4 魔王、部下と再開する
わたしはリザレに案内されて森の中の道を進んだ。
「リザレはどうして森にいたの? ちなみにわたしの名前はラストよ」
「ずどーんって音がして森を見に来たの……ラストはベヒーモスを知ってるの?」
「知ってるもなにも、わたしの使い魔なんだよ?」
「は……使い魔? じゃあ村人を襲うのも飼い主責任じゃん!」
「こればかりは仕方ない。名義上は使い魔ってだけだし」
「魔王ってへんなの……」
「それで、なんでベヒーモスが村人を襲っているわけ?」
「ベヒーモスが村人の装飾品を奪うんだよ」
「装飾品?」
「まあ私の村にも問題があるんだよね、村の近くには金鉱があって……」
「キン?!……いや、なんでもないよ。続けて」
「ん? それでね、村の人はそこで採れた黄金には精霊が宿ると信じてる……
だから装飾品にしていつも身につけてて、森に出るたびにベヒーモスに襲われる」
「ソリャタイヘンダ〜」
――あったり前でしょ、このアホタン娘。
金の装飾をつけた人がその辺を歩き回っていたら誰でも襲うって。
「策はあるの? ラスト」
「策というか飼い主の顔を見りゃ当然。名義上であったとしても、飼い主であればどんな猛獣もわんころよ」
「わかった。ベヒーモスはこの先の“いびつの洞窟”の奥で眠ってると思う。
鳥が騒がしくない日は基本そうだから」
「うん」
そのまま何も変わらない、非常につまらない森を歩いていると、何かがわたしたちの目の前に立ちはだかる。
「魔物だ!」
そこにいたのは3匹のスライム。赤黒いのと青いのと緑色。目のないドロドロとした体を震わせ、こちらに威嚇をしているようであった。
――「眠りなさい」
わたしがスライムに手を向けてそう言うと、すぐにいびきをかいて動かなくなった。
「ラストにも魔法が使えるんだ」
「当たり前でしょ、わたしは魔王なの!」
「へえ〜」
まあ、睡眠魔法の加減だけはちょっと得意……不眠症だったから。
「これが水分補給にちょうどいい!」
「水分補給?」
「見ててリザレ、睡眠状態のソーダスライムはこうできるんだ」
赤黒いスライムを手で持ち上げて、口へと運ぶ。そして吸うのだ!
――「きえええああああ!!」
スライムが絶叫が響く。これが逆に味なのだ。まさに人の不幸は蜜の味!
「コーラスライムがやっぱ一番うまいね〜」
「え、私もやりたい」
リザレは緑色のを手で掬い上げると口へと運び、吸い始める。
――「きえええああああ!!」
「わ、本当だ! 絶叫がギルティな感覚をくれてさらに美味しい!」
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「美味かったぁ〜」
スライムたちは跡形もなく飲み干されていた。
「私も睡眠魔法だけは学ばないとね!」
「麻痺属性も加えたら、余計ピリピリしてて美味しいよ。ゴールデンパイナップル・スライムの麻痺属性が一番美味しいんだよなあー!」
「へえ!」
「でもあいつら高カロリーだから気をつけな」
「どれくらいなの?」
「1匹につき300kcal」
リザレが青ざめる。
「は! 先に言いなよラスト!」
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「ここが“いびつの洞窟”ね」
目の前には大きな洞穴、風が吹き抜けて不気味な音を立てている。
「中は可燃性のガスがすごいらしいから注意!」
「何情報だよ、それ」
中は暗い。可燃性となると火の魔法も使えないが、このくらいであれば目を凝らせば余裕だ。
まっすぐな洞窟を歩いていく。人間のリザレには何も見えないようだから手を繋ぐ。光もなく、水滴が滴る音のみ。
しばらくすると、目の前にぼんやりと青く発光した水晶が現れる。
「ラスト、これは何?」
あーあーこれね、勇者時代を思い出すよ。ダンジョンとかでもよくあったな。
「ボタンだ、反応が悪いことがよくあるから殴っときゃいいのさ。ほれ」
爆発のような殴打が円形の水晶に響いた。
――「い”ってえ”え”え”!!!!」
咆哮が響く。どうやらさっき殴ったのはボタンではなかったようだ。2対の大きなツノは蛍光灯のように光り、屈強な四足の脚がクジラのような灰色の胴体を起こす。
首からはじゃらじゃらと金の装飾をぶら下げていた。正直ブタに真珠だ、まったく似合っていない。
「ああごめんね、あなたの目だったのね!」
怒りに満ちた声は地響きのように轟く。
「我の根城に何をしに来たァ! 人間の子供とお前……なんだ……変な女!!」
「は、わたしのことを忘れたわけベビーボブ!」
「我はベヒーモスだ」
「わたしはラスト! お前の主人であり魔王だ!」
「……知らん、そんなやつ」
「もう〜、失礼なやつだなあ」
ぺしっと巨体の足を叩いた。
――「いて」
「何が“飼い主であればどんな猛獣もわんころよ“ だよラスト! ぜんぜん覚えてないじゃんか」
「まあまあ……ベヒーモス、お前には3秒やろう! そのうちに平伏すれば許さんでもない!」
――「ご!」
――「よん!」
やや困った表情のベヒーモスは、リザレと目を合わせた。けれどもなんたる裏切り! 彼女はため息をしながら首を横に振ったのだ。
――「さん!」
わたしの額に汗が浮かぶ。
――「にー!」
助けてリザレぇ!
――「いち…………うぐぇへッッ!!!」
ベヒーモスがわたしの腹を鉄柱みたいな角でどつきやがった!
ホームランボールのように飛ばされて、わたしはものすごい勢いで洞窟の壁にめり込んだ……。




