
入浴を終え、客室でくつろいでいる二人。
「あの子、使用人ばかりで他に家族居ないのでしょうか? 小さいのに大変ですね」
洗った後の髪を整えながら話すフイリン。
「んー、ああ、そうだな・・。こんな広い家だと維持するのも大変だろうな・・」
カーラは何となく上の空ぽい。やはり、警戒しているのかもしれない。部屋の扉がノックと共に開き、使用人が顔を出す。
「お二方、お食事の御用意ができましたので食堂にご案内いたします」
すっく、と立ち上がるカーラ。
「よし、久しぶりにまともな食事にありつけそうだ」
食堂には広いテーブルがあり、上には様々な料理が載っている。肉を焼いて香辛料や液体調味料で味付けした物、生の野菜を切って盛りつけた物、野菜を塩で漬け込んだ物、食材を煮込んだ汁物、穀物を味付けした物、果実を切って甘い汁に入れた物、等々。ここしばらく目にすることも無かった豪勢な食卓だ。
カーラとフイリンは隣り合って座り、その正面には実質この館の主人であろう、パラス・トロスダイと名乗った少女が腰かけている。彼女の前にはやけに少量の食事しか並べられていない。食が細いのだろうか?
「見ての通りの一軒家であるからな。訪れる者も滅多にないので退屈しておる。なので客人は大いに歓迎する所だ。野菜や果実は自家製の物だ、遠慮せず召し上がってくれ」
やはり見かけによらない、あまりにギャップのある口調で話す。
「ええ、とても美味しいです」
無邪気に食事を頬張るフイリン。一方のカーラは酒の入ったグラスに口を付けつつ、
「これは中々の年代物のアンヴィル酒だな。買えばかなりの値段だぞ・・」小声で呟きつつ、いつもならグッと飲み干すであろう所を少しずつ舐めるように飲んでいる。それで何ともないと理解したか、だんだん飲むペースも早くなっていく。そして、料理にも手を付け、
「ふむ、確かに美味い。なかなか有能な料理人が居るのだな」
「どうぞ、お代わりもありますので」
側に立つ使用人が声を掛ける。
「ところで、この館はいつ頃からここにあるのだ? 」
質問するカーラ。
「もうかれこれ300年になるかな」
「えー300年!?すごいですね。歴史を感じさせます」
素直に驚くフイリン。
「・・・」
珍しく茶化さず騒ぎもせず無言のカーラ。
「済まぬが、わちしはここで席を外させてもらう。お二人はゆるりと食事を楽しむが良い。食事を終えたなら寝室を案内してもらうが良い」
席を立ち、下がるパラス。彼女は少し顔を紅潮させ、汗ばんでいた感じだった。気分でも悪いのであろうか?
「お二人・の寝室はそれ・ぞれこちらになりま・す」
二階に上がりメイドに案内された寝室は二部屋だった。
「いや、二人で一部屋でいいのだが・・」
「部屋には、ベッドが一つず・つしかござ・いませんので、一人一部屋というこ・とで」
(そういえばこいつも何だか妙な喋り方だな)と思いつつも、
「・・なら仕方ないな、おやすみちゃん、フイリン」
「あ、はい、お休みなさい、カーラさん」
それぞれの部屋に入る二人。その場を立ち去るメイド。
階下にはパラス・トロスダイが待っていた。
「銀髪の・方は左の・部屋、眼鏡の小娘・の方は右の部屋でござ・いま・す」
「そうか。承知した」
邪悪な笑みをにやりと浮かべる、パラス・トロスダイ・・。




