死か栄光か・見知らぬ明日に向かい走り続ける 4
「まず怪物退治の方から片付けたら? 決着はそれからでもいいでしょ? 」
両者、出鼻をくじかれた形となり、矛を収める。
「そうです。四人でかかれば怪物も何とかなるかもしれません」
口出す村長。
「あ?! こいつと協力しろと? 」
不満を隠さないカーラ。
「私もごめん被る。勝手にやらせてもらう」
やはりマノンも不満を隠そうともしない。
「・・まあとりあえず話だけでも・・」
村長は状況を話始めた。
「この村の北の外れの方に森がありまして、山菜やキノコがよく採れるので村の者がよく行っておりました。それが二月前、最初の犠牲者が・・」
彼の話によれば、犠牲者は数人発生しているのだが老人はあまり食われてはおらず、若い者の方が食われ方が酷くなっていたそうだ。何にせよ、そのせいで村を逃げ出す者も居たりして、すっかり活気が失せてしまっている。
「もしかするとそいつは天然物の怪物ではなく召喚者が使役している可能性があるかもな」
シリアスな顔つきでふと呟くカーラ。
「だとしたら何のためにそんなことを? 」
誰もが思うであろう疑問である。
「何であろうとかまわん。直接対峙してみれば分かる事だ」
マノンはそう言うと店外に出て行こうとする。
「うちらも行くぞ、奴に先越されてたまるか! 」
「全くもう、さっきは全然乗り気じゃなかったのに・・」
「不安ですが行ってみるしかありませんね」
呆れるレイミ。不安を抱くフイリン。
カーラ一行も急いで後から行く。
問題の森には20分ほどで着いた。見た感じ別に何の変哲もないただの森でしかない。野鳥の鳴き声が聞こえたりもしている。それにしてもまだ日は高い。果たしてこんな真昼のうちから怪物は出て来るのであろうか?
「別にそれらしい気配とか全くないな・・」
ずいずいと森の中へと入っていく一同。マノンは三人に先行して歩き進んでいく。
「あの人、一人で先に進んじゃっていますけど、大丈夫でしょうか? 」
心配そうなフイリンだが。
「ま、もし怪物が出て来たらあいつを囮にして襲わせればいいや。その隙にこちらは奴の様子を見極める。そうすれば相手の正体とか掴めて対策を講じられるかもしれん」
(酷いなあ・・)
言葉には出さないが、引いているレイミであった。
小一時間程度歩いた頃合いだろうか、先行していたマノンが突然歩みを止めた。
「ん?! 何かあるのか? 」
先ほどとは何やら森の雰囲気が変わっている気がする。そういえばあれほど鳴いていた野鳥の声がぴたりと止んでいる・・。
「うっ!?」
それは一瞬のことに見えた。何と突如として地面より現れた数本の触手の様な物にマノンの手足を絡めとられているのが見える。奴は彼女を地中に引きずり込もうとしているのだろうか? 並みの人間よりも力ありそうなマノンであるが、やはり怪物相手では分が悪いとみえてずりずりと引きずられつつある。
「大変! あの人を助けないと! 」
剣を鞘より抜き飛び出そうとするレイミ。しかし・・。
「待て、どうなるか様子見ていよう。それにあいつもうちらになんか助けられたくないんじゃないの~」
半笑いで止めるカーラ。
「鬼か、あんたは?!」
「未知の相手に下手やらかせばこっちもヤバくなる・・」
ついに地面に倒され、めり込みそうになっているマノン。根性で踏ん張っているが最早限界か。
「ちっ! 」
舌打ちするなり駆けだすカーラ。
「あっ!?・・全く・・」
レイミ溜息をつくが、内心ほっとするのであった。
「うるぁっ! 」
叫ぶな否や、"気"刃で怪物の触手の一本を切断する。そして片腕が自由となったマノン、大剣を取り、残りの触手も切断しまくる。切り口からは奇怪な色と粘りの汁をまき散らし、なおも蠢いている。
「ふん、調子こいて油断するからだ。無様だな」
マノン、地に跪き、荒く呼吸をしている。一瞬カーラを睨んだが・・、
「全くだ・・よりによってお前に助けられてしまうとはな・・情けない・・」
(あれ? えらく素直じゃないか・・)
少々拍子抜けしたか、カーラ。
「大丈夫ですか? 怪我しているようですけど」
フイリンが側に来て、治癒術を掛けようとする。
「大したことないから・・」
「出血していますよ」
有無を言わさず治癒を施す。
「済まない・・えーとお前は・・? 」
「フイリンと申します。フイリン・アーセル」
「そうだ、お前に会ったら返そうと思っていた・・」
マノン、懐より何かを取り出した。それは、以前ブリステール高地での戦いの際、フイリンがマノンに掛けてやったケープであった。
「あ、あー、ありがとうございます・・」
意外と律儀な人だな、と思うフイリンだった。
「怪物は逃げてしまったのかな? それにしてもこの触手・・」
あたりを見回すレイミ。そして切り落とした触手はまだびちびちと蠢き続けている。
「やはり本体は逃げられたか。となると手掛かりはこの触手だけか・・・。それにしてもきもいな、これは」
さすがのカーラもこの手の物は苦手なのだろうか。ふと、フイリンに目をやると、荷物の中から何やら本を取り出して読んでいる。表紙には「メタリアーナ世界怪物大図鑑」とある。
「この本確か城の図書室にあったやつじゃ・・」
「何か分かることあるか? フイリン? 」
聞かれたフイリン、開いたページを指さしつつ、
「あれはきっとここに出ている『ビズガーヤ』かもしれません」
他の皆も覗き込む。そこのページには件の怪物の図版と解説が載っている。体全体がぬらぬらとした粘液のようなものに覆われており、数本の触手を持ち、頭部にあたるあたりの場所には縦方向に開いている口の様な物が付いており、内部には細かい歯の様な物が生えそろっている。骨格に相当するものは無いような感じである。何とも生理的嫌悪感を催すような姿形ではある。
「どれ、何なに・・『出生不明の怪物。どのようにここメタリアーナ世界に現れたのかは一切不明である。分かるのは非常に獰猛であり人間を襲う事が多い。そして、特に処女の肉を好むという・・知能は著しく低く、召喚者に戦闘用に使役されることも多い・・』・・えらく大雑把な解説だな」
図鑑の解説を読み上げたカーラ。
「弱点とか対策方法とか書いてないのか? ・・『その体には猛毒が含まれているので食用には適さない』・・・食ってみた奴居るのだろうか? 」
触手の方に目を向けてみる。まだしぶとく蠢いている。いい加減しつこい。
「どうするの? 」
不安げにレイミが聞く。
「そうだな・・ここに『処女の肉を好む』とあったな。と、いうわけでだ、お前とフイリン、囮になれ。それで奴をおびき寄せることができるかもしれない」
「えーーーっ!?」
二人同時に叫ぶ。
「ま、私が囮やってもいいんだけどね、生憎処女じゃないもんで。かーっ残念だわー」
あきれ顔でカーラを見るマノン。そして二人に向かい、
「ほかに策がないのなら仕方ないが・・なるべく危険が及ばないようにしてやる」
「なるべく・・ですか・・」
先行するレイミとフイリン。二人はどちらからともなく手をつないでいる。やはり恐怖を感じているのか少し震え気味のようだ。
しばらく間を開け後を追うカーラとマノン。
「それにしても・・あの怪物は獲物が処女かどうかなんてどうやって判別するんだ? 」
普段真面目そうなマノンにしては珍しい疑問である。少し疲れもあるのだろうか?
「さあ? 匂いとかで判別するんじゃないの? 」
「匂いって・・そんなの分かるものなのか? 」
「私は分かる!(キリッ)」
(最低だ、こいつ・・)
少し見直して損した、と思うマノンであった。




