最終話『その物語に対価は不要』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇ミチルside◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから...何やかんやあったのだけど…
なーにか可笑しいのよね。
「屋敷にあった遺体が無い?……えっ痕跡も?
本当に私何もしてないわよ?」
例えば屋敷にあった筈の遺体が無くなってたり
「……っ!君はっ!」
「?どうしたフィルミア、死人を見たような顔して。」
儀式に巻き込まれた人間が生き返ってたり
「人形?何の事だ?」
人形事件の記憶が当事者以外に誰にも無かったり
「ミチルたん、大丈夫ですか?
……気分が悪いなら椅子に座ってて下さいね!」
「んー?そうねぇ。
ちょっと失礼させてもらうわ。」
「おっ!お嬢ちゃん凄く可愛いね~!!
飴ちゃんを上げよう!」
「あら、旅商人の方?」
あら?このおじさん何処かで見た気が……
でも変ね、こんな声聞いた覚えは……
『…あの死体……なにか変じゃないかしら……』
「……!!!」
……あの後、消えた死体、存在した記録の無い事件、人々の消えた記憶。
……なるほどね、書き直したってことなのね。
ねぇ、睡蓮。
これら全てが貴方の仕業なら。
「ふふ、まぁ凄く可愛い飴ちゃんね♪
それで貴方の目的は何かしら?♪」
…正直に言うと…今まで積み上げてきたものが崩れたのは少し悲しいかも知れないわね。
「おっと、バレていたのか。
お嬢ちゃん…あの貴族様と仲良いようだったからな。
……少し良いように言っておいてくれないか?」
でも、私も一人の人生を歩む人間として
「ふふ?もしかして貴方彼との縁が欲しくて呼び止めたの?」
確かに1ページを書き換えれば、必然とその後のページは無数に変わっていく。
その繰り返しだったもの。
「数倍良く言っておいてあげるわ♪」
なら私はね、貴女の書いた『物語』を無理矢理変えようとは思わない。
多少わだかまりはあれど少し濁りはあれど拭えない罪が残っても……
それでも誰も報われない現実よりは
「ねぇ、睡蓮ちゃん。」
ハッピーエンドが良いものね。
◇◇◇◇◇◇睡蓮side◇◇◇◇◇◇◇◇
あたしは、ただ苦しんで欲しかった。
悲劇も、罪過も。
親として書いて、読者として嗤った。
そんな物語に。
『僕は、皆を助けたい!』
ミツル、ただ都合の良い主人公を造っただけだった。
それがいつの間にか、大きく育ってイラついてしまった。
『……造り出したけど、やっぱり人の好意って気持ち悪い。』
キャミエル、ただ苦しんで欲しかった。
愛なんてと、自分勝手に嫌ってて欲しかった。
それが彼女が嫌われる要因となるなら、尚更。
可哀想とも思われないぐらいに人の好意にバツを付ける子であって欲しかった。
『………あの子の悩みを
もっともっと聞いてあげれば良かった…』
アズ、ただ後悔して欲しかった。
誰かを言い訳に、縁も愛も捨てる薄情者、そんな自業自得の物語をただ見たかった。
気持ち悪くて、殺意が湧いて、心が枯れてしまい程に。
…それくらい、誰かに愛されてた彼が羨ましかった。
『返して下さい。
私の秩序をっ!私の平等を…!私の妹を……
……私の…生きる目印を…』
アリオン、大切な物を失くして欲しかった、手に入らない物に、ただ手を伸ばして誰かに当たるような誰よりも理不尽な人であって欲しかった。
ただ不幸を煽りたかった。
『…自分よりも望まれてる奴をどうして愛さなくちゃいけないの?』
アリス、出番の無い兄を讃えるしか出来ない地味な子であって欲しかった。
誰よりも卑屈に、劣等感を抱いた可愛い可愛い役立たずであって欲しかった。
……それで、読者から邪魔だって思われるような。
可哀想な子であって欲しかった。
『…』
フィルミア、誰からも愛される子だったからこそ、誰よりも激情に踊らされていて欲しかった。
誰よりも、人を押し退けられる子であって欲しかった。
…気持ち悪いくらい、吐き気がするくらい、愛されは嫌いだったけど。
…誰からも望まれないような、そんな子が憎くて、気持ち悪くて、それでいて…愛おしかった。
そして、あの子も
『…それに対して、少し…
少しだけイラついちゃったから。こうなったのね。』
……誰よりも、神様みたいな子であって欲しかった。
世界を愛しているのに、世界に愛されない。
そんな神様みたいな子。
誰の一番にもなれない、誰からも望まれないような子でいて欲しい、読者からレッテル張りをされて、嫌われていて欲しい。
そして、苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで…
…そして、誰からも心の底から嫌われて欲しかった。
なのに…
『……発売してまだ半日も経ってないのに…
なんでグッズ一つも残ってないんだ…こわいって~…』
グッズは完売、売り上げは上々。
個々にファンがいるらしくて嫌われると思っていた当ては外れてしまっていた。
…特にミチルは、何やかんや大勢のファンが居た。
「結局あたし意外…誰も嫌ってないじゃんね~…」
歪んで歪んで歪んだ物語を…あたしは造った。
劣等感の当てつけに、してしまった。
「…今はもう、その気も失せたけど。」
それでも…絆されてしまった。
あの子達の人生を、ただ眺めて居たいと思った。
……幸せに生きる様を、愛おしいと思ってしまった。
「…ただ…ちょっとだけ、お母さんとかにはこの物語聞いて欲しかったなぁ。」
この物語に読者は居ない。
この喜びを分かち合いたい人はもう居ない。
会いたい人はもう居ない。
この物語を見てくれる人はもう居ない。
……嗚呼、そうだ。
此処にはもう誰も居ない。
「あたしの劣等感に、付き合わせてごめんね。」
拝啓、もう会えない最愛の人達へ
「きっと、空よりもずっと遠い所から。
今も貴方達を愛しています。」
この締めが、丁度良いかもね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ごめんなさいっ……
ごめん…な……さい……あたしのせいで……」
それでも割り切れないのが、人間なんだろう。
「……まま」
ママに会いたい、話したい。
一緒に出掛けたい、小説の話を聞いてほしい。
パパにも、ネッ友にも、お姉ちゃんにも。
一緒にやりたいことが沢山あったのに。
「死んだら…何も出来ないじゃん……」
ここに一人、ここで一人。
誰にも作品を見せられない、もう誰にも見られない。
「まだ…まだ書きたい作品たくさん…あったのに……」
無念も未練も無いわけがない。
あの時って、後悔しない訳がない。
「もっと…親孝行……しとけば良かったのに……」
何も出来ない。
もう会えない。
その感情がどうしても、拭えない。
「………
……こんな写真……本に……」
でも、それも運命の仕業だと、受け入れられなくても。
【……29歳の誕生日、おめでとう!えいきちゃん!】
「お母さんとお父さん、お姉ちゃんとお兄ちゃん、知らない子達もいる。
……誕生日会…」
私は今まで
「……よかった…ありがとう
…あたしの分も生きてね。えいきちゃん。」
生きて来て幸せだった。
あたしの分も長生きしてね。
敬具、過去の自分へ。
対価無しに造ったものは、いつの間にかあたしを満たしてくれていた。
「…君達も、幸せに生きなよ。
あたしの…子供達」
君達の機嫌で振り回されても。
君達の気まぐれで被害を負っても。
君達の享楽で傷付いても
君達の哀で泣きそうになっても。
…君達は幸せに生きて欲しい。
「ずうっと幸せに生きなね。」
そうだあたしは
君達が少し惜しかった。




