炎の力・強襲!紅き独眼 2
ブリステール高地、そこは王都を望む高台である。非常に険しく大小の岩が転がり或いは地面にむき出し、突き出てたりしている。とても普通に移動できるような地形ではなく、どうにか通じている道路が一本しかないという状況であり、とても集団での移動には適さないし、ましてやこの様な場所での大規模な戦闘は起こりうると言う事は考えられない。
(実際、カーラはここに来るのだろうか?確かに王都正面から来ないとなればモルタヘイドからのルートはここしかないのだが・・)
高地の際頂部に近い場所、岩と背の低い植物以外には何もない────に陣取りつつ半信半疑のマノン。
「隊長、何やら心配事でも? なあに、幾らカーラが不死身のバケモンでも俺たちなら仕留めてみせまさぁ」
屈強な体つきの男が話しかけてきた。そう、彼らこそマノン率いる傭兵集団のつわものである。報酬のためなら危険も厭わない戦争のプロたち。
「元々、カーラはモルダヘイドの姫、レイミ・キルミスターの直衛を目的に雇われた、という噂もあります。となると、レイミ・キルミスター姫が奴らの隊に居る可能性があります」
「ふむ(勝てる戦と鑑みて娘をも参戦させたか、ホークウィンド王)」
「へへっへ~そのお姫様は俺がいただいちまっていいっスかねー? 隊長? 」
別の兵がマノンに話す。
「カーラは怖ええが、姫様ならイケるだろうしなー、ぶふふ」
マノンはあまり面白くなさそうな表情である。そういう行為が好きではないのだろうか? しかし、
「まあ、好きにしろ」(明確な報酬や愉しみがあれば隊の士気も上がるか・・)
「隊長、偵察隊、只今帰還いたしました」
偵察に出ていた兵が戻ってきたようである。
「うむ、状況は? 」
「レイミ姫率いる隊がこちらに向かい進行中です。敵の規模は3、40人程度です。少数精鋭のつもりでしょうか? 」
「ご苦労だった」
マノン、偵察兵に労いつつも、
「よし、者ども、戦闘準備だ、例の作戦を決行する」
と、
「あいや、待たれい! 」
いきなりの声。誰だ?
「? あなたはグレプトン殿、なぜここに? ロブハムホード王をお守りするのではなかったのですか? 」
マノンが疑問に思うのも無理はない。彼、グレプトンは王国軍の将官であり、王に最も近しい人物である。本来なら王の居城を守るべき存在であるからだ。
マノンを無視するように一方的に喋るグレプトン。
「イアンヒルが勝手に暴走し余計な事をしてくれたおかげでモルタヘイドに開戦の口実を与えることとなってしまった・・」
「・・・」
マノンは心当たりある話なのでとりあえず黙っているしかない。
「わしはこう思っている。イアンヒルをそそのかし、わざと我が国を戦乱に陥れようと企んだ者が居るのに違いない? と」
「! 」
内心どきりとしたマノンではあるが、表情はあくまで崩さない。
「その者こそ、モルタヘイドに寄生しながら、戦乱を巻き起こしこの世界を再び混沌に変えようとしているカーラ・エンジェルウィッチその者にほかならぬ」
(ふう・・こいつ、思ったよりバカで助かったわ・・)
見当違いのグレプトンの考えにほっとするマノンであった。
「カーラは我が隊が討伐する。お前たち傭兵どもは残敵の掃討に徹しよ! 」「それとだ、もしレイミ姫と遭遇したら生かして捕らえよ。奴には色々使い道がある」
進軍していくグレプトン率いる、一軍。歩兵や騎兵だけでなく装甲魔道車に魔道重砲の姿も見える。かなりの重武装だ。
「隊長、あの野郎に好きにさせていいんですか? カーラは俺たちが殺るはずだったのに」
「悔しいですぜ、畜生! 」
不満をぶつける部下の兵たち。
「言うな! 所詮傭兵である我々は正規の軍人である奴に逆らうことはできない・・」
一番悔しく思っているのは、隊長であるマノンであろうことは兵たちも分かってはいるであろう。
(だが・・このままでは終わらん・・)
一方、レイミの隊も高地頂上付近に接近しつつあった。
「測候を出すべきか・・我々のことは敵に察知はされていないはず・・」
思案するレイミ。だが、その思惑はすぐに外れていることを思い知らされる。
ドウッ!!
「!?」
いきなりの炸裂音。後方の兵数人が吹き飛んだようだ。
「畜生! これは魔道砲だ。皆岩陰に伏せろ! 」
カーラが叫びながら魔道車を乗り捨て、フイリンの手を引き道路わきの岩陰に飛び込む。直後、木っ端みじんに吹き飛ぶ魔道車。
「ああっ、貴重な魔道車が」
それ所ではない。
「カーラ!?」
怯えた声のレイミ。
「心配するな、魔道砲弾は希少品だ、大量に使えるものじゃない。すぐ治まる」「その後に兵員の突撃があるはずだ」
戦況を分析するカーラ。伊達に修羅場はくぐっていないのか。
「しかし、この地形では集団戦は不利となる」「だからうちらにも勝機はある」
「姫様! 敵影が見えました。どうやら先頭に装甲魔道車を押し立てています」
兵の報告する声がする。
カーラ立ち上がると、伏せから頭を上げ始めたレイミに向かい、
「あの通り、装甲魔道車は一台づつしか進むことができない。私が先陣を切る。兵共には側面から攻撃をかけろと、命じろ」「それと・・レイミ、お前はフイリンとここに居ろ。汚れ役は私が引き受ければいいだけだから・・」「お前が手を血で汚すことはしなくていい」
カーラの意外な言葉に一瞬気おされたレイミであるが・・。
「あ、ありがとう、カーラ、気遣ってくれて・・。でも私はモルタヘイド王国、ホークウィンド王の娘、その事実から逃れられない以上、覚悟はできています」「姫である私が逃げていて、兵たちが附いて来るはずがありませんから・・」
「そうか・・成長したな、レイミ」
見つめ合う二人。この場だけ時が止まったかのような錯覚を覚える。吹いて来るは一陣の風・・。レイミを優しく引き寄せるカーラ。そして・・。
口付け。
「!?」
さすがに、不意を突かれ驚くレイミだ、が。不快ではなかった。むしろ心地よい・・。この時が永遠に続けばいいのに・・。
「フイリン、レイミに就いていてやっててくれ」
カーラ、そう言い残すと、戦いの場へと赴くのだった。
「あ!?は、はいっ」
真っ赤になって俯きながらも返事を返すフイリン。しかし、顔にかざした手の指の隙間はしっかり開いているのだった。




