血の祝祭・鬼女と半妖 3
気が付くとすでに日は落ち、あたりは闇になっていた。しかし、クレイドフルの城の周辺には光々と灯りが灯されている。余程侵入者を警戒しているのだろう。敷地内にはまだ多数の警備の者たちが動き回っている。
「よし、行くぞ」
丘を下り、警戒しつつ、城に近づいていくカーラとマノン。
「うん!? 」
「どうかしたのか? カーラ」
「いや、何か踏んづけた」
踏みつけてしまったものを拾い上げてみるカーラ。それは・・。
「木製のブレスレット? もしやこれは・・? 」
懐にしまい込み、先を急ぐ。
「ぐっ、ぐうううっ」
城内に異様なうめき声が響いた。
「どうなされました? クレイドル様? 」
顔面を手で覆い、呻いていたのはクレイドフル。一体何事か?
「何かが来る。不届きにもこの私を討つべく・・」
(カーラたちが来たんだ! )
思わず歓喜の表情になりかけるレイミとフイリンだが状況は予断を許さない。
「折角よい獲物が手に入ったのだ。邪魔はさせぬ。不届き者を早々に始末せい! 」
「はっ」
数名が室外へと出ていくが、まだ二人ほど残っている。
「さて・・」
檻の二人の方に目を向けるクレイドフル。
「お前たち、私の糧となるのは嫌だと申すか? ならお前ら二人で殺し合うが良い。生き延びた方を解放してやろうぞ」
「はあ? 何言ってんの? バカじゃないの、誰がそんな事するかってんの! 」
「ふざけた事抜かさないでいただけます? 貴方みたいな極悪人はアンジュエラ様の罰がくだることでしょうよ」
「くっくくく、無駄に元気のいい娘共だ」
パチリ、と指を鳴らすクレイドフル。すると部下の男が一人の娘を引っ立てて来た。彼女の口には猿ぐつわが咬まされており、その眼には恐怖の色が浮かんでいる。そして、男は手にしたナイフをいきなり少女の手の甲に突き立てたのだ。
「!! 」
声も出せず身もだえする少女。
レイミとフイリンあまりの出来事に息を飲む。
「見たか? お前たちが殺し合わねばこの娘が死ぬ事となる」
実に楽しそうに邪悪な笑みを浮かべるクレイドフル。
「お願い、やめてください! 」
「酷すぎる、許せない! 」
「早くせんか―! さもなくばこいつの指を一本づつ落とすぞ! 」
今度は部下の男が怒鳴り、少女の手の指に刃を食い込ませる。
「ごめん、フイリン」
そう言うとフイリンをひっぱたくレイミ。その手を取り、捻ね上げるフイリン。
「(大げさに悲鳴上げてください。そうすれば誤魔化せるかも)」
小声で囁くフイリン。
「(わかった)ぐあー、痛いいッ、死ぬうゥッ!!」
「で、どうするのだ? カーラ? 侵入経路探すのか? 」
「いや、そんな面倒な事している余裕なんか無いし。だから、堂々と乗り込んだる! 」
そう言うと駆け出し、城の塀に開けられた出入り口の扉を目指す。
「うりゃあああ! 」
気合込めた叫びと共に"気"弾で扉をぶち破り、城の敷地に躍り込む。
「敵襲! 敵襲だーっ! 」
わらわらと駆け付けて来る警備の兵たち。奴ら、皆一様に覆面を装備している。
「今晩は、皆さん、お仕事ご苦労さんだねぇ」「でも邪魔だから失せてね! 」
言うが否や気弾をぶちかますカーラ。兵のかなりの数が消し飛んだ。
「死にたくなくばそこを退け! 」
大剣・ラウダーザンヘル・マークⅡを振りかざし突進するマノン。しかし、奴ら全く動じることも無く襲い来る。片っ端から斬り捨てるも、次から次へと湧いて出てきてきりがない。しかも、少々のダメージでは全く怯む様子がなく再び襲い来るのである。
「くそっ! 何て奴らだ、何が奴らをここまで駆り立てる? 」
いい加減、息が上がって来たマノン。それでもようやく倒しつくしたようだ。
「見ろ、マノン」
カーラが敵の一人の死体をもたげ、頭部の覆面を剥ぎ取った。そして、その下より現れたのは・・。
「うっ!?何だこれは? 」
その本来頭である部分に何やら妙な物体が埋め込まれている。それは直径10センチくらいの黒ずんだ色をした石板の様なものだ。
「魔傀儡とかいうやつだ。恐らくこのアイテムで恐怖心とかを消し去り、主に忠誠を尽くすように脳改造されているのだろうな。おぞましい話だわ」
言葉も出ないマノン。
「こういうことを平気でやるような奴だ。あいつら二人に何しでかすか分かったもんじゃない・・」「それに愚図愚図していると増援が来てしまう」
急ぎ、城の深部を目指す二人。
ぺちっ。
「うぎゃー」
ぱしっ。
「ぐわぁ」
「・・舐めとるのか、貴様ら! ふざけた真似しおって! 」
さすがにコケにされたと思ったか、わなわなと手を震わせ、怒りによりさらに顔面が蒼白となっているクレイドフル。
(やっぱりこんなんでは誤魔化せないか・・)
「大変です! クレイドル様! 警備の兵どもが壊滅させられました! 」
いきなり一人の兵が飛び込んできた。
「何だと!?どんな奴が相手なんだ? 」
問いかける上官の男。
「わかりません。私が駆け付けたときにはすでに・・」
「馬鹿野郎! みすみす城内に侵入させたのかよ! 」
(よし、もうじき来てくれる)
現に何やら、遠くの方で争うような音が微かに聞こえる。
「何物か知らぬが私の宴の邪魔をしおって! 断じて許さぬ! 」
ぎろりとレイミらの方を睨みつけるクレイドフル。思わずビクッとするレイミとフイリン。
「じっくりといたぶってから喰らおうと思ったがやめだ、今喰ろうてやる! 」
「ええっ!?」
あまりの展開に思わず抱き合う二人。だが真の恐怖はこの後に現れるのであった。
クレイドフル、低く唸り声を上げたかと思えば、何とその口が左右に大きく裂けていくではないか。そして鋭い歯頚もむき出しになっていく。
「うわっ!?何なのこいつ? 人間辞めてるの? こわっ・・怖すぎッ! 」
「え、えーと・・その口、今までお化粧で誤魔化していたのですね・・」
恐怖に抱き合ったままガタガタ震える二人。
(そうだ、震えている場合じゃない、何とかしないとやられる)
とても素手で戦おうとしてどうにかなりそうな相手じゃないのはわかる。せめて何か武器になるものでもないか、と辺りを見回すがそんなものは何も見つからない。そうこうするうちに、クレイドフル、檻の格子に手を掛けたと思いきや、バキバキと音を立て破壊した。そしてそのまま中に入って来る。レイミとフイリン絶体絶命か。
レイミとフイリン、反対方向に走り出す。といっても広くはない檻の中、すぐに行き止まる・・と思いきや檻を蹴り上げ、反動をつけそのままクレイドフルに体当たりを咬ました。不意を突かれた上に、二人分の体当たり喰らい、さしものクレイドフルも檻の外に弾かれることとなった。
「やった! 」
「うまく行きましたね」
そして血の気を失い、倒れている少女を二人で抱え、逃げようとする。が。
「愚かよのお、二人だけで急いで逃げればにげられたかもしれぬのに」
前に立ち塞がるクレイドフル。
「この私を愚弄しおって。楽には殺さぬ」
だが、絶望はしない。もうすぐそこまで希望が来ているのが分かるから。




