10話『貴方の過去は忘れさせない』
◆◆◆◆◆◆アズside◆◆◆◆◆◆
父さん、母さん、もう居ない僕の家族。
「ねぇにぃ様!私雷が怖くて……一緒に寝ても良いかしら?」
「嗚呼、そうだね。
レイテルも一緒に寝ようか。
……レイテル?」
忘れられない記憶。
「…嗚呼…レイテルならもう寝ているわ。
あの子、寝ちゃったらもう動かないのよね。」
何時だってたまに思い出してしまう。
「そっか、ちょっと残念だね。」
その日も確か、雨の酷い日だった。
「おやすみ、ミチル。」
◇◇◇◇◇◇
小さな村の中、僕達は双子として産まれてきた。
双子の子供はどちらかがすぐに死んでしまうという理由で村では疎まれてけど、僕達は誰からも驚かれる程に元気で遊び心溢れるただの兄妹として育った。
「先に着いた方が勝ちね!よーいどん!!」
「ミチル!もうずるいって!!」
五歳の時、僕達は双子で村の人達から避けられたり、村の井戸水の使用を禁止されたり、畑を荒らされたりといった嫌がらせはあったけれど、両親はいつも僕達を守ってくれていた。
あの日までは。
「……お母…さん……っ!!」
「おとうさん!とうさん!!
かぁさん!……かぁぁぁさん!!」
家に帰ったその時、両親は首を吊っていた。
……きっと、きっと耐えられなかったのかも知れない。
村の人達からの嫌がらせに。
後から知ったのは村八分にされていた生活は、とっくに火の車だったらしい。
「あら~可愛いわね~!」
僕達はそれから、村の二人の老夫婦に引き取られた。
助かったと思った。これからもミチルと二人で居れると思った。
それなのに
「アズくんの方は。」
そこには明確に差別があった。
傍にいるのに話せない、話したらミチルに罰が下った。
僕の食事は豪華で量が多かったけど、ミチルの方は残った残飯だけだった。
何度も抗議した、何度も止めてほしいと伝えた。
けれど、そもそも彼らが僕達に求めているものは『愛』じゃないかった。
「アンタが妹の方も連れてくるからめんどくさいことになったじゃない。」
「はっはっは、そのお陰で世間様からの目も優しくなったじゃないか。
哀れな兄妹を引き取る心優しい貴族様ってな。
なぁに、世間様の興味が収まったらすぐにどっかの変態貴族に売れば良い。」
「兄の方は遺産と家をやると言えば黙って役目を果たすだろうしな。」、そんな声がある嵐の夜に空き部屋から聞こえてきた。
ただの飾りだったんだ。
僕達は。
そして僕はそれを使用人の部屋で寝ているを起こしミチルに伝えた。
そうするとミチルは驚いた顔をして、笑った。
「知ってた!」
その答えに僕は驚いた。
知っていた、悟っていた、なのに何で僕に伝えなかったのかを聞くと。
「だってにぃ様まで罰されちゃうでしょ?」
『にぃ様』、そこで初めて聞いた言葉だった。
長い間、話してなかったから。
僕が避けていたから、でもその間もずっとミチルは実の兄の僕に『様』を付けることを強制されていたのだ。
「にぃ様、泣かないで。私は大丈夫だから。
私はにぃ様がいるから苦しくなんてないわ。」
そう言われても、納得なんて出来なかった。
それからは密かに、ミチルと話すようになった。
言葉の『にぃ様』は抜けないけど、笑って話してくれるようになって、一緒に脱出しようって言ってくれた。
なのに、また嵐は僕の大切なものを奪っていった。
「ああ、妹の方は売ったよ。
お前に変な影響がありそうだからね。」
そう言って怪物は僕を叱った。
変なことは考えるな、この家に入ったのならこの家のルールに従え。
正論に見える悪意を僕に吹き付けてきた。
「……しね」
「おい言うならハッキリ言え。
いいか、答えは『はい』か『分かりました』だけだ。」
「…死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
全員死ね。」
「何を……ア゛■ァ゛ァ゛ァ゛■ァ゛ァ゛
ア■ツ゛イ゛■■■!!い゛だ■ッ!!
ぐ■■るし゛ィ■■゛!!!!!!!!!!」
その時だった。
僕の、『冥中』が初めて発動した瞬間だった。
それからの記憶はあまりない。
ただ気付けば、館の全員が死んでいて、ミチルを買った気持ち悪い貴族の死体が目の前にあるだけだった。
「にぃ様……どうしてここにっ……!」
ミチルの服は汚い血で濡れきっていて、頬にも、手にも、血がベッタリと付いてしまっていた。
……僕は…それが…許せなかった。
「ねぇ……ねぇ……ミチル……
なんで…なんでさ。」
「にぃ様…っ!大丈っ…」
「ぼくたちだけがこんな目にあうの?」
そう言えば、ミチルは驚いたような顔を止めて、汚れた血が付いてしまったミチルはそれを拭って優しく微笑んでくれた。
「大丈夫、大丈夫よにぃ様。
にぃ様が傷付いてまで助けてくれたから。
私は……にぃ様を死ぬまで守るから。」
そういって、僕を抱き締めてくれた。
忘れきっていた筈の父さんと母さんのような匂いがした気がした。
「ずっと……ずぅーと一緒にいて、守ってあげるから。」
嵐の夜はミチルの手の中で明けてった。
だけど、それから今までミチルの姿も、身長も、一切変わることなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……思い出すと嵐が恐くなっていく。
いつも僕の幸せを奪うとき、嵐の音がしたから。
「にぃ様、手握っても良いかしら?」
「え、あっ、うん。勿論!」
完全に寝ていると思っていたミチルが突然そう言ってきて驚いてしまう。
「ありがとう、にぃ様。
これで私きっと今日も悪夢を見ないわね。」
「……!!」
悪夢…そうだ。
気付いてたんだ。
「僕もきっと悪夢を見ないよ。
ありがとうミチル。」
本当にミチルは……母さんにそっくりだね。
「おやすみ、また明日。」
「おやすみ、また明日にぃ様と居られますように。」
そう言って、僕は目を瞑った。
良い夢は、見られないかもだけど、少なくとも悪夢を見ることはない。
だってここには大切な家族がいるから。
◇◇◇◇◇ミチルside◇◇◇◇◇◇
「ごめんね、にぃ様。」
……私は『睡蓮』なんかじゃない。
世界を救うことなんてしない。
だって、救ってしまったら。
『ぼくたちだけがこんな目にあうの?』
もう戻せないにぃ様の過去が…無駄になってしまうから。
「…まま…」
おまけ
「んなー……!!!」
「どうしたのレイテル?
そんなにバタバタして。」
「ここの食事に飽きたのだ!
何なのだ!何なのだ!!!
毎回毎回甘味と味の無いコーンフレークみたいな奴!!歯が溶けるのだ!」
「ふふ。
ペットフードだもの。」
「私はペットだけどペットフードは嫌なのだぁぁ!!
塩分!塩分寄越せ塩分!!」
「えー…そうねぇ。
肉が欲しいの??」
「ごぼうに人参、キャベツ、ジャガイモ!
塩分をかけて食べたいのだ!!」
「あら意外と健康思考。」
「塩分塩分塩分塩分塩分塩分塩分塩分!
塩分食べたいのだぁぁ!!」
「…そういえば狸に塩分って良いのかしら?」
「狸に糖を与えてる癖に何言ってるのだこのロリ。」
「ふふふ♪
仕方ないわね!」
「あるのだ!?」
「岩塩舐める?」
「塩分過多なのだぁぁ!!!」




