現実という名の壁を越えろ 1
「お前ら、行ってこい。私は疲れたからここに居る」
三人を車外に下ろし、カーラは座席に寝そべる。ぶつぶつ何か言いながらも三人は店に入って行った。
(それにしてもあのサモナーの野郎といい、以前のレイミを攫おうとした奴らといい、どうも気になる・・何かが大きく動くような・・かつての「グワイエットの乱」のような事を起こそうと企んでいる奴がいたりするのだろうか・・? )
とりとめなく考えるカーラだった、が、考えはすぐに中断されてしまった。
「もしもーし、カーラさん・・」
「何だ、もう買い物終わったのか? 」
「いや、それが、その・・」
何やら言葉を詰まらすレイミ。
「実はですね、前言った私の持っていた『王家のスペシャルセレブリティゴールドカード』、あれやっぱり使用不可能になっていたわ」「店の人に『これ使用停止になっていますよ』と言われてすごい胡散臭そうな目で見られたから急いで出てきたんだけど・・」「全く、お父様もこういう事だけは仕事早いし」
カーラ、あきれつつ、「やっぱりな」という表情で、
「ま、しょうがないな。大体レイミお前、『王家抜けたい、これからは自由になる』とか抜かしておいて王室の権威の物に頼ろうなんて虫が良すぎるわ。そんな都合のいい話あるわけないだろ」
「・・・・」
いつもならここで口答えの一つでもかましてくるレイミだが、さすがに意気消沈しており、涙目になっている。
「まあ、そのくらいにしておいてやれ」
マノンがレイミの両肩に手を置きつつ助け舟出してくる。
「レイミはずっと城で箱入りになっていたものだから世間のこととかよくわかっていないのだろうし・・」
一応フォローしているつもりなのだろうか?
「あのー、もしお金全然無いのでしたらこの街で稼ぎませんか? 」
フイリンが提案する。
「何だ? カジノか何かで稼ぐのか? 」
「そういうのじゃなくて、働き口を探すのです」
一瞬沈黙する一行であるが・・。
「そうだな、それもいいかもしれない」
最初にマノンが同意した。あとはいかにも面倒くさい、と言いたげなカーラと不安そうな表情のレイミが。
しばらく行くと一軒の建物の外壁に提示物を見つけた。
「あっ何か書いてありますよ、えーと・・」
『従業員募集・若い女性歓迎・時間、待遇等応談☆高級食堂・テスタメン亭』
「何か胡散臭くないか、これ? 」
マノンが疑問を持つ。
「まあ、試しに行ってみればいい」「お邪魔するぜ」
先に立ち建物の中に入っていくカーラであった。仕方なく皆も後に続いていく。
「表の張り紙を見た」と言った彼女らは店長を名乗る男の前に通された。はっきり言って彼の第一印象は最悪であった。脂ぎった顔、不潔そうな髪と眉毛、分厚い半開きの唇、妙に剥きだしている上に濁ったような目、濃い髭の剃り跡、短い手足に出た腹・・。このような人物が高級を名乗る店の長などというのが信じがたいのである。
じろじろと彼女らを舐めるように見回す店長。まるで品定めをするかのように。彼女ら一同は皆後悔しているような表情だ。
「お前とお前は給仕担当だ」
レイミとフイリンを指さす店長。
「そのでかいの、お前仰々しい剣など持っているが、腕に自信あるのか? 」
マノンに問いかける。
「え、ええ、まあ一応・・」
「ならお前には店の用心棒やってもらう。どう見ても給仕とか接客に向いていそうもないからな」
「ぷっ・・」
思わず噴き出したのはカーラ。マノン、キッと睨みつける。
「さて、お前だが・・」
「はいっ、私も給仕やりたいですうっ」
手を揚げ、満面の笑顔(おそらく作り笑いであるが)を向け、精いっぱいの大らかそうな声を出すカーラ。
「べへへへへへへ、お前いい乳しとるのお。わしの愛人になれや」
下卑た笑い声をたて、目を剥き血走らせ、ただでさえ脂ぎった顔にさらに汗を滴らせる店長。
「ああ?!ふざけんなこの野郎。誰がお前みたいなのに・・死にたいのか、こらぁ! 」
激怒し今にも殴りかからんとするカーラ。
「まあまあ、落ち着いて」
「そうです。ここはひとまず堪えてください」
必死で止めに掛かるレイミとフイリン。
「うわぁ、何この制服は・・」
レイミが引くのも無理はない。今にも下着が見えそうなほど短いスカート、ふりふりな装飾が付きまくってはいるが、胸から上の部分が何もない上着・・。
「ねえ、フイリン、こういう食堂の制服ってみんなこうなの? 」
「そ、そんなわけないです。この店がちょっと変な・・いえ、ちょっと所じゃなくて・・」
「お待たせ~~」
カーラも着替えたようだ、が。
「うわ・・きっつ・・」
何と、カーラ、髪をツインテールにしてしかもリボンなどを結び付けているではないか。しかも着ている服が服だけに胸がより一層強調される形になっている。正直いかがわしさが倍増しているのである。
「わ、私はなかなか似合っていると思いますです・・」
本心なのか単にフォローしているだけなのか?
「それよりフイリン、私はこういう事したことないからどうすればいいのかよくわからなくて・・」
「大丈夫、新人さん、私が色々教えてあげるから」
声のした方を見ると同じ制服の一人の少女が来ていた。歳はレイミより一つ二つくらい上といったところであろうか。髪をポニーテールにし、一見地味な顔つきではあるが、決して悪い容姿というわけではない。
「先輩ですか、よろしくお願いします」
頭を下げるフイリン。つられて頭下げるレイミ。カーラは・・別に興味なさそうにそっぽを向いていた。




