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第108話:戦闘(言動)継承戦①

継承戦は、止まらない。


エフィナの最終戦を待つ間にも、他の候補者たちの戦いは淡々と進んでいった。


翌日。


ダルガン・ザ・ブレイズロードVSヴォルツ・アビスホーン


統治継承戦。


指定された領地は、長く対立が続く都市。


武力衝突寸前の状態にあった。


開始直後、ダルガンはギリギリ反則にならない範囲で力での制圧に動いた。


迅速。圧倒的。


混乱は一時的に沈静化する。


だが――


その裏で。


ヴォルツは別の手を打っていた。


対立の根源を見極め、関係者を分断し、交渉の場を整え、利害を再構築する。


表には出ない。


だが確実に、流れを変えていく。


結果。


反則ではないにしても武力で制圧しようとしたダルガン。


あくまで継承戦のセオリー通りに則って進めたヴォルツ。


最終的に都市は、武力に頼らないヴォルツの形で安定へと向かった。


勝者――ヴォルツ。


静かな頭脳戦の勝利だった。


その様子を、観客席から見ていたエフィナは。


「……」


ほとんど、瞬きをしなかった。


視線は試合に向いている。


だが意識は、別のところにあった。


(言葉で、勝つ……)


頭の中で、何度も反芻する。


(どうやって……)


ヴォルツの立ち回りを見ながらも。


それを“自分の戦い”に置き換えようとしている。


「……エフィナ」


隣で、カナトが小さく呼ぶ。


だが、反応がない。


「……おーい」


少しだけ声を強める。


「……え?」


ようやく、エフィナが振り向いた。


一拍遅れて。


「あ……ごめん」


すぐに謝る。


だが、その目はどこか遠い。


「大丈夫か?」


「うん……」


頷く。


けれど、その声に力はない。


「……」


カナトはそれ以上何も言わなかった。


言えなかった、ではない。


言わなかった。


その理由を、理解しているから。


翌々日。


ダルガンVSルシエル


共存継承戦。


複数の敵対勢力が集められた場。


本来なら、最も複雑で難易度の高い試練。


だが――


「……別に、いいや」


ルシエルは、そう言った。


やる気のない声で。


対話もしない。


介入もしない。


ただ、立っているだけ。


結果として。


場は荒れ、衝突が起き、それをダルガンが力で制圧する。


勝者――ダルガン。


あまりにも呆気ない結末だった。


観客席に、ざわめきが広がる。


「……なにあれ」


ユナが思わず呟く。


「やる気なさすぎでしょ」


苛立ちを隠さない声。


エルネストも眉をひそめる。


「……意図が見えん」


低く唸る。


カナトは腕を組みながら、ルシエルを見つめていた。


(あいつ……)


何を考えているのか。


やはり、読めない。


――そして。


その隣で。


「……」


エフィナは、微動だにしなかった。


視線は、ずっとルシエルに向いている。


だが。


その瞳は、戦いの結果ではなく“その先”を見ていた。


(なんで……)


(どういうつもりで……)


思考が、止まらない。


(あたしと戦う時は……)


(どう来るの……)


次から次へと、問いが浮かぶ。


消えない。


まとまらない。


それでも、考え続ける。


「……エフィ」


ユナが声をかける。


「ちょっと休んだら?」


心配を隠さない声。


だが――


「ううん、大丈夫」


即答だった。


視線は、前を向いたまま。


「まだ……考えられるから」


その言葉に、三人は顔を見合わせる。


それ以上、何も言えない。


言ってはいけない。


分かっているから。


その後も。


エフィナは、ずっと考え続けていた。

食事のときも。


歩いているときも。


夜、部屋に戻ってからも。


ユナからもらったノートに何かを書いては消し。


言葉を組み立てては、崩し。


何度も、何度も繰り返す。


「……違う」


小さく呟き、また書き直す。


(これじゃ……届かない)


何かが足りない。


でも、それが何なのか分からない。


焦りが、じわじわと積もっていく。


少し離れた場所から。


カナト、ユナ、エルネストの三人が、その様子を見ていた。


「……無理してるわね」


ユナがぽつりと言う。


腕を組み、視線はエフィナから外さない。


「でも、止めたらダメよね」


カナトが小さく頷く。


「うん」


短い返事。


それだけで十分だった。


エルネストが静かに口を開く。


「……あれは、己との戦いだ」


重い言葉。


「他者が踏み込むべきではない」


ユナが小さく息を吐く。


「分かってるわよ……」


視線を少しだけ逸らす。


「分かってるけど……」


その先は、言葉にならない。


カナトは、ただエフィナを見つめていた。


(頑張れ、って言うのも違うんだよな)


何もできないもどかしさ。


でも。


「……信じるしかないな」


ぽつりと呟く。


ユナも、エルネストも、黙って頷いた。


手は出さない。


口も出さない。


でも目は逸らさない。


いつでも支えられるように。


その場にいる。


それが、今できる唯一のことだった。


そして。


三日後は、確実に近づいていた。


薄暗い室内。


重厚なテーブルを挟み、二つの影が向かい合っていた。


片方は、ヴォルツ・アビスホーン。


もう一方は外套を纏った、あの“人物”。


灯りは最小限。


互いの表情すら、完全には読み取れない。


だが、その場に流れる空気は、静かでありながら鋭かった。


「……確認しておこう」


ヴォルツが、ゆっくりと口を開く。


杖は手元に置かれ、指先だけが軽く組まれている。


「もしエフィナが魔王に選ばれた場合」


わずかに視線を上げる。


「一人になったところを襲う」


淡々とした口調。


だが、その内容はあまりにも直接的だった。


「……それ以外であれば」


一拍置く。


「そのまま我々の誰かが魔王になる」


視線が、外套の奥を射抜く。


「それでいいのだな?」


沈黙。


数秒。


やがて外套の人物が、小さく頷いた。


それだけ。


言葉は、ない。


だが、それで十分だった。


「……ふむ」


ヴォルツは小さく息を吐く。


「利害は一致している、というわけだ」


わずかに口元が歪む。


「私としても――」


低く、静かに。


「エフィナだけは、魔王にしたくないのでな」


その言葉には、確かな意志があった。


過去を知る者の。


そして、未来を見据える者の。


「……」


外套の人物は何も答えない。


ただ、その場に存在している。


それ自体が、肯定のようでもあった。


やがて、ヴォルツが手を伸ばす。


テーブルの上に置かれていたグラスを持ち上げる。


向かいの人物も、同じように手を伸ばした。


――カチン。


小さな音。


グラス同士が、軽く触れ合う。


「契約成立だ」


ヴォルツが呟く。


その瞬間。


互いに、わずかに笑った。


ニヤリと。


同じ種類の笑み。


静かで、冷たい――“共犯者”の笑みだった。


決戦当日


朝。


空気は張り詰め、どこか冷たい。


エフィナは、静かに歩いていた。


決戦場へと続く道。


その足取りは、止まらない。


だが――


「……」


表情は、硬い。


指先が、わずかに震えている。


呼吸も、ほんの少しだけ浅い。


緊張が、隠しきれていない。


その後ろを、カナトたち三人が歩いている。


誰も、すぐには声をかけなかった。


(……今は)


カナトが小さく息を吐く。


(何言っても、届かないよな)


ユナも、腕を組んだまま視線を逸らす。


(下手なこと言ったら、逆に崩れそう)


エルネストは黙っている。


だが、その目はずっとエフィナを見ていた。


三人とも、分かっている。


これは――エフィナ自身の戦い。


踏み込めない領域。


「……」


言葉が、見つからない。


そのまま、無言の時間が続く。


足音だけが、静かに響く。


そして――


「……来たか」


低い声が、前方から響いた。


エフィナの足が、ぴたりと止まる。


顔を上げる。


そこに立っていたのは――


ダルガン・ザ・ブレイズロード。


腕を組み、道の中央に立ちはだかっている。


まるで、待ち構えていたかのように。


「ダルガン……」


エフィナが小さく呟く。


ダルガンはゆっくりと目を細める。


その視線は鋭い。


だが、敵意ではない。


「顔に出ているぞ」


短く、言う。


「……え?」


エフィナが戸惑う。


ダルガンは顎を少し上げた。


「恐怖だ」


はっきりと。


遠慮もなく。


その言葉に、エフィナの肩がわずかに揺れる。


「……っ」


図星だった。


何も言い返せない。


ダルガンは一歩、近づく。


重い足音。


だが、不思議と圧迫感はない。


「隠す必要はない」


低い声。


だが、どこか静かだ。


「恐れるのは当然だ」


エフィナの前で、止まる。


「相手はあれだ」


一瞬だけ、視線が遠くを見る。


ルシエルを思い浮かべているのだろう。


「恐れぬ方がどうかしている」


言い切る。


エフィナは、少しだけ目を見開いた。


「……」


ダルガンは続ける。


「だがな」


わずかに声が低くなる。


「恐れたまま、立つか」


「恐れを押し殺して、立つか」


その違いは、大きい。


エフィナの胸が、どくんと鳴る。


「どちらを選ぶかは、貴様だ」


それだけ言うと、ダルガンは体をずらした。


道を開ける。


「行け」


短い一言。


背を向ける。


もうそれ以上は語らない。


エフィナは、その背中を少しだけ見つめ――


「……うん」


小さく、頷いた。


足を、前に出す。


一歩。


また一歩。


決戦場へと向かう。


それに続いてカナト達がダルガンの横を通り抜ける時、ダルガンが呟いた。


「勝てよ」


カナトが振り返るがダルガンの姿はもうそこにはなかった。


そして、さっきより背筋が少し伸びたように見えたその小さな背中を――


カナトたち三人が、黙って見守っていた。


戦いの時が、すぐそこまで迫っていた。

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