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現実という名の壁を越えろ 4

(召喚主を斃せば或いは・・)

 密かに背後に潜んでいるペルテルセンに狙いを付けようとする。が、なかなか隙を見せない。怪物・ヴォイヴォールドがまるで奴を守護するかのように動き回るのだ。

「クホホ、このヴォイヴォールドは敵の殺気を察知し何より主の守護を優先するのだ。ユーらがミーを傷一つ負わすこともできない」

 なおも襲い来るヴォイヴォールド。奴が暴れるたびに家が破壊され、ついには壁も残らず消え去り外界と繋がってしまった。

「やはり先にこちらから始末するしかないか・・」(よしっ! )「皆、バラバラに散れ! 」

 ここは言われた通り皆、四方八方、別々の方向に走って行った。

「うぬっ?!」

 目標が散り散りになってしまったので一瞬戸惑うペルテルセンと怪物。

「姑息な真似をしおって。まあいい、カーラさえ始末すればあとはザコだ」

 目標をカーラに絞ったか、ガシガシと音を立て彼女を追撃して来る。

「狭い室内では思うようにいかないが、広いフィールドなら・・恐れることはないッ」

 いきなり怪物に向き直った。

 口吻を開く怪物。強酸を吐きかけるつもりなのか。

(来るか? )が、

 次の瞬間、奴は酸を噴出した。しかしそれは先ほどのとは違い霧状に拡散したのだった。避ける間もなく酸の霧に包まれるカーラ。

「ぐわっ・・」

 強力な酸が彼女の皮膚を侵す。そして鋭い刃状の前肢を振り下ろす。

 ズビッ!!鈍い音を立て、カーラの左腕が切り落とされた。

「うわあっっ! 」

 思わず悲鳴が迸る。


 それぞれ、バラバラの方角に走っていた三人、皆カーラの悲鳴を聞き取る。

「今のは? 」

「カーラさん? 」

「まさか・・あいつが・・? 」

 皆、カーラの元に戻りだす。

 

「ちっ、糞がっ・・」

 憎まれ口の一つでも叩こうとするが、痛みと出血でそれどころではない。それにあまり時間がたってしまうと切り落とされた腕が再度くっつかなくなる恐れがある。

「フホホホホホ、今度は脳天ぶち抜いてくれるわ、さすればさすがのユーでも復活できまい。フホホ」

 勝ち誇るペルテルセン。

「殺れい、ヴォイヴォールド! 」

「カーラさん?!」

 飛び込んできたのはフイリンだ。そのままカーラの前面に立ちはだかり叫ぶ。

「お願い止めて、ハンズィさん! 正気に戻って! 」

「馬鹿。なぜ戻って来た? 折角奴の注意を引き付けたのに・・」

 その声は苦し気だ。

「フイリン、よせ。もうそいつはハンズィじゃない。彼女はそいつに取りつかれた時点で死んだんだ」

 同じく戻って来たマノンが呼びかける。

 突然の介入に驚いたか怪物に隙が生じたのか、動きが一瞬緩んだ。

「今だッ! 」

 すかさず"気"を具現化させた剣を発生させ、敵の前肢を切断する。崩れ落ちるヴォイヴォールド。そして奴の口部であろう場所に思い切り気合一閃、気弾を叩き込む。

 轟音と共に"気"が怪物の体内を切り裂いてゆく。真っ二つに千切れようやく絶命したであろう、ヴォイヴォールド。

「おっ! おおおおおっ、何という事だ! ミーの虎の子のヴォイヴォールドがぁっ! 」

 怪物の屍を前に髪を掻きむしりながらうろたえまくるペルテルセン。

「糞ッ! またしてもッ! カーラめぇぇっ、一旦引き上げだ」

 ペルテルセン、今回も瞬間移動で逃げようとするのか? だが、焦り過ぎたか思うように跳べないようだ。

「貴様だけは許さん!!」

 それを逃さずマノン、大剣・ラウダーザンヘルマークⅡをペルテルセンに振りかざす。悲鳴を上げる間もなく、今度こそ脳天より真っ二つに裂かれるペルテルセン。

「あー、いきなり()っちまうなよ、こいつからは色々聞き出したかったのに・・」

 カーラ、ペルテルセンの死体を見下ろし、残念そうに言う。

「こうしなかったら奴にはまた瞬間移動で逃げられたぞ。致し方あるまい」

 地面に刺した剣の柄に寄り掛かりながらマノンが答える。ふと横を見るとフイリンが、

「うっ・・ううっ、ハンズィさん・・」

 ぽろぽろと涙を落とし泣いている。レイミ、側に寄り添いつつ肩にそっと手を置き、

「悲しいけれど仕方ないよ・・。せめて彼女の冥福を祈ってあげよう・・」

「でも・・それでも・・何とかして欲しかった・・」

「だから、言ったろ?!奴が、ペルテルセンが怪物を憑依させた時点でこの娘は肉体的にも精神的にも死んでしまったと」

 かなり強い口調で言い聞かせようとするカーラ。少しイラついているのか。

「うっ・・でも何か納得いかない・・」

 なおもべそをかくフイリン。

「鬱陶しいな、いつまでもグダグダ言ってんなよ」

 カーラ、言ってから(はっ、少し言い過ぎたかな)みたいな表情になる。

「あのー何もそこまで言わなくても・・」

 少し苦笑ぎみになりながら口を挟むレイミ。

 フイリン、無言のままいきなり走り出す。他の者たち皆「あっ」と驚いている間に姿が見えなくなった。いつの間にか雨がしとしとと降り始めていた。


「ねえ、フイリン捜しに行かなくていいの? 」

 フイリンが飛び出して小一時間もたった頃合い、レイミがぽつりと尋ねる。

「ほっとけ、どうせすぐ戻って来る」 

 突き放すような言い方のカーラではあるが・・。

「難しい年ごろだな、あの子も・・。カーラお前心配じゃないのか? 」

「別に。勝手に出ていく奴なんかどうでもいい」

「おい・・」

 思わず激高しそうなマノン。そんな彼女をレイミは抑える。

「本当はフイリンのこと心配していると思うよ、カーラは。口ではああ言っていてもあの人はそういう人だから・・」

 

 一方、フイリンは・・。街の中心あたりに辿り着きうろうろしているが正直若干後悔していた。

「思わず飛び出してきちゃったけど、皆心配しているかな・・? 」

 日も暮れて夜の帳が下りてきた。(やはり皆の所に戻ろうか)と思ったあたり、それは現れた。

「うっひひひ。お嬢ちゃん、お一人かーい? 」

 いかにも怪しげでヤバそうな野郎が三人ほど姿を見せたのだ。

「君ぃ、可愛いねぇ、お兄さんと遊ぼうぜえ」

 気色の悪い声で話しかけて来る。

(そういえば前もこんなことあったなあ・・本当、こういう輩はどこの街にも居るんだな)相手にせず、ずいずいと歩いていくフイリン。

「おい、シカトすんじゃねえよ! 」 

 一人の男がフイリンの腕を掴む。

「あのぉ、そういう事止めていただけませんか? 失礼じゃないですか! 」

 仕方ないので立ち止まり、キッと睨みつけつつ言う。

「ああ? 何お高く留まってんだ、このアマ。調子こいてんじゃねえぞ。大人しくヤラれろ」

 掴んでいる腕の力を強める男。が、次の瞬間・・。

「うっ? うげげげ、何を? 」

 何とフイリン、男の腕を掴み逆に締め上げたのだ。そしてそのまま地べたに転がり落とす。

「このガキがっ! 」

 別の男、事もあろうにナイフを取り出し、繰り出して来た。フイリン、その腕を脇で挟み、膝で鳩尾に蹴り上げる。思いもかけぬ反撃に油断したのか、簡単にダウンを取られるのだった。そして残った一人に向かい、ガン飛ばすのだった。

「まだ、やるつもりですか? そのつもりなら容赦しませんよ」

「ちっ、チクショー、手前みてえなブス誰がヤるかー」

 捨て台詞を残し逃げていく輩。実にみっともない。

「・・・ふう、本当はあまりこういう事したくないのだけれど・・。そういえばあの時はカーラさんに・・」

「お強いのね。貴方。その技、アイキドーとかいう護身の術かしら? 助けに入ろうかと思ったけれどその必要なかったわね」

 フイリン、ほっと一息つく間もなく、はっとその声のする方に顔を向ける。現れたのは一人の女性。彼女は被っていたフードを脱ぎ去りそこから現れたのは・・。褐色の艶やかな肌、腰ほどにもある黒く長い髪、やや垂れ気味の金色の瞳を持つ目、艶めかしい紅を引いた唇、そして豊満な胸・・カーラと互角か否か・・、美しも妖しいその者こそ射干玉(ぬばたま)の魔女・ミメント・モーライ!

「お久しぶりね、可愛いお嬢さん」

 一瞬見とれるも我に返りフイリン、訝し気に質問する。

「? あのぉ、失礼ですがどちら様でしょうか? 」

 ミメント、さもおかしそうに「うふふ」と笑いつつ、

「貴方はわたくしをご存じないでしょうが、わたくしは貴方をよーく見ていました」

 ますます「? 」な状態のフイリン。そんな彼女にお構いなしに、

「フイリン、貴方には秘められた力があります。それを使いこなすことができれば貴方は・・神の如く振る舞えることも夢ではありません」

 フイリンを指さし、目をじっと凝視するミメント。

「わ・私はそんな事・・」

 全部言う間もなく、フイリンの意識は遠のいていくのだった。

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