邂逅・悪の華と聖女 5
「フイリンよ、わしはそなたに大いに期待しておった」
老人が話し出す。
「その若さでヒーリングや聖魔法を多数習得し、アンジュエラ様の教えにも忠実だった・・なのに・・」「なのに教義を破り殺戮行為に加担するとはな」
一片の慈悲も感じさせないような厳しい表情で話し続ける。
「言い訳をするつもりはありません、いかなる罰をも受ける覚悟はできています」
真っすぐに老人を見据え、決意の強さを見せつけているようだが、手にした杖が微かに震えているのがわかる。やはり心中不安があるのだろう。
「フイリンよ、そなたはこの巡礼より一時追放とする! 」
「はい!?・・一時・・追放ですか・・? 」
リーダーの意外な言葉に虚を突かれたか、フイリン、一瞬呆けたようになる。
「うむ、そなたがあの者たちにアンジュエラ様の御心を教え、伝えることを成し遂げるその時までのな」
「そなたはまだ若く幼い。わしらのような者たちと居るよりも広い世界を見て体験するのがよいであろう」
カーラとレイミを指さす老人。
(えぇ~、あの爺さん、体よくあの子を押し付けるつもりなの? )
怪訝な視線を老人に送るレイミ。そしてカーラの方にも顔を向ける。
「ま、いいんじゃないか? あいつ、よく見れば結構かわいい顔しているしな、ふひひ」
「あのなあ・・」
フイリンを追放扱いした長老の真意は第三者には分からないが。
(アンジュエラとやらの教義に反してしまったあの娘・・、このまま巡礼に置いておくと他の者に示しが付かない・・、あの爺さんにとっての落としどころなのか・・。)
山賊どものアジトを後にする、魔動車。後ろの座席にはフイリンが収まっている。
「あの娘にアンジュエラ様の加護があるように・・」
見送る老人リーダーの姿も遠ざかって行く。
あたりは夕方。日が暮れかかっている。先程の修羅場を忘れるほど肌を切る風が心地よい。
「改めて紹介させていただきます、私フイリン・アーセルと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
丁寧な物腰の少女である。レイミは彼女に対し好感を覚え始めていた。歳も近いようだし仲良くなれるかもしれない。
しばらく走り、後部座席のフイリンに話しかけるレイミ。
「あなた、特にあてがないのだったら私の城にしばらく居てもいいよ。雑用手伝ったり、書庫の本読んだりしていてもいいし」
「?!え?!今、城っておっしゃいました?あなたは一体・・? 」
「ああ、そういえばちゃんと紹介していなかったか。私はレイミ。レイミ・キルミスター。一応王女やってます」
「はっはわわ・・まさかあなたが一国の姫様とは知らずに無礼なことを・・」
すっかり恐縮するフイリン。無理もない。
「いいって、気にしなくて。それよりカーラも自己紹介したら? 」
運転席のカーラをつつく。
「カーラ・エンジェルウィッチだ。とりあえずレイミの用心棒というか親衛隊というかボディーガードというか性処理係りというかそんな事している」
「・・・何かさり気に変な事言わなかった? 」
「それにしても・・姫様はなぜそのような方とお知り合いに? 」
一瞬の沈黙があったように感じたのは気のせいか? レイミの脳裏に今までのことが浮かび上がって来る。
正直あまり他人に話したくないことも。
「・・まあ、色々とあってね・・。ところでフイリン、その杖随分と大切な物のようだけど? 」
曖昧な言葉で誤魔化し逆に質問するか。
「ええ、死んだ母の形見なんです。母もアンジュエラ様に仕える聖女でした。私も早く母のような立派で人々に尊敬された聖女になれるよう頑張っているのですが・・。」
三人を乗せた魔動車はひたすら走る。キルミスターの城に向かって。日は暮れ、夜のとばりが迫ってきている。
いつもはうるさいカーラだが、珍しく今は大人しくハンドルを握り続けている。戦いの疲れが出てきたのか・・。
「あ、あの、カーラさん・・先ほどはありがとうございました。あなたのおかげで助かり、大切な杖も取り戻せました」
沈黙を破ったフイリン。
「別にいい、気にするな」「これ幸いに掃除してやっただけだから、なあレイミ? 」
気が付いたらレイミはすやすやと寝息を立てている。
「何だ、寝ってるのか? よーし、いたずらしちゃうぞ♡」
「あのー、それなのにこんな事言うのは気が引けるのですが・・」何を言いたいのか?
「先程の山賊に対するあれは、少しやり過ぎではないかと・・思うのですが・・」
「で? 私はどうすればよかったとおっしゃるのよ? 」
カーラ、少々イラッときたか、幾分棘のある返しである。イラついたのは「いたずら」の腰を折られたからだけではないだろうが。
「いきなり殺さずともまず説得を試みるとか・・せめて動きを封じる程度にしておくとか・・」
カーラ、(こいつは何言っているんだ?)と言いたげな表情で、
「お前もあのじじいと同じか? 相手は殺す気で襲い掛かってきているのにこっちが何言おうが聞く耳持っているわけないだろ」「ったく、脳みそお花畑なのは困るわ」「お前はまだガキだからしょうがないとして、あのじじいみたいに歳ばかり喰ってもあんなのは救いようがないよな」
毒吐きまくるカーラ。フイリンは若干涙目となりながらふるふると身を震わせている。
「長老様の悪口は言わないでください! あなたに何がわかるというのですか? 」
売り言葉に買い言葉、さすがに大人げないと思いいつつもカーラ、
「ふん、だったら賭けしてみるか? 」
「賭け? 」
魔動車はすでに城下の町中に入っている。もうすぐ城に着くはずだ。二人の口論がうるさかったと見えてレイミ目を覚ます。
「うーん・・何騒いでいるのよ・・? うるさいわねえ」
カーラ、道路の傍らに魔動車を停め、隣の席のレイミに話す。
「お、レイミ、お前先に城に戻っていろ、私らはちょっと寄る所があるから」
「? 寄るって? フイリンに何かするつもりなの?大体私魔動車運転できないんですけど」
「だったら城から誰か迎えに来てもらえ、すぐそこだろう」
そう言うなりカーラは魔動車から降り、後部席のフイリンを無理やり抱え降ろした。
「な、何するつもりなのですか? 」
フイリン、カーラをキッと睨み虚勢張っているようだが、内心不安げなのが見て取れる。
「だから賭けだと言ったろ? 」
無理やり手を引いて速足で町中に消えていく二人。
「何するつもりか知らないけれど、あまり酷い事するんじゃないわよ! 」
レイミの声が遠く響く。




