炎の力・強襲!紅き独眼 1
戦闘は完全な奇襲となった。不意を突かれたジュダスプーリの軍は反撃もままならず、各個撃破されていった。破竹の勢いで王都に迫りゆくモルタヘイド王国軍。迎え撃つ敵将、グレプトンにスコトラビス。
「ここで手柄を立て、陛下に私の存在意義を見せつけねば。カーラのような馬の骨に大きな面をさせておくわけにはいかぬ」
ひたすらに戦功を立てることに燃えるルウカスであった。
一方、レイミは考えあぐねていた。父、ホークウィンド王に対ジュダスプーリ戦への参戦を命じられたからだ。確かに自分の代わりにフイリンを攫ったのは彼らであり、目的はカーラの始末であったらしいことは分かった。それでもそれを口実に大規模な戦争を仕掛けることに対し納得しかねるのだった。
「ねえ、カーラ、あなたどう思う? 」「お父様は、貴方とフイリンを同行させてもよい、とか言っていたけれど・・」
とりあえずカーラに話を振ってみる。
そのカーラはというと・・。椅子にふんぞり返りながら爪の手入れをしている。
「お前の親父が勝手に始めた戦争などに興味はない。私が参戦せねばならない義理も無いし。」「で、お前はどうなん? ジュダスプーリ王国に恨みとかあったりするのか? 」
「正直、意外です。レイミさんの父君、ホークウィンド王がこのような方だったなんて・・。私が最初にここに来た時には優し気な言葉を掛けてくださった方なのに・・」
やはり同席しているフイリンが複雑そうな表情で答える。
「己の利益や或いは多くの人間の利害を抱えているとなると、そちらを優先することとなる。権力者もそれなりに大変であるものだ。個人の感情など意味を成さなくなる」
百年以上生き続けている彼女が言うと説得力はあるか?
「明日、お父様自らも出陣なさり、先鋒のルウカスの隊と合流するそうです」「私も小隊を率いて別方向から敵王都を目指せ、と・・」「幾ら私でもお父様の命には逆らう訳にはいかない・・」「だから私だけで行きます。カーラとフイリンは留守をお願い」
レイミはそう言うと立ち上がった。その顔には並々ならぬ決意が。そう、死をも覚悟したような。
「お前、まだまともに人間相手の実戦やったことないだろ? 」「死ぬぞ」
後方から声をかけるカーラ。
「そんなのは覚悟している・・正直怖い。でもモルダヘイドの姫である以上逃げることなんかできない」
振り向いた彼女の眼には涙が。
「ちっ、しょうがないから付き合ってやるよ。だからそんなに思い詰めるな・・」
後ろから抱きしめてやるカーラ。頷くレイミ。
フイリンも立ち上がり、
「私も同行させてください。戦いは嫌だけどせめて他のところでお役に立ちたいので・・」
「ありがとう、二人とも。でも無理はしないで」
笑顔を見せるレイミ。しかし、自身が無理をしているように思えるのであった。
「総員に告ぐ! 我レイミ・キルミスター指揮する遊撃隊はブリステール高地より敵王都方面に進軍する! 諸君の同胞を殺害し、こともあろうにこの私を拉致しようとした悪しき仇敵・ジュダスプーリに正義の鉄槌を加えるのだ。各員一層奮励努力せよ! 」「なお、一般民衆に対する暴行・略奪の類はそれを一切禁じる。違反した者は厳罰に処するので心しておくように」「くれぐれも誇り高き、モルタヘイド王国国軍将兵の自覚を持ち、規律を遵守することを忘れるなかれ! 」
隷下の兵士たちに向かい、檄を飛ばすレイミ。規模としては多くない。大多数の兵はすでにルウカスの隊として先に出ているからである。
騎馬と魔動車の隊列が街道を進軍してゆく。魔動車を駆るカーラが騎馬のレイミに語り掛ける。
「ん~、レイミお前、さっきの演説中々様になっていたぞ。やればできるやん。感心感心」
しかし、レイミ、いつもと違い何も反応せず、ひたすら前を向き、口を強く結んでいるだけである。
(カーラさんはレイミさんのことリラックスさせようとしてわざと軽口叩いているのでしょうね・・たぶん・・きっと・・)(私は誰にも死んで欲しくないし、殺したくもない・・どうすれば? )
隣の座席のフイリンは胸のアンクを握り締め、杖を抱き抱え、不安そうにしている。
同行の兵たちの会話が所々聞えてくる。
「姫様、厳し過ぎるぜ、略奪禁止なんてよ・・それが楽しみの一つなのによ、ルウカス隊長なら話がわかるのに・・」
「シッ! 聞こえるぞお前」
(ああ、これが人間の性なのでしょうか? アンジュエラ様・・)
ジュダスプーリ王国王都の街中。その一角の何の変哲もない店舗。看板には「あなたの運勢占います」とある。占いの店のようだが今は閉まっているようである。
「モルタヘイドの軍勢がここ、王都に迫ってきているみたいですね、うふふ、予想よりだいぶ早い・・」
薄暗い店内の一室、明かりと言えば小型のランプの様な物のみ。壁際に様々な書物の詰まった本棚、本以外にも色々と訳のわからないアイテムが上に乗っている。そして、部屋のほぼ中央部に居るのはフードを目深に被っている女、テーブルの上の球形の物体に景色を映し出している。そう、彼女は射干玉の魔女・ミメント・モーライである。どうやらここが彼女のアジトのようなものであるようだ。
「あなたはどうするのです? 彼らを迎撃しますか? 」
彼女が問いかけた先に居るのは、紅毛の剣士・マノン・ウォウ。壁に寄り掛かりながら立っている。
「・・奴らの中にカーラは居るのか? 」
「いえ、そちらには居ないようですね・・」「別働で行動しているのかもしれません」
そう言うと何やら念を込めながら、球体を凝視している。
「カーラはブリステール高地方面から侵攻して来る、と出ました。ちなみにモルダヘイドの姫、レイミ・キルミスターの隊のようですね」
顔を上げ、マノンを見る、ミメント。
「とりあえず、お前の占いを信用しておこう」「我が隊はそちらに向かう」
ドアを開け、出ようとするマノン。
「本気でカーラとやり合うつもりのようですね」「何なら、戦闘用怪物をお貸ししましょうか? マノン? 」
背後に問いかけるミメント。
「いや、いい、それには及ばん」
足早にアジトを出て行くマノン。その背には自信が溢れているようだ。




