天守閣の奥、夜風に揺れる御簾(みす)の陰で、二人は静かに、しかしこれまでにないほど深く魂を重ね合わせた
序章 【 お約束のランプ(でも不敵に笑うアプローチ) 】
夜明け前。
やはり、枕元からシュルシュルとあの忌々しい音が響き渡る。
紫色の煙が立ち上り、古びた魔法のランプが浮遊する。
ヤチヒロ:「チッ……やっぱり来るか。でもな、今回は怒る気にもなれねえわ。薫子ちゃん、いい顔で寝てるしな……」
ヤチヒロは、煙に巻かれながらも、今度は暴れることなく、静かに天を見上げて不敵に笑った。
ヤチヒロ:「おい、ランプの裏にいる黒幕さんよ。毎回ワンパターンな強制ワープで俺を翻弄してるつもりだろうけど、俺はその度にアジャストして、どんな世界でも美女を救って最高の夜を手に入れてる。次がどんな地獄でも、俺は絶対にアジャストして見せるぜ。だから――楽しみに待ってろよ」
すうっと意識が遠ざかる。
最後に見たのは、安らかな寝顔の薫子姫の姿だった。
カチリ、と時空の歯車が回る。
ヤチヒロの放浪記は、より洗練された「アジャストの知恵」を携えて、次なる未知の時空へと続いていく。
第一章 【 ネオ・シブヤ209。ギャル「シャフィにゃん」のテンションをアジャストせよ 】
カチリ、ピピッ、ジーーーー。
けたたましい重低音のEDMと、鼻を突く人工エナジードリンクと甘い香水の臭いで彼は目を覚ました。
大天使ガブリエルⅡ:「う……ここはどこだよ!? 平安の邸宅は? 薫子ちゃんとの文学的で深い夜は!?」
気がつくと、彼は無数の巨大ホログラムがギラギラと輝く、西暦3000年のネオ・シブヤの中心、宙に浮くクラブのVIPラウンジに設置された、 LED内蔵の特大ソファに横たわっていた。
手鏡代わりに近くのサイバーグラスを覗き込むと、そこに映っていたのは――
背中に神々しく発光する巨大な六翼を生やし、漆黒のハイテク南蛮胴具足をスマートに着こなした、超絶クールな姿。
大天使ガブリエルⅡ:「よし! 読者の化身として、20代最強のイケメン『大天使ガブリエルⅡ』のままだな。中身も八王子生まれの俺自身。バッチリ若さをキープしてるぜ。……だけど、この街、完全に令和のトレンドがサイバー化してバグってないか!?」
ソファの対面には、ネオンピンクの髪をツインテールにし、サイバー光沢の厚底ブーツを履いた今どき最強のサイバーギャルが、超絶不機嫌そうに座っていた。
それこそが、SNSのフォロワーが10億人を超えるトップインフルエンサー、シャフィにゃん。しかし、彼女の背中からは炎のような暗黒のトレンドオーラが立ち上がり、怒りでその瞳は真紅に発光している。彼女こそが、彼が救うべき「羽衣天女」の魂の宿り主であった。
シャフィにゃん:「マジ遅いんだけど、大天使! ネットの回線がクソ重くて、うちらの配信バズらなくてマジぴえんなんだけど! 早くなんとかして!」
第二章【 妖怪総書記「臭銀平」と、サイバー検閲の壁 】
そこに立ち塞がるのは、お馴染みの妖怪「臭銀平」。今回は、空中をびっしりと埋め尽くす「お堅い監視AIカメラ」を従え、シブヤの若者たちのトレンドや自由な配信をすべて規制しようと企んでいた。
臭銀平:「ウオオオォン! 共同富裕ッ! ギャルの言葉遣いも、派手なメイクもすべて贅沢であり、風紀を乱す異端である! シャフィにゃんのSNSアカウントも、すべて私が検閲デリートする!」
無数の検閲レーザーが、シャフィにゃんの最新の動画やホログラム投稿を、次々と『質素倹約の白黒の活動報告書』に変えていく。彼女の「最強の個性」が人質に取られたようなものだ。
大天使ガブリエルⅡ:「チッ、力任せに聖剣を振ったら、彼女がこれまで積み上げてきたフォロワーやデータまで巻き込んで消しちまうな……。よし、ここは力押しじゃなく、現代の『社会人3年目のSNSアジャスト術』でいく!」
大天使ガブリエルⅡは、あえて聖剣『高尾』をサッと鞘に収め、両手を上げて臭銀平の前に進み出た。
大天使ガブリエルⅡ:「おい、そこの偉い総書記さん。あんたの目的は『若者たちの不満を抑え、予測可能な社会を作ること』だろ? だったら、シャフィにゃんの発信を無理やり消して裏で大炎上させるより、あんたの『お堅い政策』を彼女に超分かりやすい『ショート動画』としてタイアップ(配信)してもらう方が、よっぽど広報戦略として有益じゃないか?」
臭銀平:「……何だと?(監視カメラのレンズがピクッと大天使ガブリエルⅡに集中する)」
大天使ガブリエルⅡ:「ただ規制するだけじゃ、若者は裏垢で不満を溜めるだけだ。彼女の拡散力で『ルールを守るの、逆にエグいほどカッケーじゃん』ってトレンドに昇華させれば、あんたの面子も保てるし、ウィンウィンの共同富裕だろ?」
シャフィにゃん:「なっ……ちょっと大天使、うちらにあんなオジサンの宣伝しろってこと!? マジ無理なんだけど!」
大天使ガブリエルⅡ:「静かにしてろ、シャフィにゃん。これは大人のアジャスト(妥協点を探る交渉)だ」
大天使ガブリエルⅡの放つ、20代とは思えない理知的で圧倒的な「ビジネス・オーラ」と、ピンチをチャンスに変える冷徹な目。臭銀平のシステム(AI脳)が、大天使ガブリエルⅡの提示した「完璧なインフルエンサーマーケティング提案」に、わずかな処理遅延を起こす。
臭銀平:「……チッ、論理的なタイアップだ。……認めよう。だが、即刻その動画をバズらせろ!」
監視の光が一瞬だけ緩んだ。その刹那――!
大天使ガブリエルⅡ:「交渉成立!――ってのは嘘だよバーカ! 隙あり!」
大天使ガブリエルⅡは六翼を爆発的に羽ばたかせ、光速で突進。聖剣『高尾』から、物理的な一撃ではなく、彼女の配信を縛っていた検閲AIのサーバー制御塔だけを正確に消し飛ばした!
「アークエンジェル・アジャスト・スラッシュ!!」
バチバチバチ!とシステムがショートし、臭銀平は自慢の監視網を自ら逆流した高電圧でショートさせ、苦悶の声を上げながら歴史の闇へと沈んでいった。
第三章 【 シャフィにゃんとの、テンションをほぐすデトックスの夜 】
「さあ、お姫様抱っこでこの重い回線から連れ出してあげるよ」
大天使ガブリエルⅡは、腰を抜かしていたシャフィにゃん(羽衣天女)を左腕で優雅に抱き上げ、自身の隠れ家であるラグジュアリーな『浦和サイバータワー』へと帰還した。
いつもならすぐに「愛欲まみれ」といくところだが、今回の大天使ガブリエルⅡは、ネットの批判や検閲のプレッシャーで疲れ切っているシャフィにゃんの前に、そっと温かいお茶(八王子特産・桑の葉茶)を差し出した。
シャフィにゃん:「……なによこれ、超地味なお茶なんだけど。うちらはいつも強いエナドリしか勝たんし……。それに、大天使ってマジで何考えてるか分かんなくて、ちょっと怖いんだけど……」
大天使ガブリエルⅡ:「エナドリ? 違うね。君は誰よりもみんなの期待に応えようとしてるからこそ、素の自分を見せられずに必死に強がってただけだ。頑張りすぎなんだよ。ほら、Take it easy(気楽にね)。今日くらいは、フォロワー10億人のトップギャルじゃなくて、ただの『シャフィ』として甘えなよ」
これまでのどんなサイバー野郎よりも、自分の「画面の裏にある本当の孤独」を正確に見抜き、大人の余裕で包み込んでくれる22歳の大天使ガブリエルⅡ。
シャフィにゃんの瞳から、ツンとした高慢な光が消え、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
シャフィにゃん:「あ、あんた……なんでそんなに、女の、うちらの、いちばん隠したい弱いところばかり優しく触るのよ……っ、マジずるい……」
大天使ガブリエルⅡ:「ふふ、だから言ったろ。俺は君の味方だって」
天守閣の奥、夜風に揺れる御簾の陰で、二人は静かに、しかしこれまでにないほど深く魂を重ね合わせた。
SNSの呪縛から解放された、本当の意味での心と体のデトックス。大天使ガブリエルⅡの包容力は、ついに歴史の闇に消えるはずだったシャフィにゃんの心を、完全に救い出したのだ。




