血の祝祭・鬼女と半妖 2
謎の城を見下ろす位置にある小高い丘。その丘の上に腹ばいに伏せながら城を伺うカーラとマノンの二人。
「あの城で間違いないのか? 」
「うむ、確かにあそこに入って行った」
魔道遠眼鏡を覗いているカーラ。塀の上には監視塔が据えられており、城の敷地内にも警備と思われる者たちがうろうろしているのが見える。やたら警戒が厳重だ。
「あそこの主のクレイドフルは以前より良からぬ噂が絶えなかったな」「二人が心配だ」
そう言うと立ち上がろうとするマノン。
「止めろ、立つな。お前は只でさえでかくて目立つんだから。奴らに見つかると厄介だ」
「・・・。ならどうする? 夜陰に紛れて侵入するのか? 」
「そうするほかあるまい」
ここは地下の中の中。冷たく暗い闇の中。ある物といえば申し訳程度の灯。
どのくらいの時がたったのか? 数分なのか? それとも数時間なのか? 時間の流れが分かる物が何もないので計りようがない。未知なる物に対する不安と焦燥が彼女らを襲う。
「ねえ、フイリン」
「はい? 」
「暇だし何か面白い話して」
「えーとですね、フラトバ地方に住んでいるイイゾという動物は繁殖期になると陰嚢が五倍くらいの大きさになるんですよ。なぜそうなるかというと雌にアピールするためなんですね」
「・・・それ、面白いかな? 」
「えー、つまらないですかー? 」
ガチャガチャと鍵を外す音がし、扉が開いた。
「お前ら出ろ! 検分の時間だ! 」
やって来た男数名は相変わらず覆面を着けている。不安が隠せないまま部屋を出ていく。歩いていくうちに異様な臭いが強まって来るのが嫌でも分かる。この臭いは──────血の臭いだ!
やがて仰々しい装飾に彩られた大きな扉の前に来た。男が中に呼びかける。
「クレイドフル様、新たに入荷した処女を連れてきました」
「入れ」
扉が開き、中に入ったレイミとフイリンが見た物・・。そこにはやたら豪勢な椅子に腰かけた女が居た。年齢は如何ほどなのだろうか? 一見すると若い様に見えるが歳を召しているようにも見える。はっきりしないのは室内の明かりが乏しいせいもあるのだろうか。彼女は異様に青白い肌の色をしている。カーラの白さとはまた別の、いうなれば病人か死人の肌色という感じ・・。それよりも目についたのは異様に赤い⏤⏤まるで血のような⏤⏤色の唇、そしてぞっとするような冷たい凍てつくような眼・・・。今まで様々な敵と遭遇してきた二人であるが、今までの奴らとは明らかに格が違うのを嫌でも感じさせた。
(こいつがクレイドフルなの? )
「・・・ふむ、この者ども、中々の上物のようだ。その辺の平民の娘とは違うのが分かる・・。これはただ絞り取るだけでは勿体ない・・」
彼女の声、まるで地の底から響いてくるような何とも言えぬ禍々しさを感じる。思わず全身の毛が総毛立つような。
(搾り取るって・・何を? )
「そうだな、恐喚房に連れていけ。あそこで熟成させるのだ」
「御意」
「ちょっ・・ふざけ・・」
思わず叫びそうになるレイミ。
(レイミさん、ここは堪えて。)
フイリンが小声で諫める。
その少女は獄に繋がれていた。ここに連れてこられてどのくらいの日々が過ぎたのか? 最早考えることをやめていた。たとえ泣こうが喚こうが自分が二度と日の目を見られぬことを悟っていた。ある時、覆面の男が来て引っ立てられたときも何やら他人事のようだった。異様な出立の女の前に出され、身体を鎖で縛られ釣り上げられたとき、ようやく今己の置かれている状態を認識した。
(嫌、死にたくない、帰して! )ああ、お婆ちゃんからもらったブレスレット失くしてしまったのが悪かったのかも・・。
一人の男が片腕を取ったと思った次の刹那、鈍い音と共に五本の指が切り落とされた。激痛に声も出ない。そして信じられぬことにその女、切断された傷口から流れ落ちる血をチュウゞとおぞましい音を立てて吸い出したではないか。
「貴様の血も肉も骨も皮も腹腸も余すところなく私の糧としてくれよう」「このクレイドフルの糧となることを光栄に思うが良い」
少女はすでに狂っているのか、虚ろな目をし、下からは垂れ流し、うわ言の様な言葉をぶつぶつと発している。
「ちょっとあんた、キョウ何とか房って何よ? 私たちをどうする気? 」
持ち前の気の強さで手下の男に食って掛かるレイミ。しかし、言葉の端で不安と恐怖を紛らわすために虚勢を張っているようにも聞こえる。
「くっくくく、そう焦るな、嫌でもすぐに分かる」
その部屋の扉が開かれ、中から臭うのは強烈な血の匂い。思わず顔をしかめる二人。だが実際中の光景を目にしたならしかめるだけでは済まないだろう。
「! ? ・・・・!? 」
悲鳴を上げることすら忘れ、言葉を失う。レイミとフイリン。そこで目にしたものは・・、かつては一人の少女だった物。しかし今は、手と足の指を全て切断され、胸を抉られ心臓を取り出され、耳と鼻を削がれた肉塊でしかなかった。
恐怖によるものか、憐みと悲しみによるものかフイリンの目からとめどなく涙がこぼれ落ちていた。
「酷い・・、何てことを・・、あんたら人間じゃない・・」
ようやく絞り出すように呟くレイミ。
「くっくくく、そうだ、悲しめ、嘆け、憤れ、憎め! そして最後には恐怖に打ち震えるのだ! 」「それが最高に美味となる」
そして、檻の中に放り込まれる二人。
ぐしっ。えぐっ。フイリンのべそをかく声が聞こえる。
(この子だけは何としても守って見せる。あんな奴らに思い通りにさせてなるものか)一旦、冷静になろうと周りを見渡してみる。視界に入ったのは・・恐らくかつては「人」であったのであろう物の・・残骸が累々と。
「うっ! 」
思わず嘔吐きそうになるレイミ。
(ああ、カーラ、マノン、早く来て。そしてあいつらを一人残らず滅ぼして)




