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5 魔王、ベヒーモスと交渉する

 洞窟の壁に大きなクレーターを形成した。なんてことをするんだ本当に。


「なんてやつだ、やはり耐久力だけはあるみたいだな」


 壁に張り付いたわたしは身体をはがして、軽やかに着地する。


「腹パンするな! 痛いわ!」


 腹パン?! 貫いたつもりであったが、そこまで軽傷なのか!


「わたしの番だぜベイビー!」

 ――「なにっ?!」


「何をする気なの、ラスト!」


 やつに手のひらを向ける。


 わたしの属性は二つ。それが炎と……


 “闇”。極まれり魔法の片割れ。


 わたしの世界に……包まれよ。


 『星の煌めく夜に(フェイス・エトワール)!』


 星の光と永遠の闇が放たれた!


 それがベヒーモスの身体を包み……込まなかった。


「あれ、あれっ!」


 いつのまにか闇の魔法は目隠しのようにわたしの顔に巻き付いてやがる。なぜか紐状になっていて取れない。ふらふらと歩き回り、すぐに洞窟の壁に衝突した。


「は?」 「え?」


 ベヒーモスとリザレは何が起きたかわからなかった。確かに見たのだ、あの自身に満ちたラストの顔を、放たれようとした最高の魔法を。

……でも数秒後にはなんだこのあり様は。


「あいつ、いったい何がしたいんだ?」


「私に聞かないでよ……あなたの飼い主でしょ」


「ええ…」


 やっと巻き付いた闇魔法の目隠しを外すことに成功した。きらきらの笑顔を二人に向ける。


 「さあ、仕切り直して〜!」


 「「 無理だろ!! 」」


 いい加減この茶番にキレたベヒーモス。どすどすと足踏みをしながら言う。


 「いい加減にしろ! これ以上ふざけるのは許さんっ!」


 ベヒーモスの背後は黄金の魔法陣。


 『黄金郷の涙(ユンシー・ゾーラ)!』


 え、その技はやばい! 追加効果で“延焼”があったはず。可燃性ガスと合わさればリザレが死ぬ、そしたら海の方角が聞けなくなる!


 しかたない……くそっ……利益は一部諦めるしか!


「まって、ベヒーモス!」


 ベヒーモスに駆け寄った。


「ん? なんだ?」


 ベヒーモスは耳を傾ける。


「コソコソコソ……」

 ――「本当なのか?」

 ――「なに?!」

 ――「なるほどな。それでいい」


「二人とも共謀でもしてるの!」


「この女にそんなことができると思うか?」


「お……思わない」


 わたしはふかーーく頷いた。そうそう、わたしには共謀などできるわけがない……ってバカにしよって。


 まあいいもん〜。本当は独り占めしたかったけど海にも行かなきゃ行かないし、仕方がない。


 魔王城の空き部屋と、金鉱を山分けするということで手を打ったのだ。まあちょっとは誇張があったかもしれないが……誤差誤差。


 2等分してもヘヘヘへ……コーラでジャグジーができてしまうぜ。


 ベヒーモスと目を合わせてニヤつく。


「ちょっとやっぱ何か企んでるでしょ!」


「いいや別にぃ〜。あ、そういえばベヒーモス!」


 ベヒーモスに近寄ってくんくんと身体を匂う。


「お、なんだ急に……」


 このチョコマシュマロみたいな香り、やはりこあくまの香りだ。


「ねえこの辺で、丸っこいチビ悪魔見なかった?」


「ああ、うるうるした目の小悪魔か?」


「そうそう!」


「捕まえて装飾品の管理を任せているぞ、ほら」


 ベヒーモスが巨大な身体をどけると、洞窟の奥から眩いほどの黄金が光った。


 金装飾の山の上で、小悪魔がミニチュアサイズのネックレスをピカピカに磨いていたのだ。


「こあくま! 生きてたのね!」


 こあくまはプイッと向こうを見た。冷たい風が吹いて、わたしは氷漬けになった。


「あーあー、労働条件がこっちの方がいいってよ。どれだけ働かせてたんだ?」


「しゅ、週7日・休み時間あり……」


 ――さらに場の空気が冷え込んだ


「はあ?! バカかよ何やってんだ」


ついでにリザレも罵ってくる。


「ろくでなしのカスよ!」 

「ゴミゴミゴミ……」

「よくこんな奴の元で働いてたね、可哀想な悪魔ちゃんん」


 凍ったまま涙を流した、誰も同情などしてくれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「それで、ベヒーモスは連れて行ってくれるんだよね?」


「契りを交わしたからな、一応使い魔としては帰ってやろう。デカい城にも部屋を用意しろよな、魔王様」


「部屋はいっぱいあるよ! 城はでかいもん」


「私も今度行かせてね」


「魔王城はリザレみたいなお子ちゃまが来るところじゃないよ〜、トラップ踏み抜いて死ぬかも」


「えーー。あ、ラストとこあくまはベヒーモスに乗って帰るの?」


「そう!」

 ――「こんなやつ乗せるわけないだろ」


「ん?! せっかくの乗り物なのに! 歩いて帰るの?」


「歩くも何も、“服従の首輪”をつけたら小さくなるじゃないか」


「え……ベヒーモスってそんな趣味なん……」

 ――「違うわ!」


「“服従の首輪”は使い魔がつけるものだ。

主人の棲家すみかを圧迫しないためにも小さなヒト族の姿になるのが相場なんだよ」


「へえ〜」


「そこの小悪魔だってつけてるじゃないか」


 装飾品を磨いているこあくまの首を見ると、確かに犬の首輪のようなものがついている。


「で、どうやって用意すればいいの?」

 ――「主人が首に触るだけでいい」


 「おーけー」


 手のひらでベヒーモスのひんやりとした首に触れた。すぐに首の周りに光り輝く帯が現れて、それがベヒーモスの巨体を包み込んでゆく。


 そして、光に包まれた身体がだんだんと小さくなってゆくのだ。人ほどの大きさとなったら、光は薄くなり、消えていった。


 「…え?!」 「えええ!」


 わたしとリザレは驚愕。ベヒーモスが人の姿となるのだからそりゃ当然、ゴリマッチョな男の騎士……的なものを想像していたが。


「これが、ベヒーモス?!」


 ナチュラルウェーブの黒髪、潤った唇。黒を基調としたドレスに金の装飾。大人のお姉さんというような雰囲気の美しい女性。


 そして何より、デカい。立派な2対のツノもそうだが、とにかくわたしの10倍くらいなのだ……これが敗北か!


「よろしく、ご主人さまっ」

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