暗黒の狂艶・深淵より出る者 1
「フイリン、ここに居るのかな? 」
カーラら一行も再び街に戻って来た。
「ったく面倒かけさせてなぁ、後でたっぷりお仕置きしてやらねば」
口ではぶつぶつ言いながらもその表情は「心配でたまらない」とあるのがレイミの目にも見えている。少し微笑ましくも思うが今はそれ所ではない。ふと、空を見上げてみる。すると何やらこちらに向かって飛んでくるものがある。
「何だろう? あれ」
そいつは実に奇怪な姿をしていた。巨大な眼球に翼を付けたような姿、そう、ミメント・モーライの使い魔、マルコリンだ。そいつは近づいてきたと思ったら何やら筒の様な物をぽとりと落し、再び飛び去って行ってしまった。
「何だ? これは? 」
拾ってみるカーラ。それはどうやら丸めた紙のようだ。開いて目を通す。
『親愛なる、白銀の女帝・カーラ様へ。街の郊外のフローザの丘までいらしてくださいませ。趣のあるショーをお見せできるかと思います。ᅳᅳᅳ射干玉の魔女・ミメント・モーライᅳᅳᅳᅳ』
(ミメント・モーライだと? 聞いたことあるような気もするが・・)
「ミメント・モーライ?!あいつがなぜ? 」
手紙を覗き込んだマノンが驚きの声を上げる。
「マノン、奴を知っているのか? 」
「うん、まあ、以前に少しばかり・・」
言葉を濁すマノン。
「そいつがもしかしてフイリンを? 」
「わからんが、手掛かりが無い以上とりあえず行ってみるしかなさそうだ」
そこは特に何の変哲もない場所であった。昼間ならちょっとした散歩やピクニックに来る者も居るだろうが、こんな夜更けに来る者など居やしない。
「おい、わざわざ来てやったぞ。さっさと趣のあるショーとやらを見せてみろ」
闇の中に向かい叫ぶカーラ。すると、いきなり明かりが灯し出された。
「何? この明かりは? 」
「火とかではないな。これは、魔法による照明だ」
「ようこそ。よくいらっしゃいましたね、カーラさん」
少し小高くなった場所の明かりの中心に表れたのはミメント・モーライその者だ。
「あら? マノン・ウオウではないですか。なぜ貴方がカーラと共に? 」
「・・・別に。お前の知ったことではない」
ソッポを向き答えるマノン。
「フイリンをかどわかしたのはお前か? 目的は何だ? 」
カーラが問いかける。
「わざわざ教えてあげる義理はありませんが。強いて言えばあなたを討てばわたくしの名が上がる、さすれば様々な面で有利になるということでしょうか」
「そうかい。なら相手してやるわ。掛かって来いや、小娘」
「貴方から見ればわたくしも小娘ですか。うふふ、少しは嬉しく感じますね。でも貴方の相手は私ではありません。彼女にやってもらいます」「さあ、出ていらして、フイリン」
ミメントの立つ後方より現れたそれは・・
「!?・・あれはフイリン? なのか? 」
「何? 何なの、あの恰好は・・? 」
「うわぁ、引くわー」
胸と股間部分を申し訳程度に覆った衣装にマントを羽織り、お下げ髪を解き、トレードマークといえる眼鏡も外している。そして、生気の失せた目。しかし、彼女が手にしているのは紛れもなく、普段大切にしているスタッフなのであった。ミメント・モーライ、そのフイリンを引き寄せ、愛おし気に顔や肢体を撫でまわす。
「お行きなさい、フイリン。あの者たちに目に物見せてやりなさいな」
そして、三人の前に降り立つや否や、いきなり魔力をぶっ放すのであった。迸る魔法エネルギーの塊り。
「うわっ」
「危ないっ! 」
間一髪避ける一同。
「貴様、フイリンに何をした? 」
地面に伏せつつ、問うカーラ。
「あははっ、大したことはしていません。ただほんの少し彼女の心に秘めたる闇の部分を表に引き出してあげただけです。人は誰しも闇を抱えているものです。たとえどんなに一見して非の打ちどころなさそうな善人でもね。そしてそこにわたくに対する忠誠の要素を・・」
「御託はいい。その子は返してもらう」
意外にも反論したのはマノンであった。
「どの様な心境の変化があったのか分かりませんが、マノン、いくら貴方でもわたくしに敵対するというのであれば容赦はしませんよ。いいですね? 」
近づいてくるフイリン。
「ミメント・モーライ様こそこの世界の頂点に立つべきお方邪魔建てする者は死ぬがいい目障りださあ死ね今すぐ死ね特にカーラは死ね」
抑揚のない喋り方をする。
「ねえカーラ、あれフイリンじゃなくて怪物か何かが成り済ましているんじゃないの? 」
こっそりレイミが囁く。
「いや、残念ながらあれは紛れもなくフイリン自身だ・・」
(なぜそう言い切れるのだろう? )
「あいつの持っているあの杖フイリンが命の次に大切にしていた物だ。簡単に敵に渡すとは思えない・・。と思う。たぶん・・」
「お願い、目を覚まして! フイリン! 」
絶叫するレイミ。だが彼女の声は・・。
「危ない! 」
放たれたエネルギー波が地面に炸裂する。間一髪避けなければ大ダメージを負ったことであろう。
「その子には力が秘められているのが分かります。それが魔力なのか、それとも別の力なのか・・、それを自在に引き出し制御することがする可能ならば非常に有力な戦力となる。それを欲する者は多いでしょうね。カーラ、貴方も彼女の潜在する力に気付いているのではありませんか? 」
「・・・」
カーラ、何も言わない。
「カーラ、貴方再びグワイエットの乱のような事を起こそうとか思っているのではないですか? そのために手駒となる者を集めているのでしょう? 」
「お前は何を言っているんだ? わけわからん事をグダグダと。言っておくが私は今の世界の情勢のことなど興味も無いし、お前らみたいなのが何しようと知ったこっちゃないのだが」
「? なぜ? 貴方程の力の持ち主ならば世界を手に入れ支配することも夢ではないはず・・」
「なぜって・・支配とか統治とかめんどくせーし・・」
本当に面倒くさそうに頭掻いたりするカーラ。思わぬ言葉についきょとんとしてしまうミメント。
「た・だ・し、私や私の下僕どもにいらんチョッカイ出すバカは全力で潰す! 」
ビッとミメントに対し指さす。
「誰が下僕だ、おい! 」
「あー、あの人はいつもああだから。マジになってもしょうがないから」
そうこうするうちに、再び手にしたスタッフを振りかざすフイリン。何やらぶつぶつと呪文の詠唱をしているようである。すると・・、
今度はカーラがフイリンの前に立ちはだかった。
「フイリン、覚えているか? お前と私が初めて会ったときのことを・・」
「カーラ、危ない! 」
「心配するな。私なら魔道弾の一度や二度喰らった所でどうということない」




