死か栄光か・見知らぬ明日に向かい走り続ける 5
「ねえ、フイリン」
「何ですか、レイミさん」
「あなた怪物図鑑なんて持っていたけど、ああいう関連好きなの? 」
「ええ、怪物とか巨大生物とかそういう怪しげなのってグッと来ません? 」
「・・へえ、何か以外ねえ・・あなたはどちらかいうと可愛い系みたいなの好きなのかと・・」
「ちなみにレイミさんはどういった物がお好きなのですか? 」
「私はかっこいい物、強そうな物、あと切れ味が良さそうな物が大好き・・」
二人がとりとめのない会話を続けているのは、怖さを紛らわせるためであろう。握り合う手の力も増しているようだ。
「来るかな・・? 」
カーラが呟く。
「どうかしたか? 」
「分からんか? 地面が小刻みに震えている。奴が移動してきたかもしれん」
カーラの言う通り、何やら地面が振動しているのがマノンにも分かった。そして、いきなり地面より飛び出た触手がレイミとフイリンにまとめて巻き付いた。
「うぎゃあああああああ!!!!」
この世のものとは思えないような悲鳴を上げてしまう二人。幾ら覚悟していたといえやはり不意に襲われればどうしようもないし、驚きもする。
「よしっ、地面に引き込まれる前に逆に奴を引きずり出す! 」
走り出すカーラ。手先には気力を溜めている。後を追うマノン。
「どっせーーい! 」
込めた気力を思い切り地面に叩きつける。
「よし、そこら辺をその剣でぶっ刺しまくるんだ! 」
「あ、ああ」
何か釈然としないまま剣を地面に突き立てまくるマノン。
「ちょっと! 何だか触手から変な汁が滲みだしてきたんですけど! 変な臭いとかもするし」
「ううっっ・・ぬらぬらしてすごく気持ち悪いです。それに何だか・・」
何やら捕まっている二人はやば気なことになっているようだ。
「さっき私が捕らえられていた時と様子が異なる? やはり処女がどうとか関係有るのだろうか? 」
疑問を抱くマノン。
「おらっ、出てきやがれー! 」
さらに気を込めた一撃をかますカーラ。するととうとう地面が抉れ、その怪物の胴部と思しき物が姿を見せた。
「てえいっ! 」
その胴に思い切り大剣・ラウダーザンヘル・マークⅡを突き刺すマノン。すると・・
ぶぎゅるるるる、と雑音だか鳴き声だか分からない音を立て怪物が暴れ出し、さらに全貌を露わにしつつある。しかし、しぶとくも触手に巻き付けたままの2人を放そうとしない。
「奴の触手を斬らないと! 」
二人を掴んでいる触手を斬ろうと怪物に駆け寄ろうとするカーラ。そこに別の触手が襲い来る。
「ええい、うざいっ! 」
例により"気"の刃で斬りまくる。すると、何という事か? 切断して蠢いていた触手が再び襲い掛かって来たのだ。
「!?なっ!?」
腕に巻き付かれそうになったが、間一髪マノンの剣が薙ぎ払った。
「すまない・・(それにしても、あの化け物、さっきとは様子が違っている? )」
ずごうをおおおお!
またしても訳の分からない声を上げ、怪物の胴部が迫って来る。その胴の中央あたりが裂け、実にグロテスク極まりない器官が現れる。どうやらそれが奴の口のようだ。
「よし、あの中に"気"をぶち込んでやるか! 」
「待て! そこまでだ、ユー」
声が聞こえた。何者か? その方向を見ると一人の人物が立っていた。魔道を嗜む者がよく着ているローブのような服を身に纏い、ウエーブの掛かった薄い褐色の髪で片目を隠し、肩の下あたりまで伸ばしている。 声のトーンからして男のようだ。
「ふん、やはりそいつを操る召喚者が居たか・・」
「フッホホホ、村の奴らが誰かを雇ったと思ったらまさかカーラ、ユーだったとはな」
「お前、ペルテルセンか? 」
マノンが問いただした。彼のこと知っているのであろうか?
「ホッホッホ、そこのユー、ミーのことを知っているのか? 」
「ペルテルセン、そういえば聞いたことあるな。悪辣で手段を択ばないことで有名な。そんなものだからすっかり、同業者からは鼻つまみ者扱いされているようだが」
その界隈ではそれなりに有名な奴のようだ。
「何の目的でこんなことをしている? 誰かに雇われたのか? それよりあの二人を解放しろ」
マノンが矢継ぎ早に言葉を浴びせる。
「フホホ、馬鹿め、折角の人質だ、誰が放すものか」
触手に絡め捕られたままのレイミとフイリンだが・・。何やら二人の様子がおかしい。二人とも顔が紅潮し、目つきがトロンとしている。さらに口がだらしなく半開きになっている。
「おい? どうした? 二人とも? 」
「このビズガーヤは処女の肉が好物でな、獲物が処女の場合、まず特殊な粘液で相手に刺激を与え、エキスを分泌させるのよ。そうすると味が更に良くなるらしい」
「エキスって・・おい!?」
よく見ると二人の下半身は何やら異様に濡れそぼっているのがわかる。それは明らかに怪物の出したものではなく・・。これにはさすがのカーラも引き気味である。
「ビズガーヤよ、この処女は後でゆっくりと味わうがいい。まず目障りなあの二匹から始末するのだ」
余裕を感じさせる態度で怪物に命じる、召喚者。
「ふん、やれる物ならやってみろ。こいつの芸の無い触手攻撃などもう通用しないぞ」
内心、はやる心を見せずこちらも余裕あるフリをするカーラ。
「ユーたち、一歩でもその場から動いてみろ、この2人が先に食われることになる、ホッホッホ・・」
グルルルルーン、と呻りを立てて怪物がその口を大きく開き迫って来る。まさか、直接飲み込むつもりなのだろうか?
「おい、マノン、剣貸せ」
「? 何をするつもりだ・・? 」
「説明してる暇なんかないだろ、早く! 」
何か策があるのだろうか? 剣を受け取ったカーラそのままその場に立ち尽くしている。迫る怪物。そして何と言う事であろうか! 自ら怪物の口に飛び込んだではないか!!
「カーラ!?」
驚き叫ぶマノン。当然の反応であろう。
「フホッ、ホホッ、ホーーッホッホッ、奴め、敵わぬと悟り自ら死を選んだか。あのカーラの最後にしてはあっけなさ過ぎるが、これでミーの名声が益々上がるというものよ、フホホホホ・・」
歓喜の高笑いをするペルテルセン。だが・・。
「? 怪物の様子が変だ・・? 」
マノンが訝しがる。
「な、何だと?!・・・うっ? どうした、ビズガーヤ? 」
不自然に蠢き出した怪物。げごっげごっ、と異様な声を出している。そして次の瞬間・・。
バシューッ!!音を立て怪物の半身が消し飛んだ。後に残ったのは肉片の数々と千切れた触手、ベトベトの体液・・。そして、姿を見せるカーラ。
「カーラ!?お前・・?!」
驚きと歓喜の表情のマノン。
「ふっふっふ、ああいうのは幾ら外から叩いても効果は薄そうだからな、内部から潰すしかないと思った、中で"気"を増幅させお前の剣に纏わりつかせ切り刻みまくってやった。文字通り捨て身の戦法だったが」
「っっ、おのれー、ユーッ、よくもミーの使役獣を~~、許さーん」
怪物をやられ、怒り心頭のペルテルセン。
「怪物を失った召喚者など只の雑魚だな。それにしても化け物の変な液が付きまくって気色悪くてたまらんし、さて、この礼はたっぷりとさせてもらうぞ」
ペルテルセンに向かうカーラ。
「くっ、糞が、これで終わりと思うな、まだチャンスは幾らでもある。フホホホホ」
負け惜しみを言うなり、消えるペルテルセン。瞬間移動も使えたのか。
「おい、待てこの野郎! 」
色々聞き出そうと思ったのだろうが、逃げられてしまう。
その間に、レイミとフイリンを助け出すマノン。二人はまだ顔を紅潮させ、息遣いも荒くなっている。
「大丈夫か? 二人とも」
「あっ? はあはあ・・何か体が熱くなってます・・こんな感じ初めて・・」
「この感じ何かに似ている・・そう確か、初めての・・」
そして、マノンに抱きついた、というよりむさぼりつくと言った方がいいかもしれない・・。あろうことか彼女に胸と股間を擦り付けるのだった。
「ち、ちょっとやめろ、落ち着け、なっ?!」
さしものマノンもこれにはたじろいてしまう。
「いやー、なかなか羨ましいですなあ」
にやにや笑いながら見ているカーラ。
「このっ、カーラ、助けろ」
「しばらくすれば正気に戻るだろ? 戻った後も楽しみだな、うひひ」
「全く、趣味悪いわ、こいつ・・」




