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我が歩むは修羅の道・背後に広がるは死の荒野 6

(大丈夫、カーラさんがこの程度の攻撃でやられるはずなんかない・・)

 フイリンは確信していた。しかし、一抹の不安も感じてはいた。

「あ、あの、後、私をどうなさるおつもりなのでしょうか? まさか猥褻なことなさるつもりではないでしょうね? あの、いわゆる・・その、いかがわしい春画みたいな・・」

 彼女としては時間稼ぎのつもりなのか、それともカーラの敗北という現実を誤魔化したいのか、自身でもよくわからないとしか見えない。

 エンバーゴ、いきなり何を言うんだこいつ、という感じで

「うるせえ、俺はロリコンの趣味なんかねえ! てめえみたいなガキなんかち〇〇も起たんわ! 」「バスオブンはどうか知らんけどな」

 倒れているカーラの元まで半分ほど歩いてきたあたりで、その男は現れた。まさにいきなり湧いて出たが如く。全身黒づくめの衣服に身を包み、異様な事に顔には仮面を付けている。

「ほう、カーラを()れたようだな、さすがだ」

(!?、誰だ・・と、イアンヒルの旦那かよ・・何で仮面なんか? あ、そうか、姫に顔見られたらマズいからだな)

 あわてて頭の中の情報を整理するエンバーゴである。

「これから完全にくたばったかどうか確認するところだ、そうだ、何ならあんたがやってくれてもいいんだぜ」

「ふむ、それはいいとしてその娘は誰なんだ? 」

「!!!」(ヤバい、この人レイミさんの顔知っている!?)

 ショックどころじゃないフイリン。何とか誤魔化さないと・・。

「はあ? カーラ用のエサとして攫ってきたレイミ姫だが? 」

 エンバーゴも怪訝な態度である。

「レイミ姫は眼鏡など掛けていなかったような? 」

「さ、最近勉強のし過ぎで目が悪くなって・・」

 冷汗が噴き出る。

「髪の色も違うようだが?」

「い、イメチェンしようと思って染めたんです・・」

 顔も引きつる。

「背丈縮んでないですかな? 」

「た、たぶん目の錯覚かと・・」

 自分でも苦しい言い訳だと分かっている。しかし、こうするしかないだろう。

「小娘、てめえ、本当は何(もん)だ!?」

 ふと、バスオブンの方に目を移してみる。すると、奴は、両手を強く握り締め、まるで茹でた蛸の如く真っ赤になっているではないか。しかも、ふしゅーふしゅーと呼吸音も激しくなっている。これは一体?

「うっうぬぬぅ、許さぬ・・断じて許さぬ、このバスオブンである俺をたばかるとは・・この小娘風情がーっ! 絶対にゆるさーーーん!!」

 「い、いや、だってそちらが勝手に間違えただけなんですけど・・」と言ったところでこいつの怒りが治まるとはとても思えない。

バスオブン(こいつ)は己がコケにされたと思い込むとこうなる。一旦こうなっちまったら俺でも止めることはできねえ」

 打つ手なし、という態度のエンバーゴ。

 バスオブン、背に装備していた鉄棍棒を手にすると、頭上に掲げ、ブンブンと音を立てながら振り回す。

「ぶおおおおおおおおおおおっ!!」

 雄叫びと共にフイリンに向かって振り下ろす。

 ガゴッ!

 フイリン、直撃寸前に防御障壁張るのに成功したか。だが、同時に派手に吹き飛び転がった。

(ううっ・・障壁張ってもこの衝撃なんて・・でも、何も無かったら即死確実だった・・)

 全身に痛みを覚える。意識も遠のいていきつつある。

(ああ・・カーラさん、レイミさん・・フイリンはもうだめかも・・)

「ぐおおおっ! ぬぼおおおおっ! 」

 バスオブンは叫びながらその辺の崩れ残った城の一部を破壊して回っている。

「おい、何とかならんのか、あれは? 」

 あきれ果てたか、イアンヒル、エンバーゴに問いただす。仮面は必要ないことが分かったので外してしまっていた。

「ああしていればそのうち治まるわ。しばらく待ってろ・・そうだ、カーラの生死を確認しねえと・・・な、何だと!?」

 驚いたのも無理はない。なんと、さっきまでカーラが横たわっていた場所に、今は何も無いからだ。

「おい、エンバーゴ、奴は死んでなかったのか? さっさととどめ刺さないからだ! 」

「うるせえ、とどめ刺そうとしたらあんたが来たんじゃねえか! 」

 

 一方、まだ怒りが治まる気配もなく暴れているバスオブンである。

「うーっうぬーっ、このバスオブン、このような屈辱は未だかつて味わっておらぬ。かくなる上はこの糞忌々しい小娘を完膚なきまで叩き潰してくれるわ! 」

 今度こそ本当に死を覚悟するしかないのか、フイリン。

「おい、そこの蛸禿げ野郎、お前の相手はこっちだ! 」

 聞き覚えのある声。懐かし過ぎるその声の持ち主・・。

(ああ、やはり無事でいらしたのですね、カーラさん・・)とめどなく涙が溢れてきた。だが、今度は嬉しさの涙だ。

 バスオブンの前にカーラが立ちはだかっている。口元に微かに笑いを浮かべ、人差し指をくいくいと曲げ、挑発している。

「おのれぇーーこのバスオブンの邪魔建てするかあーー! 」

 鉄棍棒で打ち掛かる。が、カーラすかさずジャンプしてかわす。そして・・

「うっ!?」

 バスオブンの片耳が削ぎ落された。容赦なく垂れ落ちる血。

「貴様にはフイリン(こいつ)を痛めつけた分の罪を償わせてやる」

 不敵ににやりと邪悪そうな笑みのカーラ。

「ぐぬぅ! 」鉄棍棒を再び振りかざすバスオブン、だが・・、

「ぐっ!?」

 粉々に砕け散った鉄棍棒。

「ふん、武器を破壊したくらいでいい気になるな。このバスオブンの真の武器は己の肉体そのものよ! 我が耳の代償は高く付くぞ」

「ぐおおっ! 」

 気合を入れたかと思うと明らかに肥大したバスオブンの肉体。それは決して目の錯覚とかではなかった。がしかし、

「そんなコケ脅しに私がびびる、とでも? 」

 呆れ顔のカーラ。少しも奴を恐れる風もない。

「ほあああっ! 」

 ショルダータックルをかましにかかるバスオブン。が、突如としてあまりに不自然な事が起きた。何とあれだけ勢い付けてダッシュしてきたバスオブンがぴたりと停止したのだ。

「? 何だ? どうしたんだ、バスオブン? 」

 戦いを見ていたエンバーゴも訝しく感じたようだが。

「くっくっく・・ふふふ・・」

 不気味に笑うカーラ。そして彼女はある物を手に載せていた。そうそれは、まだ鼓動を打っている心の臓。それの持ち主はむろん・・。

 カーラ、手の心臓を握りつぶす。ブギュッというような嫌な音を立てそれは血をまき散らしながら潰れた。と、同時にバスオブンは前のめりに鈍い音を立て倒れる。

「あっ、あははははははー、やったね、すごいよ、カーラさん、サイコー! あはははは」

 立ち上がり目をぎらつかせ、笑うのはフイリン。以前の彼女とは明らかに違っている。一体どうしたというのか? あまりの異質な出来事の連続で頭がイカレたのであろうか?

 そんなフイリンに向かい、返り血を浴びた顔でにやりと笑いながらピースサインかますカーラである。


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