現実という名の壁を越えろ 3
「あの、私までお金いただいてよかったのですか? 」
先ほどの先輩店員が言う。ちなみに彼女はハンズィと名乗った。
「まあ遠慮するな、もののついでだし。せっかくだから家まで送ってやる。あと分かっていると思うが我々の素性は内密にな」
一行は再び魔動車の人となっている。
「それにしても、使えなかったカードが見事に役に立ちましたねえ。何が幸いするか分かりませんね」
フイリン、苦笑しつつも内心「これでよかったのか? 」と思う。
「残念だ、私がその場に居たなら奴ら剣の錆にしてやる所だったのに・・」
出番が得られず、心底残念そうなマノン。
「ハンズィさん彼氏と同居しているんだって? 彼はどんな人なの? 」
先ほどの黒さは身を潜め、いつもの通り無邪気な感じのレイミ。
「ええ、優しい人なんだけどどうも働くのが得意じゃないみたいで。本とか買い集めて研究みたいなことしていて。本人は『いつか俺は偉大な魔法使いになるのだ』なんて言っているんですけど・・。そんなだから私がこうして給金のいい店で働いているんですけれどね」
(それって、典型的なヒモのダメ野郎じゃないか。こいつ絶対騙されてるだろ。私が説教したろうか)
呆れるカーラ。
数十分程走り、街から外れ郊外に近い場所にある、ハンズィの住処に到着した。見ると小さめの一軒家である。
借家かもしれないが二人住むには手ごろな広さと思われる。
「ペル君、ただいま。お客さん連れてきたよ」
家に入る一同。
「あら、居ないみたいね。出かけているのかな? 狭い所で申し訳ありませんが」
「あ、いえ、どうかお構いなく」
リビングと言っていいのかどうか分からないが部屋に通される。すると奥の方の部屋がちらりと目に入る。様々な本が散らばっているのが見えるが、そこがペル君とか呼ばれた彼氏の部屋なのだろう。
小一時間ほど飲み食いしながら話していたら、入り口の方で戸が開く音がした。どうやら彼氏が帰って来たのだろう。迎えに出ていくハンズィ。
「お帰り、ペル君。あーまた何か変な物買ってきて・・。あ、今お客さん来ているから挨拶してね」
部屋に入って来る彼氏。
「へーあんたが彼・・・!? 」
「!!!!????」
凍りつくカーラ一行。なぜなら・・。
「っ!?なぜユーたちがここに? 」
その人物忘れるはずもない、そう、しばらく前に彼女らを襲ったペルテルセンその者であった。奴は何やら怪しげな道具だかオブジェだか分からないものを手にしている。
「お前が、その子の彼氏だとーっ!?」
さすがのカーラも驚きあせる。
「きっさまーーペルテルセンっ!!」
血の気の多いマノン、剣を掴み斬りかからんとする。
「何するの? やめて! 」
ペルテルセンの前に立ちはだかるハンズィ。マノンは止まるしかなかった。
「ハンズィさん、この人はとても悪い奴なんです! 私たちは酷い目に遭わされました」
説得しようとするフイリン。
「愛しのハンズィ、ミーとこの者たちとどっちの言う事信じるんだい? むろんミーの方だよね? 聡明で賢く美しい君がこんな有象無象の言う事などに耳貸さないよね? 」
ハンズィを抱きしめつつ、耳元で語り掛けているペルテルセン。
「うわ、きっしょ。何歯が浮くような事抜かしているんだよ、この野郎」
ドン引きのカーラ。しかし油断なく奴の出方を伺うのだった。
(こいつ、また何かの怪物を召喚するのか? それとも他の手を仕掛けてくるか? )
「ねえ、ハンズィ、貴方絶対騙されているよ・・」
レイミの問いかけも耳に入らないと見えて二人の世界に入り切っているのであろうか?
「愛してるよ、ハンズィ」
「私もよ、ペル君」
「そうか、ユーの気持ちはよく分かった。ならば・・ミーのためにその身を捧げよ!!」
「!!??」
何ということか! ペルテルセン、手にしていた怪しげな品物をハンズィの胸元に押し付けたのだった。するとみるみるうちにその物体から滲みだした糸状の物が彼女の体を侵食していく。
思わず我を忘れあっけにとられている四人。そうしているうちにその物体の四方より脚の様な物が飛び出し、立ち上がる。そしてそのかつて頭部であったとおぼしき箇所が四つに割れ開き、咆哮を発する。
「・・何だ?! これは・・? 」
やっと言葉を絞り出すカーラ。
「フォッホホホホホホ、これぞ憑依型召喚獣・ヴォイヴォールドよ! 」
「憑依型・・だと? 」
「その通り。人間の体を媒介とすることによって本来召喚・使役の難易度が高い怪物を楽に使えるのよ、フホホホ・・ちなみに被媒介者の召喚主に対する愛が強ければ強いほど強力になるのだッ! 」
「それじゃあ、彼女は、ハンズィはどうなったのよ? 」
悲鳴にも似た声で問うレイミ。
「ホホホ、きゃつめは怪物と一体化しミーの忠実なしもべとなったのだ。奴もそれが望みだろう、フホホ、上手く口説き落とした甲斐があったわ」
「この、外道がっ! 」
怒りの形相で吐き捨てるマノン。剣を握る手に力が籠る。
「以前は少し遊び過ぎたせいで不覚を取ってしまったからな。今回はそうはいかんぞ、ゆけい! 」
号令と共に「シギャアアア」と叫び声を上げ、素早い動きで襲い来る怪物。奴の手先は鋭い刃物状となっているのか、振り下ろした家具が切断されている。
「やめて! ハンズィ、目を覚まして! 」
「クックフフ、無駄だ、こやつには最早生前の意識は残ってはおらぬ。ミーの完全なる奴隷よ」
カーラは巧みに攻撃をかわしつつ、"気"を打ち込む機会を狙っている。
「今だ! 」
だがその渾身の気弾は無残に怪物の体に弾かれてしまった。奴は相当強力な装甲を纏っているのか。
「糞ッ、よもや弾かれるとは・・」
「カーラ、怪物と彼女を分離させることはできないのか? 」
「残念だがそれは不可能だ。先の召喚融合の時点で完全に肉体も精神も侵食され切ってしまっている。あん畜生、えげつない真似してくれる・・」
今度はゴワッという音と共に怪物の口とおぼしき部分から何かが吐き出された。その液を浴びた物が、派手に煙を立て溶解する。これは強力な酸なのかもしれない。
「私らにできるのは・・せめて彼女を安らかに眠らせることくらいだ」




