7 魔王、癒しを求める
「もう帰りましょう、魔王様……」
「わたしも諦めるよ金なんて……」
疲れ果てたわたしたちは、怒る気力も泣く気も無くして、とぼとぼと洞窟を後にした。
「今晩は野宿でございましょうか。我は慣れておりますゆえ、大人しく枯れ木を寝床といたします」
「ん? そんな必要はないよ」
わたしは地面に指先で触れた。
すると半径5センチほどの紫色の魔法陣が現れて光り、すぐに目的のものが現れる。
「よしできた」
ベヒーモスは膝と手を地面につけて覗き込んだ。
そこには手のひらサイズの小さなお城が立っている。屋根にはコインが一枚ほど入りそうな横長の穴が空いていた。
「これはなんですの?」
「本日の寝床! 会員制のラグジャ〜リアスなお城です」
「ナメていらっしゃるのですか、魔王様。どう見てもミニチュアではございませんか」
「それがね、そうじゃないんだよね〜」
わたしはポケットから取り出したキーカードを小さなお城にかざす。
――「ビー」
なぜだか反応しない。接触が悪いのかな。
――「ビー」
――――「ビー」
―――――――「ビー」
「何をされているのです、魔王様……」
「おかしいな」
あれ、魔王城の入居者は特典として無料で入場ができたはずなのに。
「あ!」
G王が城を占拠してるせいで、わたしが入居者として認められてない?!
おのれ、あの卑怯なハゲ……わたしを嘲笑してる姿が思い浮かぶ。
「ごめんベヒーモス、金貨ある……?」
屋根の穴に金貨を入れれば、それでも複数人がチェックインできたはず。今宵はベヒーモスにたかるしかない。
「ありませんわ、あったとしても魔王様に貸したりするわけがございません!」
「もう、金貨が一枚あれば一泊泊まれるのにー」
「ははは。馬鹿馬鹿しいですわ、こんな貯金箱に泊まれるですって?」
「はあ、わかったよ。スパ, 露天風呂, サウナ...etc. は諦めるよ」
――「なんですって」
「え?」
急にベヒーモスが顔を近づけて問うてくる、なんだこいつ。
「……スパ, 露天風呂ですって?」
「あ、うん」
「スパは、何スパがございますの?」
「たしかフットスパ、ヘッドスパ……」
――「へ、ヘッドスパですの?!」
興味あるんだな。ヘッドスパが特に食いつきが良い。けれども…
「金貨が無いようじゃあ多分むりだよ、残念ながら」
「では、同等の価値のものを試してみましょう。これとか!」
ベヒーモスは本日唯一の収穫であった小さな金塊を取り出した。数時間にも及ぶ努力の結晶である。
確かに薄っぺらいし、屋根のコイン穴に入れられそうだ。
「入れてみましょう、魔王様!」
「うん!」
ベヒーモスは少し惜しそうに金塊を眺めてから、お城の薄い穴に投入した。
「チャリ〜ン♫」
そんな音が響き渡ってから、わたしたちは白い光に包まれた。
しばらくして眩しい光が抜けてゆき、目を覚ますと建物の中にいた。
白くて輝かしい明かり。中央にはロビーカウンター、その周りには涼しげな噴水やふかふかのソファが並ぶラウンジ。
「え! ここがあの貯金箱の内部なのです?!」
ベヒーモスは目を輝かせて周りを見渡した。
――「本日はラスト様、ベヒーモス様、こあくま様、そして金の亡霊の皆様の宿泊でお間違いないですか?」
目の前、ロビーカウンターで佇む黒髪のスタッフの女性。目を細めてにっこりとこちらに笑顔をむけた
「え、金の亡霊?」
気づかないうちに金の亡霊の大群が周りをうろうろしていた。
「うわ! 着いてきてたの?」
「追い出しましょう、魔王様。変に料金がかさんでも嫌ですわ」
「いえ、料金は金の亡霊の皆様と合わせても一切増えません」
「そう、じゃあいっか」
「お部屋の鍵とフロアマップはこちらとなっております。チェックアウト時間は12時で、以降30分ごとに追加料金がかかりますのでご注意をお願いいたしま……」
疲れが溜まりすぎて、わたしたちは魂が抜けかけていた。金の亡霊ならぬ、労働の亡霊である。
「浴場ぅ……」
「ヘッドスパ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、金鉱のすぐ外。一人の聖女が兵たちを引き連れていた。
「このあたりで強大な魔力が観測されています!」
聖女が銀の甲冑を外すと、純白の長い髪が夜風に揺れる……。
「なぜこんなところに……でもいるね、魔王ラスト」
彼女の名はリリーヴァ。
1000年前。ラストをはじめとした勇者パーティの、そのうちの一名である。




