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散歩道中

 空中に身を躍らせ、小さな体躯とほぼ同じ大きさの棍棒を振り上げる。その首元へ剣先を添えると、勢いのまま突き刺さり血が溢れた。

 細い首では幅広の剣に耐えられず、別れた体が地に落ちる。残った首は一瞬だけ剣の上に留まり、ニタッと笑ったまま転がった。

 一匹を犠牲に作り上げた隙に、下がり気味だった二匹が近付いて得物を繰り出す。その手にあるのは血に濡れた杭、(かす)りでもしたらどんな細菌が付いているかわからない。

 剣を添え、力の方向を変えるようにして最初の一撃を逸らす。遅れたニ撃目に柄尻を叩きつけて弾いた。追撃は──ダメだ、踏み込めば残った周りに袋だたきにされる。歯噛みしながら半歩身を下げ、呼吸と構えを整える。


 正面を見ると、さっきよりゴブリン一匹一匹の間隔が空いている気がした。怪訝に思って左右に流し目を送ると、そこにはさっきいなかったはずの位置にゴブリンが移動している。素早く後ろを見れば、背後にも二匹控えていた。

 正面に五匹の集団、左右に一匹ずつ、背後に二匹か。遠くから見たときはもっと居たと思ったが、今はそいつに気にかけている余裕は無い。一番警戒していた事態になってしまった。

 左右どちらか一匹を殺して突破するのが最も安全そうに思えるが、また一歩下がったところに戻っている杭持ちが危険だ。背後を見せればあのリーチでやられる危険が高い。かといって踏み込めば残ったやつらに棍棒やらナイフやらでボコボコだ。埒が明かない。

 冷や汗が方を伝う。前方の集団が少しずつ距離を詰め始め、それを嫌がって俺も後ろへ脚を擦る。じわりじわりと範囲網が狭まっていった。


「ギャアウ! ギャウ!」

「ガ! ガガァ!」


 上からの声に、前の一匹が答えた。何かの合図かと思って上を見ると、さっきまでゴブリンが待機していた左上の丘に一匹、ゴブリンが移動している。その手にはまだ使っていない図太い木の杭が握られていた。

 まさか、投げ下ろす気か。ここに? コントロールを誤れば仲間に当たるぞ。

 考えを巡らせた刹那、前から物音がする。顔を戻せばナイフを持った一匹がさっきと同じように飛び掛かってきていた。咄嗟にその顔面へ剣を振り下ろす。

 その一撃は届くことなく、切れ味の悪そうなボロボロのナイフに受け止められた。体重をかけて押し込んでも、その手はビクともしない。

 地面に足が着いた瞬間に押し潰せばいけるか、と力もうとした瞬間、体に悪寒が走る。どこか、その行動に違和感を感じた。

 そうだ、この一匹が飛び込んで生まれた俺の隙に周りがどうこうしようとする気配がない。寧ろ距離を取り、そこから離れて様子を見ようとしている感じがする。

 今までの戦法は一匹を犠牲にしてでも隙を作り、それを突こうというもの。この無謀な突撃に意味があって、俺の隙を突こうというのなら、その場所は。

 上か。

 俺の剣を受け止めるために万歳の姿勢を取ったゴブリンへ右膝を入れ、視界を潰す。上げた右脚を降ろすと共に地面を蹴り、距離を取った。

 瞬間、大きな杭が地面に突き刺さり、顔を押さえ悶えるゴブリンを肉塊に変える。怒りの声が上から聞こえてきた。


 いや、これで終わらない。終わるはずがない。何のための包囲だ、下がれば後ろに敵が居る。俺が後ろに跳んだ瞬間に、攻撃は始まっているはずだ。

 賭けるしかない。

 地面に足が着くと同時に膝を折り、身を低くして地面を転がる。体を横たえ、目が回りそうな程何周も転がって、距離を取ったと確信したところで立ち上がった。

 急いで前へ目を戻せば、驚いた様子できょろきょろと首を動かしているゴブリンが二匹、仲間にどつかれている。取り敢えず何処も怪我していないことに胸を撫で下ろした。

 あいつらは自分から攻撃を仕掛けるときに必ず飛び掛かっていた。それは自分達が背が低くとも大きな獲物を仕留める為だ。ほぼ全ての生物の弱点である頭部、それを狙って一撃で殺すための、本能に近い行動。

 なら、隙を突いたと油断しているときにこそ、意識をせずその行動をやってしまうはずだ。

 思いつきに近い回避だったが、成功して良かった。一度使ってしまった以上二度目はできないだろうが、あの包囲を突破しただけでも大きい。

 丘に登っていたゴブリンも飛び降りてどつきあいに参加しているらしかった。よく見れば仕留め損ねた二匹と、杭を当て損ない味方を殺した丘の一匹の罪のなすりつけ合いが始まっているらしい。

 知能は高いが、どうやら好戦的な部分はどうにも抑えようがないらしかった。

 今のうちに近付けばと身を縮め、目立たず音が出ないギリギリの早さでゴブリン達に近付く。こちらが奇襲をかければ、混乱を招いている今なら殲滅できるはずだ。

 今駆け出せば反応される前に叩き切れるか、といった距離まで近付く。カッとなった一匹が仲間を傷つけたらしく、いざこざは更に発展していた。やるか、と足に力を込める。


「ギャアアアアア!! ギャア!」


 唐突に叫び声が聞こえ、気付かれたかと更に身を伏せる。周りのゴブリンを見ればそうではなさそうで、目の前の集団のもっと奥から声が上がったものらしかった。近くの草陰に身を移して隠れ、様子を見る。


「ギャアウ! ア!」


 奥からゆっくりと歩いてきた一匹は、その傍に別の何かを従えていた。

 それを見た目の前の集団が、さっきの争いはどうしたのか一斉に歓喜の叫びを上げ、辺りに粘りけのある唾液が撒き散らされる。何が起きているのか上手く見えず、上半身を伸ばして目を細めた。

 その、加わったゴブリンが連れている、下卑た声を聞く度にビクビクと怯える少女の姿に、俺の中で絶望と怒りが生まれ、ない交ぜになる。


「アンナ!」


 思わず叫んで飛び出していた。ゴブリン達の視線が一気に俺へ集まり、ただ立ち尽くす俺を見てエッエッと気持ちの悪い笑い声を上げる。


「マコトさん! その、すいません……」


 俺の姿を見て喜ぶように顔を上げたアンナが、すぐに合わせる顔がないと目を逸らし、俯く。今の状況で大丈夫だ、と笑いかけることも、ましてや呼びかけることも俺にはできなかった。

 ゴブリン達がアンナへナイフを向け、こちらへ来いと手招きや棍棒を叩いて音を出す。安い挑発だが、従うしかない。首へ突きつけられたナイフの先端を見るアンナの表情は、恐怖に引きつっていた。

 大丈夫だ、知能が高いならみすみす人質を殺したりはしない。俺という最も危険な存在を排除してからの筈だ。俺が暴れ始めたら即座に殺すなんて事は、ない。俺がその場で剣を振ってギリギリ届かない程の距離まで近付くと、ゴブリンが手の平を向けて静止の指示を出した。立ち止まる。

 踏み込めば俺のリーチだが……舐められているということか。

 ゴブリンが俺の剣を指さし、その手を下へ下ろす。それを何度か繰り返した後、小さく叫んだ。武器を地面に置けということか。

 腰を下ろして地面に剣を置く。が、その手を離さずずっと握っていた。いや、離すことができなかった。この手を離せばすぐにでもコイツらは襲いかかってくる。素手でこいつらを相手取れるほど武術もやってなかったし喧嘩慣れもしていない。この手を離せばそれは自分達の死を意味する。


 それに従うということは、ただの一分一秒の命の延長に他ならない。そんな無意味なことは願い下げだ。

 何かないか、いっそここで仕掛けるか、と考えている内に焦ったゴブリンが喚き散らしながら地面を叩く。小うるさいそれに俺が従わないとわかった瞬間、後ろを向いて何やら指示を出した。

 アンナに向けられたナイフがじわり、と動いてその柔肌に達する。切れ味の悪いそれに深く沈んだ肌は、もう耐えられないとばかりに決壊して血を吐きだした。少しずつ流れ始めた血が刃を伝い、それをゴブリンが美味しそうに舐め取る。

 アンナが今にも泣きそうな、深い絶望に満ちた目で俺を見る。助けて、助けてとその目が呼びかけてくる。そんな目をされたら、俺は、従うしかないじゃないか。

 俺の中に新たな答えは生まれてくれず、剣を握る力を弱めて、その柄が落ちそうになる。もう、こうするしかないのか、とアンナのそれが伝わるように暗い絶望が心を埋め尽くした。


「散歩日和に出てみれば、とんだゴミが湧き出ているな。気分が悪い」


 明らかに俺でもアンナのものでもない声に顔を上げる。

 笑い顔のゴブリンの首が一個、高く宙を舞っていた。

レビュー書いて貰いましたアアアアアアアア!! ギャア!(ゴブリン化


やったぜ。

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