3 魔王、年下に煽られる
黒髪の少女、いかにも村の子って感じの身なり。心優しい魔王の登場に怯えてしまったようだ。
「げっ、そんなに驚くなよ!」
「魔王なんでしょ! そりゃ驚くよ!」
「そうか……なるほど。冗談、これはコスプレってやつ」
「魔王コス?」
「そう、魔王コス」
「じゃあ、角は取れるの?」
「取れない、角は生まれつきなんだよ」
「なんで?」
「そのっ……牛とのハーフ」
「そうなんだ。乳は出るの? ウシ女さん」
「ウシッ……いえ、出ないよ」
「“ウシッ”って鳴くんだ、おもしろ〜い」
「そう、面白いでしょ〜……」
「魔王ってよりもまさに“ウシ”って感じの雰囲気だもんね。
まるで覇気がない、こりゃ牛だからか〜」
「う…うるさいわねっ!! 乳が出りゃお前の生き血と合わせてスムージーにしてやるわァ!」
「あ」
…
「やっぱり魔王だあああああ!!」
――「逃げるなああ!」
それから逃げる少女を追いかける。でも先にくたびれたのはわたしの方だった。
「魔王? あれ、足遅ない?」
少女の怯えはいつのまにか嘲笑へと変わっていた。
「最近のガキめ、煽り癖が常備されてやがる…ハァ……ハァ」
木の上に登って、少女はいらつくほどリラックスをしていた。なんだよ…あの見せつけるような大あくびは。
「降りてこい! それとも木ごと吹き飛ばしてやろうか」
「やだも〜ん」
「あっ」
完全に忘れていた。確かにこの少女には腹は立つが、わたしの本来の目的は“海”の方角を聞き出すこと。
「あの…少女。お前の無礼を許そうではないか! だから、海の方角を教えてくれ……ない?」
「はあ、まったく。なんで私の生き血がどうとか言ってたウシ女に親切しなきゃならないのよ」
「もう!」
――「モー?」
「うぐっ! ……まあいいわ、取引よ。あなたの願いをひとつ叶えてあげるから、わたしに海の方角を教えて!」
願いの処理はこあくまに任せよう…
「いいよ。じゃあ“森の野牛”をどうにかしてくれない?」
「くっ…またバカにするのか!」
「違うよ! ここの森の主の“ベヒーモス“よ、村人を襲うの!」
「あ、ああ。ベヒーモスね!」
ベヒーモス。非常に聞き覚えがある言葉だと思ったら、いたわそんな使い魔! いやぁ、ありがたい情報だわ。海のバハムート、森のベヒーモス! って感じで覚えたなあ。
……ってかちょろくね? わたしがベヒーモスを連れてったらこの少女に海の方角も教えてもらえるじゃん、一石二鳥っ!
「決まりっ! 少女、あなたの名前は?」
少女はひょいと木から飛び降りた。
「私はリザレ。コノヨ村から来た…」
――「コノヨ村のリザレ、きみと出会えてよかった!」
「なに……この人」




