我が歩むは修羅の道・背後に広がるは死の荒野 7
「バ、バスオブンが殺られちまった・・」
さすがにショックなエンバーゴである。
「おおお、おい、何とかしろ、今度こそ奴を殺せ! 何のためにお前に大金払ってやったと思ってんだ! 」
イアンヒルも完全に恐怖している。
そんな二人に対し、カーラ顔を向け、にかっと笑う。相変わらずの邪悪な笑みを。
「しゃくれ野郎、次はお前の番だ。覚悟はできてるだろうなぁ? 」
「くっ糞ッ! 」
踵を返し逃走を図ろうとするエンバーゴ。(冗談じゃねえ、あんな奇怪)な技使う奴、奇襲でもない限り勝ち目ねえわ、さっきは折角うまく行きかけていたのにあのバカが邪魔に入りやがって)
「うふふ♡逃がしはしないよ(にっこり)」
しかし、回り込まれてしまう。
(ちっ、畜生~何とかしねえと・・)
「まっ待て、待ってくれ、取引しねえか? 」
左手を前にかざす一方で後ろに隠し持っている手裏剣を手にするエンバーゴ。やはり油断のならない野郎である。
「お前とする取引なんかないんだけど」
冷たい眼差しを向け冷たい口調で吐き捨てる。
「そうです、カーラさん、こんな奴の戯言に耳貸す必要なんかないです、さっさと殺っちゃってください」
「お前、このフイリンにこう言われるなんて相当だぞ、余程酷いことしたんだな? 」
シュッ!!エンバーゴ、無言で手裏剣を投げつける。
だがカーラ、その二つの手裏剣を両手のそれぞれ指二本で掴むと投げ返した!
と。
「うっっ・・貴様あっ、この俺を盾にぃっ! 」
何と、エンバーゴ、こともあろうにイアンヒルを盾にしたのだった。イアンヒルの眉間と胸元に深々と突き刺さる手裏剣。
「ケェェェェェッ! 」
奇声張り上げ大きく跳躍するエンバーゴ。手にした大型ナイフをかざし、カーラに襲い掛かる。
カーラもすかさず跳躍し、エンバーゴに対しサマーソルトキックが炸裂ヒット! 地べたに叩き落した。
「せこいなあ、お前・・」
そして、エンバーゴが持っていたナイフを手にする。
「お前如きにわざわざ私の"気"を使うのも勿体ない、だからこいつで止め刺したる」
ナイフを弄びつつ近づくカーラ。
ジャギィッ!
金属音とともに何かが飛び出した。エンバーゴの義手の手首から先の部分が打ち出されたのだ。鋭い爪がカーラの顔をかすめる。離れた部分には鎖が付いており、それがカーラに巻き付きつつある。そして、再び跳躍するエンバーゴ。奴の靴の先から刃が飛び出している。
「今度こそ死ねェ、カーラ! 」
カーラ、まだ自由になっている片手で鎖を掴み捻りを加える。まだ義手の基部に繋がっていたものだからたまったものではない。そして再び、地面に叩きつけられるエンバーゴであった。
「ばぁか、そんな子供騙しが通用するとでも思ってんの? 」「つくづくムカつくやっちゃ」
ナイフを振り下ろし、地面に伏したエンバーゴに叩きつける。後頭部を貫通し口から飛び出すナイフ。さしものエンバーゴも完全に絶命したと見える。
「終わったぞ、フイリン」
フイリンに目を向けるカーラ。するとフイリン、なぜか虚ろな目で立っている。
「? フイリン、どうした、大丈夫か? 」
フイリン、はっ、とした様子で、
「カーラさん、うっううっ・・私・・」
大粒の涙を流し、カーラにしがみつきに行く。カーラ、それをきつく抱きしめるのであった。
「レイミが待っている。戻ろう」
そう言うなり、何とフイリンを抱きかかえた。俗に言うお姫様だっこというやつである。
「それにしてもフイリンお前、随分アグレッシブになったな? 見直したぞ」
フイリン、きょとんとした顔で
「え? 何のことです?私、カーラさんの声聞いたと思ったらしばらく記憶がなくなっていて・・」
「? 」
先のカーラたちの戦いを遠巻きに見ていた二つの人影があった。
一人は全身をローブで包み、目深にフードを被っている。そしてもう一人は・・長身に紅い髪、右目には眼帯、そして身長の三分の二はあろうかという大剣を背負っている。以前、ジェダスプーリ王国・城下町の酒場に居たマノン・ウォウと名乗っていた女で間違いない。
ローブの人物が口を開く。
「まったく・・あのイアンヒルという殿方、どうしてもカーラが殺られるのを見たい、とおっしゃっていたから連れてきてあげたのに・・無様極まりないですね」
どうやらその者も女性の様だ。
「まあ、いずれにせよ、これで貴方が望む展開になりそうですわよ、マノン」
マノン、しばらく無言だったが、
「・・・お前、あの小娘の方に何かしたのか? 」
ローブの女、さも嬉しそうに
「あら、お気づきになりました? さすがですね。うふふ、ほんの少し魔法掛けてあげました。そう、心に秘めた真の玉を引きずり出す魔法をね」「カーラがモルタヘイドに就いているのなら、わたくしたちの敵となるのは必然・・とはいえ別にわたくしはジェダスプーリ王国に忠義誓っているわけでもないのですけれど・・」
「傭兵であるあなたには新しいお仕事できるようになりそうですわよ、マノン、うふふ・・」
マノン、後ろを向き歩き出す。街に戻るのであろう。
(お前が何を企んでいるのか知らんが、私は己の仕事をこなすだけだ。せいぜい利用させてもらうぞ、射干玉の魔女・ミメント・モーライ・・)
レイミは待ち続けていた。ひたすらカーラとフイリンが無事に戻って来るのを。だが睡魔には勝てなかったか、うつらうつらと浅い眠りに落ちていた。
「おおー、戻って来たぞ! 」「姫様! 」
誰かの声が聞こえる。自分を呼んでいるのか? もう夜が明けたのか、日が目に眩しい。目をこらして見る。そして上る朝日を背にしているのは────────。
「フイリン! カーラ! 二人とも無事だったのね! 」
ダッシュで駆け寄るレイミ。そして思わず抱きつく。
「よかった。本当によかった・・」
カーラ、まだ返り血の付いた顔で不敵に微笑む。
「ふっ、安心しろ、私のような悪は殺しても死なんよ」
キルミスターの城に帰還したルウカス、さっそくホークウィンド王に報告する。
「大儀であった、ルウカス、と言いたい所だが・・」
ルウカス、王の言葉を遮り、
「おっしゃりたいことは分かります、閣下。下手人どもを始末し、姫様の身代わりに攫われた娘を奪い返したのはカーラめであることは・・」(姫様が止めたりするものだから・・)
「それより、閣下、耳寄りな情報がございます」
「何であるか? 申して見よ」
ルウカス、ここぞとばかり、少し大げさな身振りで、
「何と、始末された者の死体の一体がイアンヒルと呼ばれる人物のものでした」「イアンヒルといえば・・・」
「ジュダスプーリ王国・国王ロブハムホードの腹心の側近ではないか!?」
思わず立ち上がり激昂する、ホークウィンド王。
「その通りです。すなわち今回の事件は・・」
「ジュダスプーリが裏で糸を引いていた・と・・」
王、再び腰を下ろし、
「これは立派に開戦の理由となる」「ルウカスよ! 全軍に出撃の準備をさせよ! 」「侵攻目標ジュダスプーリ王国! 」




