EX 殺戮のガンファン
彼の生い立ちは非常に煌びやかであり、出世することは間違いないと誰もが思うほどの人物であった。恐らく、デスマウント部隊の中で一番家柄が良かったのは彼だろう。親は名を馳せている冒険家であり、多くの聖遺物を所有し、莫大な財産と地位、名誉、力を持っていた。その中で生まれた彼なのだから、彼がどのような生活をしていたのか一目瞭然であるだろう。
その一方、暮らしぶりは案外平凡であった。家は庶民のものと変わらず、聖遺物も基本的に地下室に保管してある。服や食料も何ら庶民そのものであった。彼曰く、両親は非常に誠実で真面目であったため、弱さを知らずして強くには至れないと言って、平凡な生活を送っていたそうだ。それでも、他のデスマウント部隊のメンバーと比べても、何一つ不自由ない生活を送れていたのは間違いないだろう。
彼が青年期になった時、分断戦争の最前線に送られた。無論、彼は仲間のために奮闘していた。しかし、日に日に心の中には幾つもの死体が積み上がっていき、自分では誰も助けられず守れないと悟ってしまった。そのせいで、自分は親のように強くなれないと考えるようになり、正義も善意も徐々に薄れていった。
ある日、彼は浮かんでいるような感覚だった。心地良い感覚で、多くの人を見下ろしているような感じであったそうだ。気の赴くままに歩いては、良い天気に目をやっていた・・・が、それは全て幻想であった。
彼は精神がおかしくなってしまった故に、体内の魔力が暴走。体が歪な形へ変形していった。精神による魔力の暴走は稀に起こる現象であり、なりやすい者とそうでない者がいるようだ。しかし、どうして精神が魔力に影響をもたらすのかは未だ不明である。
彼は腕が四本、足が八本、翼が生えた黒い生物へと変わってしまった。そして、彼の意思とは関係なく目についたもの全てを殺し回った。敵を抉り、潰し、捕食し、地面へ叩き落とす。殺戮の限りを尽くしたところで、彼だったものは一切休まずに殺し回った。
デスマウント部隊も彼をどうするか相談したが、満場一致で元に戻すことに決定した。彼を元に戻す手段があるのか不明であったが、彼をそのまま放置する方が危険であると踏んだ。そのため、デスマウント部隊は各々の持てる全てを彼にぶつけた。
最終的にクロイの力によって彼は元に戻ったが、彼の体には烙印のようなものが体に付けられており、これが何なのか、誰も分からなかった。後に、それは彼の体に新たな魔法が刻まれた証だと判明し、彼は体を変形させる魔法を取得した。魔法について何も学ばず、後天的に肉体へ直接魔法が刻まれたのはこれが初の事例であった。
戦争を乗り越えた彼は英傑にはならなかったが称号は貰った。しかし、彼はこの称号が非常に気に入らなかった。それでも、これは自身の精神的な弱さと過ちの証とし、この称号を自ら得たのである。
現在の彼はクロイの世話をしている。自身を救ってくれた感謝から、自ら進んで世話をすると宣言したのである。クロイは人間味溢れる生活というものとはかけ離れている存在なため、将来的に困らないように頑張って教育をしている。前途多難ではあるが、クロイも彼の頑張りに応えようと少しずつ努力をしている。また、彼らの様子は完全に親子であり、デスマウント部隊の隊員達は見ていて和むと口を揃えている。




