6 魔王、感謝を思い出す
わたしたちは洞窟の外に出た。日は赤くなりつつあった。上品に手を前に添えて歩くベヒーモスに、若干の違和感がある。
「まさかこんな感じになるとはね」
「ラストはザ・お子ちゃまなのに、ベヒーモスはなんていうか、大人の余裕があるね!」
「は! リザレまで何をいう」
「そりゃあ、我は魔王様と違って1000年間引きこもってたわけではありませんから」
「ベヒーモス! お前だってひったくりしてただけじゃん、あー見た目の補正がイラつく!」
なんだあのベヒーモスを纏ってるキラキラのエフェクトは……盗んだ装飾品の反射か!
「そうだ装飾品を返せ、リザレの敵はベヒーモスだ!」
「返してくれるの?」
――「返さないですわよ」
「わかった」
手に持ったこあくまを握りつぶしたくなった。
「なんで納得するの、おかしい!」
「ベヒーモスが村人を怪我させてたことが問題だったから。それが解決するなら装飾品くらい安いもんだよ」
「んん……」
「でもありがとね、ラスト!」
「ありがと……?」
あまりその言葉にピンと来なかった。けれども悪い気はしなかった。
「うん……」
「じゃ、私は村に帰るから!」
「そっか、村の人が待ってるもんね」
「うん! 来た道をさらに進めば海に出られるよ。またねラストとベヒーモス、あとこあくま!」
そう言って、リザレは手を振りながら走っていった。
夕日が強くわたしたちを照らした。ベヒーモスと向き合ってにやりと表情を浮かべる。
「我らにはやることがございましたね、魔王様」
「がっぽり……いっちゃいますか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここが金鉱ね、案外近かったわ」
山脈の道にはトロッコのレールが敷かれている。山の表面にはポツポツと穴が空いており、そこから金を採取している様子。
「とりあえず、レールに沿って金鉱の奥へと進みましょう」
ベヒーモスの後を追って炭鉱に入る。彼女のツノが蛍光灯のように光って、周りを照らしてくれる。
「とくに誰もいないみたいだね」
そこそこ歩いたところで、金鉱の行き止まりに当たった。
「あら」
ベヒーモスがこつこつとその壁をノックした。
「岩盤みたいですわ、我の魔法で消し飛ばしましょう」
「うん」
ベヒーモスがそっと岩盤に触れながら呟く。
『砕けし小金』
音もなく。岩盤全体が金色に光ってから、ぱらぱらと砂のように砕けた。
「便利だねそれ」
「ですわね」
作り出した道をしばらく進むと、壁がまばらに輝いているのが見えた。
「これって……!」
「金です! 根こそぎ奪って帰りましょう!」
「魔法があれば容易いね、破壊するよ!」
――『即時の悪夢!!』
――『明-鉄槌!』
爆発音とともに金が破壊された。
「え、あれ?」
ばらばらの金の代わりに、訳のわからない魔物がたくさんいた。手のひらサイズの丸っこい金色の魔物で、手には槍を握っている。
「これは……金の亡霊ですね。金にダメージを与えすぎました」
「え! じゃあもっと弱い魔法を使えばいい?」
「試してみましょう」
そこから最低限の魔法を壁に埋まっている金に打ちつけた。
『ちび闇!』
『砂金撃!』
――うじゃうじゃと金の亡霊が湧き出てきた。
周囲にもすでに数十体。歩き回っており、この数になるとさすがに気持ちが悪い。
「これが最小の威力だよ!」
「わたしたちの魔法ではレベルが高すぎるかもしれません……では」
「では、どうするの?」
ベヒーモスは袖を捲ってわたしに何かを渡した。鉄製のピッケルである。
「まさか、手掘りでやるの? わたしたちが!?」
「それしかありませんわ魔王様。気合いを入れましょう!」
「ええ……」
この作業がきつい、力を込めればすぐに金の亡霊が湧くし、力の調整がむずかしい!
「手、手に入れましたわ!」
作業を開始して数時間。日もすっかり暮れて、そこでやっとベヒーモスが歓喜の声を上げた。
「採れた? みせて!」
「ほら!」
顔が煤だらけのベヒーモスが指先に摘んで見せてきたのは、指の爪先ほどの小さな小さな金塊。
「金ですよ、金!」
その顔は笑顔だが、だんだんと瞼がぴくぴくとしてきて涙が一滴流れた。
そしてわたしの頬も涙が伝った。
「わたしの……コーラジャグジーが…」
「我の金の城が……」
二人はしくしくと涙した。それをはてなの顔で眺める金の亡霊たち。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ラストちゃん、やっと外に行ったのですね」
暗く、いくつもの蝋燭が灯った魔王の玉座。そこに黒い装束の女性が訪ねた。
「何を言う、ワシが追い出したんじゃ」
「あら、さんざん可愛いがっていたのに」
「いいや、あいつには痛い目に遭ってもらわんといかん!」
「……心配なのでしょう?」
「もしかしたら待ち構えておるかもしれんな」
「嫌ですね、勇者パーティの……1000年間の恨み」




