暗黒の狂艶・深淵より出る者 2
ほとばしる、魔道エネルギー。それをモロに正面から喰らうカーラ。思わず膝をついてしまう。
「愚かですね、カーラ。本来の貴方なら相手が誰であれ容赦なく反撃したでしょうに。その娘に情が生じたのですか? 」
「うるせえ、馬鹿。ただお前の思い通りにはなりたくないだけだ」
キッとミメントにガンむ飛ばす。そしてその口元には不敵な笑みを浮かべている。何やら勝算あるとでもいうのだろうか。
「フイリン・・」
何をするかと思えばいきなりフイリンをギュッと抱きしめたではないか。そして何やら語り出す。
「お前に初めて会ったあの時、単に生意気で世間知らずで薄ら甘いお花畑な脳の持ち主だと思った。だが一緒に行動を共にするうちに分かってきた。決して己の信念を曲げない強く優しく誰に対しても思いやりの心を持っていると。私はそんなお前のことが・・正直・・嫌いじゃない。だから・・」
「らしくありませんね、カーラ。貴方にそのような臭い台詞は違和感ありまくりですわ・・。むっ?!」
何かに気付いたミメント。隙を突いたのか、レイミとマノンが彼女を挟撃しつつあった。
「気づいたか。だがもう遅いッ! 」
「覚悟なさいッ! 」
両名剣を振りかざし、斬りつけようとする。
「ふふっ、お馬鹿さん。余計な事を。その程度でわたくしを斃す気でいるのですか? 」
ミメント、何やら呪文を呟く。すると、地面より植物の蔓のような物が出現し、斬りかかろうとした二人に絡みつく。
「ぐぬっ?!」
「やだ、何これ!?」
「貴方方はしばらくそこで、カーラの末路をご覧になっていてください。己の無力さを悔いながらね」
そして、妖艶な表情でフイリンに命ずる。
「愛しきフイリン、その者の戯言に耳を傾けてはなりません。やっておしまいなさい」
突如、カーラの背に痛撃が走る。そこに刺さるは一本のナイフ。
「っく・・、やはり柄にもないことするもんじゃないな・・私・・」
苦痛に顔歪めるカーラ。すぐにナイフを引き抜くが出血が激しい。
「ははっ、いくら操られているとはいえ、フイリン、おいたが過ぎるぞ・・、少し荒治療が必要か・・」
誰かが自分の名を呼んでいるような気がした。
(誰だろう・・? )
そう、それは・・(まさか・・お母様・・なの? でも、なぜここに? )
『フイリン、貴方はアンジュエラ様に仕える聖女として立派になりましたね。母は嬉しく思います。』
既に故人となっている筈の母が?
「お母様・・。こうしてまた会えるなんて・・」
思わず涙ぐみ、母の手の中に包まれる。(ああ・・何て暖かいのでしょう・・。こうしてずっと居たい)
『可愛い私の娘フイリン、貴方は賢く聡明な子です。この母の言う事を聞いてくれますね? 』
「・・は、はい、お母様、何なりと」
『貴方のその手で、あの邪悪なる半妖、カーラ・エンジェルウィッチを亡き者になさい! 』
「!?・・そんな・・」
フイリンの母、彼女の頬を包み込みながら目を合わせる。その目を見ていると言う事をきかねばいけないような気持となってくるのだった。
「はい・・分かりました・・お母様・・カーラを・・殺します! 」
そうだ奴をカーラを殺すのだ殺すのだころす・・のだのだのだ・・・。
「フイリン! あなた何するの! お願い正気に戻って! 」
絶叫するレイミ。だが彼女の叫びは届かない。
「目ぇ覚ませーフイリン! 」
カーラ、フイリンの横面を張ろうとする。が、寸前で止めてしまう。
「いかん、私が本気でひっぱたいたら只で済まなくなる・・どうしたものか・・? 」
(上手く行くか分からんがやってみるか・・)
何をするつもりであるのか、再びフイリンをぎゅっと抱きしめるカーラ。そして、額と額とをぴたりと合わせた・・・。
「フイリン、そいつはお前の母なんかじゃない! 」
「!?」
「カーラ? 、なぜ貴方が? 」
ここはフイリンの心の内部なのか?
「射干玉の魔女、ミメント・モーライが成り済ましているだけだ、目を覚ませ、フイリン」
「嘘・・嘘よ! その人は・・私の」
フイリンが言い終わらぬうちにカーラいきなり、母? に切りかかる。
「な、何を! 」
するとみるみるうちに崩れ消滅していくフイリンの母だった物。
「現実を見るんだ、フイリン、お前の母はとっくに故人のはずだろう? それはお前自身が一番分かっているはず」
カーラ、フイリンの頭部を掴み目を見つめる。すると、何としことか。みるみるうちに何かが再構築されつつある。それは再びフイリンの母の形をとった。
「フイリン、邪悪なるその者を殺しなさい。それが女神・アンジュエラ様の思し召しです! 」
その場でカーラを振り切り構えを取る、フイリン。
「フイリン、お前・・」
「ふん、笑わせないでください。アンジュエラ様が人を殺せ、などと仰せられるはずなどありません。あなたは所詮偽物です。断じて聖女であった母様などではありません! 」「消えて!!」
手にしたスタッフを偽母に向ける。そこから何やら光にも似たものが迸る。
「うげあーーー! 」
絶叫と共に空間が砕けた。そこに現れたのは先ほどまで居た見慣れた世界。
「おのれぇ、このわたくしの術を破るとは・・、でもこれで勝った気にならないことね」(分が悪いですね、ここは一先ず退散するしか・・それにしてもこの娘は・・? )
余裕があるようにハッタリをかましつつ、内心焦りまくりバックレる算段のミメント・モーライ。
「おおっと、逃げようたってそうはいかないよん」
むんずとミメントの長い髪を引っ掴むカーラ。
いつの間にかレイミとマノンの拘束も解けている。そしてフイリンは例の衣装のまま倒れている。フリリンの元に駆け寄るレイミ。
「大丈夫、気を失っているだけみたい」
「そうか、良かった・・。で、カーラ、そいつをどうするのだ? 」
「ふっふっふっ、決まっておろうが。こっちはエライ目に遭わされたんだ、たっっぷりとお仕置きかましてやらないと気が済まんなあ」
先程のナイフで刺された傷跡を撫でつつ(もうだいぶ塞がりかけているのだが)、実に嬉しそうにサディスティックな笑みを浮かべるカーラである。
(やはりな、そう来るか・・)若干複雑そうな表情のマノンではある。
「う・・う~ん・・」
どうやら意識を取り戻したフイリン。
「あ、気が付いたみたい。大丈夫? フイリン? 」
「ン? んあ? レイミさん私は・・」
「カーラが助けてくれたよ」
二人してカーラの方を見る。そこにはミメントを絶賛いたぶり中のカーラの姿があるのだった・・。




