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我が歩むは修羅の道・背後に広がるは死の荒野 1

 キルミスター王家の治めるモルタヘイド王国、その隣国がジェダスプーリ王国である。群雄が割拠しているこの世界、幾つもの小王国が乱立し、時に覇権を争い、時に利害の一致により同盟したりを繰り返しているのであった。

 そんな隣国にもやはり首都たる城下の街があり、そこには人が集い、働き、遊び、生活の営みがある。そして無論、怪しげで胡散臭い輩も集まるのである。

 そこはこの街でも屈指の広さを誇る酒場であった。酒場、というよりむしろ賞金稼ぎ連中がたむろするギルド的な物と言った方が正しいのかもしれない。昼でも薄暗い店内、強いアルコールと怪しげなクスリの臭い、男を誘う女、それを物色する男、老いた者、若い物、ギャンブルに興じる者、騒めき、嬌声、怒号、混沌がそこにある。

 そんな彼らの会話が途切れがちにも聞こえて来る。

「おい、知っているか? モルタヘイドではあのカーラの手配が解除されたってよ」

「何だって? 」

「一体どういうこった? 」

「何と、驚いたことに奴が、カーラがキルミスターの軍門に収まったらしいぜ」

 ざわめく周り。「嘘だろ? 」「信じられねえ」という声が聞こえる。

「あのキルミスター王にそんな人望があるのか? 」

「何ならわしらが確かめてきてやってもいいぜ」

 突如として割り込んできた男の声。

「お、お前・・いやあなた方は・・・!?」

 割り込んだのは平均よりかなり背が低く痩せていておまけに酷いガニ股の男だ。逆立てた髪にしゃくれ気味の顎に不精髭といった容姿ではあるが毒蛇のような何物も信用しないような目つきと義手となった片腕(おそらく何かを仕込んでいるのであろう)が只者ならぬ雰囲気を醸し出している。腰に下げたいかにも凶悪そうな刃渡りが30センチはありそうなナイフが実に怖ろしげである。

 そして、奴の後ろに控えているのは前の男とは対照的にやたら長身で筋肉質な男だ。禿げ上がった頭部に覆面を付けた口、その見事な筋肉を見せつけるように上半身には革のベルトをクロスさせているだけである。その背には金属製の棍棒の様な物を装備している。そして何より恐ろしげなのは深淵を思わせる冷たく真っ黒な目、おそらくこいつに睨まれたら誰もが恐怖するであろう。

「エンバーゴにバスオブンか! 」

「ふん、奴とはいずれ決着(ケリ)付けるつもりだったしな。何しろ同業の奴らがことごとく殺られちまっている。奴の首採ったれば俺たちの箔がますます上がるってもんよ、なあ、バスオブン? 」

「うむ」


 話は数時間前に遡る。

 ここはジェダスプーリ王国国王ロブハムホードの城の間。この部屋の調度品と言えば何やら奇怪な装飾が付いていたり、壁に掛けられた絵はやたら煽情的な絵だったりこの王の趣味が何となくわかる。そんな中、二人の人物が対峙し何事かを話している。

 一人はむろん王、ロブハムホード、もう一人は彼の腹心の部下である、イアンヒル郷である。灰色の後ろに伸ばした髪に、細い眉と酷薄そうな細い目、口髭と顎鬚を蓄え見るからに油断のならなそうな人物である。

 まず口を開くはロブハムホード王、

「あのカーラがモルタヘイドのホークウィンド・キルミスター王に就いた、というのは確かなこととなった・・」

イアンヒル郷、憂いを込めた表情で

「威力偵察に出した、家畜怪物デムボガーが奴に返り討ちにされました。半信半疑ではあったのですがこれで確定かと・・」

「そうでなければデムボガーをあのように斃せる者などあの城にはおらぬはず」

ありがちではあるが、ここジェダスプリット王国は隣国であるモルタヘイドとは領土問題をはじめ幾つかの懸案を抱えている。事実過去に両国は何度も武力衝突を起こしていた。

「実に厄介なこととなった。あのような力の持ち主を配下に加えたとなるとホークウィンド王(ヤツめ)、我が国に本格的侵攻を企てるかもしれぬ・・」

 王、いかにも忌々しそうに、

「あのキルミスターのような男がカーラを取り込めるような人望も能力もあるとは到底思えぬ・・一体どのようなやり方で・・」

「正直我が国は小規模国家だ。兵の総数を増やすのもおいそれとできるものではない。従って一人一人が卓越した能力を持った優秀な人材が欲しいものだ」

 イアンヒル、待ち構えたかのように

「ならば陛下、あの者はどうでしょうか? 」

「? あの者とは? 」

「例の射干玉(ぬばたま)の魔女、ミメント・モーライ」

 王、お前正気か? と言わんばかりの顔となった。

「奴はカーラより危険かもしれぬ、気を許せるような存在ではない」「それともお主、奴を扱うことができるのか? 」

 イアンヒル、何かを誤魔化すように、

「いえ、ただ何となくカーラのような者に対抗するには、毒を以て毒を制す、というかそんな感じで・・」

 王、少し不快になったようで

「それなら城下町の酒場にたむろしている連中の中から使えそうなのをスカウトした方がましだわ」

「イアンヒル、お主行ってみたらどうだ? 」


 再び酒場に舞台は戻る。

「邪魔をする」

 突如として扉が開き、数名の男たちが入ってきた。先頭に居るのはそう、先程のイアンヒル郷だ。彼らの姿を見定めると、あれほど喧騒に溢れていた店内が水を打ったように静まり返った。それはそうだ、何しろ場違いとも言える王城の関係者なのだから。

 この酒場の主人と思しき男が出てきて応対する。

「これはこれは、イアンヒル郷ではございませんか? 本日は何用でこのような所へ? 」

 イアンヒル、尊大な態度を崩そうともせず、並み居る賞金稼ぎの集団に向かい、

「単刀直入に申す! 勇気ある諸君よ、賞金稼ぎなどというヤクザな商売などやめにして我がジェダスプーリ王家に仕えないか? 」

「特に優れた武芸・能力の持ち主なら大歓迎だ。安定した身分と生活が保障されるであろう! 実に美味しい話ではないかな? 」

 あまりの唐突さに未だ静まり返ったままの店内。

「ただし、条件がある。それはキルミスター王の配下となった、カーラ・エンジェルウィッチを始末すること! 」

 店内、再びざわめき出す。「何だよ、その無理ゲー」「そんなん死ねと言うようなものだわ」「その、もう少し手心というか・・」さすがに皆躊躇する。

 そして、皆の目線がある男たちに向けられた。そう先のあの二人組にだ。

「ケヒヒヒヒ、まさに渡りに船だぜ」

 エンバーゴという名らしき例の男、前にしゃしゃり出て来る。むろん後ろにはバスオブンが控えている。

「ジェダスプーリ王国の名の下、あのカーラを殺ってもらいてぇ、と、おっしゃる? ヒヒヒ・・旦那、奴の件はわしらにやらせてもらえんですかねぇ、必ず仕留めて御覧に入れますぜ、ケケケ」

 イアンヒル、さすがに胡散臭さそうな視線を二人に送る。

「お主、随分と自信ある様だが・・どれ程の物か見せてもらおうか」

 言うが否や、懐から取り出した短剣をエンバーゴの眼前に投げつけた!

 一直線に飛んで行く短剣。エンバーゴに突き刺さるか、と思った刹那、何という事か・・! バスオブンが素手で短剣を掴み、そのままバキリと握りつぶしたではないか!

で、エンバーゴは何処?

「キヒヒヒヒヒ、そういう冗談は無しにしましょうや、旦那ぁ! 」

 いつの間にやらイアンヒルの背後から羽交い締めにし、喉元にナイフを当てがっているではないか! おまけに彼の片方の髭も剃り落としている!

 さしものイアンヒル、全身蒼白となり、冷や汗を掻きまくっている。

「うっ、うむ、実に見事だ、素晴らしい、そなたたちなら大いに期待できるぞ・・」

 エンバーゴ、ようやくイアンヒルから離れ、彼の前に立つ。

「へっへっへ~、ま、大船に乗った気でいてくだせえ、なあ、バスオブン? 」

「うむ」

うおおおおおっ、と大いに盛り上がる店内。


そんな店内の片隅にこの狂騒を我関せず、酒のグラスを傾けている一人が居た。見た感じ女のようだ。別に女の賞金稼ぎも珍しくはないが、彼女の場合、まず目を引くのはまるで炎を彷彿させる如きの赤毛、並みの倍以上のサイズはあろう大剣を側に立てかけている。座っているとよくわからないが、並みの女性よりかなり長身のようである。

(ふん、あんな奴らにカーラを殺れるとは思えん・・奴に引導渡すのはこの私、マノン・ウオウだ)

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