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9 聖女、くつろぐ

  ラストが大浴場湯でゆったりとしていた頃、外では小隊規模の兵士が訪れていた。


「リリーヴァ様、たしかに膨大な魔力はこの辺りから観測されました」


「いまは全くその気配がない。捜索は朝に回せばいい、野営の準備を……」


「では鉱山の前に開けた土地がございますので、そちらに」


「うん」


 野営の準備が進められた。

正直私がすることはない。手伝おうとしても何かと仕事を取られてしまう。


 でも馬の上で作業を眺めるだけなのは暇、ちょっと歩こう。


「カルヴァス、散歩に行く。ついてきて」


「リリーヴァ様、かしこまりました」


 私は馬から降りて長いステッキだけを持った。


 歩いていると、カルヴァスは腰に下げた剣に手を添えている。不安そうな表情だ。


「ねえカルヴァス。魔王ラストが出てきたらさ、どうする?」


 カルヴァスの表情は一層険しくなった。


「1000年間の恨み……差し違えても必ずや……」


「……そんな感じなのね」


 少し歩いていたら急に何かに躓いて、私は顔から転び、そのまま泥にダイブインをしてしまった。


「リリーヴァ様、大丈夫ですか!」


「大丈夫」


 泥人形のような顔面を見せて、親指を掲げる。


「リリーヴァ様ァ!! すぐにお拭きします!」


---


「んな…んな…んな…んな…」


 カルヴァスに顔を拭かれてる。

 いいって言ったのに、なかなか雑だし。


「これで少しは!」


「うん」


 ようやく前がまともに見えるようになった、というか一体何に私は躓いたのだろう。すごーく硬い石みたいな感触だった。


 足元を見てみると、なんだこれ。


 小さなお城みたいなのが立っていた。中からは明かりが出ていて、

天井にはちょうどコインが入るような大きさの穴が空いている。


「カルヴァス、これなに」


 カルヴァスも小さなお城を覗き込んだ。


「貯金箱……ですかね」


「わ!」


「どうしました?」


「いや……なんでも」


 ずっと欲しかったやつ、コインを入れたら仕掛けがあるやつだよね……光ってるし。

 なんでこんなところにあるんだろう、お姫様…出てきたりするのかな。


 私はすぐに懐から金貨を一枚取り出して、それをお城の穴に入れた。


「いんさーと」


 ――「チャリ〜ン♫」


「え」


 真っ白な光に包まれた、貯金箱の演出なのかな。

でも気がつくと、元の場所にはいなかった。


「どこ…」


 ――「ようこそ <最小多数ミニチュアル・の幸せ(ラグジュアリー)> へ、リリーヴァ様」


「みにちゅある…」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ロビーの女の人に聞けば、ここはあの小さなお城の中らしい。

空間操作系の魔法かな、昔攻略した幽霊屋敷と同じ仕組みだと思う。


「魔物がいる」


 金色の魔物がソファとかでくつろいでるし、従業員はロビーの女の人を除いて、全員が黒い包帯のようなもので顔が隠れてる……へんな空間。


 さあ、お風呂で泥も落とせたし今度はアロママッサージにでも行こうか。

 ……あ、カルヴァスに連絡するのわすれてた。


 めっちゃメールきてた。


 ――リリーヴァ様!!!! 19:51

 ――どちらに行かれましたか!! 19:51

 ――無事なら返事をしてください。 20:05

 ――リリーヴァ様あああ! 20:07


 安心しなされ、野営してて、っと。

 気を取り直して、アロママッサージに行こう。


 お城3階のリラクゼーション・エリア。

 淡い間接照明の通路にいろんな種類のスパとかエステが並んでいる、ヘッドスパもある!


 んー……先に行っちゃおうか、髪も遠征で相当傷んじゃってるし。

 ヘッドスパと書かれた札の扉を開ける。


「いらっしゃいませ、リリーヴァ様」


 黒い包帯が顔に巻かれた従業員が話しかけてきた。


 そしていくつか並んだイスの一つで既に施術を受けている人もいた。

 浴衣姿のその人はフェイスシートで顔は見えないけど、大きなツノがあった。

 魔物が利用しがちな施設なのかな、ここって。


「お座りください」


 従業員に案内され、私はふかふかの椅子に腰掛けた。そのまま椅子を倒されて、私の髪が水に濡らされてゆく。


「あら、別のお客様もいるの?」


 大きなツノの人が言う。


「はい、お隣失礼します」


「声に疲れが溜まっていますわね……何をされていたのですか?」


「……ちょっとした、“魔王討伐”です」

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