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「これがそんなにショックなのか?」
俺の絶望を知らないダルトンは呑気に自分の獣耳を触って言った。
心の中で叫んでいたことをどうやら口にしていたらしいが、そんなことはどうでもいい。今の俺の絶望をむしろ知って欲しいくらいだった。
当たり前だ! 俺の夢と希望を返してくれ! せっかく、苦労して会えたエルフが獣耳なんだぞ。獣人との違いがわからない・・・
「獣人とエルフをどうやって見分けろって言うんですか?」
獣人は魔法が得意じゃない。このどこが同じように見えるんだ
ダルトンは獣人が魔法を得意じゃないと言ったが、これは人間と同じくらいしか使えないということだ。魔法使い以外の人間からしてみたら、エルフが獣耳だと知っていたら、獣人の魔法使いだってエルフに見える。
「何故わからないんだ?」
「上級魔法を何個も使ってもらわないと、普通はわかりません」
「魔法を使わなくても、エルフの周りには精霊が集まっているのが見えるだろう?」
精霊を見るなんて人間には無理だ。精霊の存在を感じとることだって、普通はできないのに、なんていう無茶振りだ。
エルフたち以外でエルフだとわかるはずがないというのに、ダルトンは大したことでもないように言う。
「人間には無理です」
「そうか。じゃあ、お詫びに耳を触わってもいいぞ」
獣耳を触らせてもらっても、嬉しくない。俺が触りたいのは長いが人間のような耳だ。
「遠慮します」
「遠慮なんかしなくてもいいのに」
「あなたの耳を触らなくても動物の耳を触りますから」
「エルフの耳と動物の耳は違うぞ? エルフの耳なんか触れる機会がないんだから、遠慮する必要がないのに」
確かにエルフの耳を人間が触るなんて、百年に一度しかできそうにない。
だが、――
「それでも遠慮しておきます」
カイラならともかく、ダルトンは男だ。男の耳なんか触りたくない。
「我儘な奴だな」
呆れたようにダルトンは嘆息する。
「ダルトン、いる?」
高い声に入り口を見ると、カーテンをめくってこちらを覗いている少女がいた。金色の髪に緑の瞳。エルフだ。だが、彼女の耳は獣耳ではなくて――人間のような耳。
俺が想像していた人間のような長い耳をしていた――
彼女は一体、誰なんだ?!