8 魔王、くつろぐ
<最小多数の幸せ> という手のひらサイズのお城。空間操作系の魔法が込められており、内部は広い宿泊施設となっている。
「はぁ〜、お風呂サイコ〜」
「体の疲れが取れますわ〜」
わたしたちは大浴場で体を休めていた。湯気の立つ静かな空間、広くて誰もいない自分たちだけの極楽。この温泉は素晴らしいのだ。
この温泉、すごい。小さな傷であれば最初から無かったかのように癒えるし、肩こりとかも消える。おまけに生姜湯を飲んだかのようなぽかぽかさも感じる。
たぶん回復属性や炎属性、麻痺属性とかが雑に入れられてるのだ。
まさに命の源泉。詐欺を疑うレベルの効能を、疲労の限界に試せたのがまた幸いだ。
「溶けてしまいそぅ……」
温度もちょうど心地が良くて、わたしたちは幸せの笑みを浮かべながらうっとりとした。
「我はそろそろ、岩盤浴をしてまいりますわ。その後はスパのフルコースに……夕食のときにまた会いましょう魔王様」
「またね〜」
スパも当然やりたいけど、今日はいいかな。それよりも“アレ”を身体が欲しているのだ。
しばらく湯を堪能したのち、わたしは湯から飛び出し、颯爽と大浴場を後にする。服を着たらヤツとの対面だ!
――「ピッ」
自動販売機から、がしゃりと落ちてきたのはコーラであった。
“ミニラグ温泉コーラ(500ml)”、ここの限定品だ。大浴場に入ってから飲むことを前提にしてある商品で、お風呂上がりに不足しがちなミネラルと電解質、あとついでにMPも補給できる!
キンキンに冷えていた。蓋を開けて豪快に喉に流し込む。ガツンとした炭酸、鼻を心地よく抜けるスパイス、染み渡る甘さ。
う……うまいっ!!!
あっという間に飲み干してしまった。あの滝に打たれるような爽快感がもうすでに惜しい。
けれども同時に心地よい静寂と満足感が体をふわーっと包み込んだ。
人も魔王も、いい湯とコーラさえあれば満たされるのだ……
次に、わたしはお城の最上階へと移動した。吹き抜けガラスの展望ができる場所である。
縦横にいくつも並べられたマッサージチェア、壁沿には本棚。ラノベや漫画が置いてあって、いくらでも読めるのだ。ちょうど読めていなかった“ボーバーロード”の続きでも読もう。
そして取り放題のスナックとジュース。わたしはもちろんコーラ(1.5L)を手にした。ちなみにこれも限定品の“ミニラグコーラ”。温泉版とは違って、大きいサイズも選べる。
ラノベとポテチ、コーラを手一杯に抱えたわたしは自身の特等席へと向かった。
ど真ん中のマッサージチェアである、星も見えるし特別感がある。あの席はわたしだけのものだ……って
「おい、魔物」
金の亡霊がわたしの特等席でくつろいでいた。しかも堂々とラブコメ漫画を読んでやがる。
「ここは魔王様の特等席な・の・で・す・が」
金の亡霊は震え上がり、何冊ものラブコメを抱えて逃げるように席を後にした。
まったく、どいつもこいつも魔王への忠誠心を忘れてるね。まあいい、そんなことを気にするのはG王っぽくて嫌だね。
「全身コース、120分、強!」
マッサージチェアの設定をし、第二ラウンドの至福を過ごす……誰だ至福の仕方がおっさんだって言ったやつ!
よし、読み始めようか。
でもすぐに至福の時間は終わりを告げた。わたしの大切なだらだらタイムが、その愛しき刹那が壊されたのだ。
――「世界が炙られ、人が飢えて嘆いていた1000年間。あなたはずっとこうしていたの?」
彼女が語る言葉は呪怨のように感じた。そこにいたのはかつての仲間、聖女リリーヴァ。
純白の髪にどこまでも深いような紫色の瞳……
「リリーヴァ……」
でもなぜだ、浴衣姿にちゃっかりソーダ味のアイスキャンディーまで食べていた。
「そのコーラ、どこでもらえるの」




