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アーデルハイド

 アンナにナイフを向けていたゴブリンの片方の首が飛び、真上に血が吹き出る。残ったゴブリンが不思議そうに隣の仲間を見やって、状況を把握して叫ぼうと口を開けた瞬間、その体を白刃が分けた。

 驚きで身を縮めているアンナを素早く引き、その左腕に抱く。そのあまりの手際にただ見惚れてしまう。

 遮るものが無くなり、現れた人物の姿がはっきりとわかるようになる。

 身を包む装備は軽装。無地で清潔そうな衣服が細長い体を包んでいる。腰には交差するように二つのベルトを巻いており、左腰には鞘を吊り下げていた。背はスラリと高く、俺と同程度か下手すれば向こうが高いかもしれない。黒色の髪はポニーテールのように括られていた。

 くびれているが、胸の膨らみはない。顔は凜々しく美形だが、どこか気怠そうな、面倒くさそうな雰囲気が感じられる。話しかけにくく人を寄せ付けない独特の圧を帯びていた。

 左腕で小さくなっていたアンナがおそるおそる目を開けて、そして誰かわからない人物に助けられたのだと気付いてあわあわと口をパクパクさせている。チラッとそこへ目を落としてから、湿気のある目で俺を睨んできた。


「おい、この娘はお前が守ってやるべきじゃないのか」


 透明感はあるものの、そこにものぐさな物が混じって絶妙に毒のある声だった。男にしては高いが女にしては若干低い。微妙に性別がわかりづらかった。


「悪かった。助けてくれて本当にありがとう」

「……いや、こちらこそ悪かった。話はこの場を切り抜けてからにしようか」


 薄く微笑みながら答えて、怒りの声を上げ始めたゴブリンの集団を冷たく見下ろす。ゴブリンが攻撃の姿勢を取るのを呆れたように見てから、細くため息を吐きながら右腕を上げた。

 握られた武器は、ただ刀と言うには少し変わった造形をしていた。

 その武器に鍔はなく、短めの柄から刃が直接伸びている。その刃も極端に薄く流麗な曲線を描いていた。その曲線は先端に行けば行くほどその角度が不均一になり、刃の幅がどんどん広くなっている。

 刃を薄くするのはより軽く、振りやすくするためだ。だがそう作られているにも関わらず先端を重くして重心を持って行くというのは、逆に振り回しにくくなるのではなかろうか。折角の軽さを無駄にしてしまうことになりかねない。

 掲げられた曲刀は太陽の光を後ろに受け、凶悪な形を浮かび上がらせる。

 恐怖を振り払うためだろうか、ゴブリン達はひたすらにギャアギャアと喚き立て、塊になった唾が辺りに散らされる。飛んできたそれに思わず顔を逸らして、酷く不機嫌そうに呟いた。


「汚物が……」


 その声色はこれまでとは全く違う怒気を孕んだもので、ただ唾を吐きかけられたことに腹を立てただけのものとは思えなかった。

 顔を逸らしたことが好機だと思ったのだろう、一匹が勢いよく飛び掛かっていく。だがそれが許されることなどなく、地面から脚が離れた瞬間振り下ろした刃に両断された。

 鋭い弧を描いた曲刀は既に腰の高さで居合のように構えられており、追撃に来たゴブリン達の手元が一斉に払われる。武器が無くなりどうしようもないゴブリンを凄まじい速度の一刀が切り上げた。そうしてまた、元の構えへ戻っていく。

 速い。複雑な軌跡を作る一閃は直線という最短を通っていないにも関わらず圧倒的な速さを誇っていた。

 あの先端に重心がありそうな曲刀は遠心力を重視した作りだったのか。道理で曲線の剣技に行き着くわけだ。


 目の前の敵には勝ち目がないと悟ったゴブリン達は振り向き、こちらへと駆け寄ってきた。もう数は少なく五匹程度になっている。しかもその中の三匹は武器すら握っていなかった。

 さっきまでの統率は何処へやら、死ぬもの狂いでこちらに迫る。俺を捕らえて同じように人質にするつもりだろう。

 舐められたものだ、そこまで弱いつもりはない。

 前に居る二匹を横に薙ぎ、後から来た一匹を蹴り飛ばす。尚取り囲もうと横に回り込んできた一匹と、出遅れていた一匹を同時に斬り殺した。蹴った一匹が起き上がろうとしていたのを走り寄って踏み潰し、頭に剣を突き立てて終わらせる。これで全部の筈だ。

 周りを見回すと状況は死屍累々としていて、立ち上る死臭に鼻をつまみそうになる。アンナも気分が悪そうにしていた。

 それを心配する素振りを見せる曲刀使いに歩み寄り、感謝の言葉を述べておく。


「本当に助かった。ありがとう」

「ああ。私も一人で全部倒すなんて事態にならなくて良かったよ」

「いや、たとえそうなってもあんたなら何とかなるだろ……。失礼かもしれないが、性別と名前を教えてくれないか」

「ふふ、男に見えるか。名前はアーデルハイド。名前の通り女だ。長いなら、アデルかハイドと呼んでくれ」

「女性だったか。なんだ、その、悪かった」

「気にするな。よく間違われる。で、お前達は旅人に見えるが、何処に行くつもりなんだ」


 会話の中でスッとアンナの背中を押し、こちらに渡してくる。まだ剣を持ってしまっていることに気付いて、背中に収めてからその手を引いた。


「この川を下った先にあるらしい城下町だ。知っているか?」

「やっぱりか。知ってるも何もそこに住んでる。案内しよう」


 振り向いて曲刀を払い、鞘に収めながら歩き出す。その背中を追おうと、アンナの手を引いて歩き始めた。

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