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初戦闘

 勢いよく迫ってきたバトルビーの大群に向かって軽く剣を振ると、奴らは空中で一旦動きを止めた。

 またも睨み合いの形になるが、今度は数の暴力がある向こうが圧倒的に有利だ。恐らくは、すぐに仕掛けてくる。


「どうするんだよマジで」

「どうするもこうするも、基本は受けに回るしかねぇ。こっちから飛び込むのは自殺行為だ」

「そんなの分かってる。打開する方法はないのかって話だ」

「あるにはあるが時間がねぇ。お前一人で稼げそうか」

「わからん。どれぐらいだ」

「5分あれば問題ない」

「……やるだけやってみる」


 任せた、と言ってハルトが少し下がり膝をついて作業を始める。

 先程の様子を見ると、やはり火を極端に怖がっている。火の粉にでも触れたらマズいというような反応だ。昆虫である以上は、怖がらずともそう簡単に燃えないと思うのだが。刷り込まれた本能か、あるいは羽が燃えることを危惧してだろうか。

 どちらにしても好都合だ。時間さえ稼げば何とかしてくれるらしいからな。

 切っ先を集団の中央へと向けながら、横に回ろうとした奴を牽制する。このまま同じ事を続ければ終わるのなら案外楽である。と、端のバトルビーに牽制で剣を振った瞬間、正面の集団から一匹飛び出してきた。

 返す刀でそいつを両断する。が、自分達も続けとばかりに一気に蜂が押し寄せる。

 こいつはマズいか。

 兎に角がむしゃらに剣を振るい、集団を追い払おうとする。しかし、当たるのは突出してきた奴のみで、いつの間にか数匹懐に潜り込まれて居る。


「チッ……!」


 舌打ちと共に軽く後ろに跳び剣を払う。今のが反応できたのは完全にこの剣のお陰だ。素の状態なら絶対にやられている。

 一旦距離ができてバトルビー達も体勢を整え始めた。こちらも息を整え、剣を構え直す。危機的状況だが、不思議と冷や汗や絶望感は出ない。寧ろ、少しずつ湧き上がるパワーに心躍ってさえいた。

 この剣の加護があるならば、集団戦は寧ろ不利ではない。今度は先程のようにすぐに下がるなんて事は無いはずだ。

 突撃準備の整った蜂が一層大きく羽音を鳴らす。

 来るなら、来い。

 そうして見合って数秒、またも一匹の特攻兵から戦闘は始まった。だが、今度はすぐに囲まれるなんて事は無い。大きな塊の表面を、均一にするように削っていく。潜り込もうとした奴を優先して斬り伏せる。

 横から回り込んできた奴は剣から手を離し、左手で弾く。そうしてバランスを崩したところを、他のと一緒に斬り結ぶ。

 徐々に上がる息、削られる集中力と反応を堪え剣を振り続ける。左から右に薙いだ瞬間、左、上、下からそれぞれ一匹ずつ潜り込んできた。

 対応は……無理をして刺されるとマズいか。

 そう思って後ろに地面を蹴った途端、思い出して後ろに目を向ける。マズい、ここで下がるとハルトが蜂に襲われる。まだハルトは膝をついている。もう少し掛かるだろう。

 だが、もうどうすることもできない。叫んで状況を伝える。


「悪い! 持たなかった!」


 やっと地面に足が着いて機動力を取り戻し、まだ近付いてくるバトルビーの集団に切り込んでいく。チラッと目を向けると、ハルトはやっと気付いて顔を上げたところだった。

 そこに、端から漏れたバトルビーが2匹迫る。


「そっちに行ったぞ!」

「了解! 丁度良い、下がれ!」


 その言葉に従い、大きく剣を薙いだ後バトルビーの集団に背を向けて跳ぶ。もう後はハルトに任せるしかない。

 ハルトはこちらが下がるのを待つようにして弓を構えていた。番えた矢はごうごうと、どんな熱い火よりも明るく、強く燃えている。


「任せた!」

「任された」


 心強く、落ち着いた様子で呟いた後、ハルトは引き絞った矢を放つ。

 それはバトルビーの集団の横を抜き、そして、奥にあった巨木を穿って燃え上がらせた。自重を支えきれなくなった木が折れ、蜂の方へと倒れる。

 何匹巻き込まれたのだろう。薙ぎ払われたバトルビー達は混乱し、バラバラの方向を目指して逃げ始める。


「今のうちに逃げるぞ」

「ラジャー」


 後はもう全力で森の中を走り抜けた。


◇◆◇


「日が落ちてきたな。帰るか」

「マジか、もうそんな時間か」


 あの後も狩りを続け、結局夕方まで夢中になっていたらしい。倒せば倒すほど体の調子が戻っていく気がして楽しかったのも事実だ。

 葉の屋根を抜け空が見えるところまで行くと、太陽は遠くの山に触れかけていた。まだ空は赤く焼けていないが、後もう少しでそうなるだろう事が窺える。

 流石に夕方や夜になると危険度がぐっと増すだろう。ここで引き返すのが賢明だ。


「どうだったか? 剣の調子は」

「大分戻ってきた。お前も弓がここまで上手いとは思わなかったよ」

「そいつは良いな。現役の旅人に言われたなら、仲間にも自慢ができる」


 互いにかなりのピンチを乗り越えたからか、前よりもスムーズに会話ができるようになった。互いに冗談を言い合いながら進んでいくと、急にハルトが立ち止まる。


「どうした」

「お前、あれが見えるか」


 ハルトが指さした方向を辿っていくと、一人の男性が覇気の無い様子で歩いていた。かなり遠方で見えづらいが、多分上半身は裸だ。見たところ武器を持っている様子でもない。荷物もこれといって持っていないし、旅人という線は薄いだろう。

 何の理由があってここに居るんだろうと目を細めて、そうしてやっと気付く。

 あれは人ではない。よく見れば肩など一部の肉が削ぎ取られ、骨が見えている。常に力なく口が開いており、髪だと思っていた頭部の黒はこべりついた血だ。

 モンスターノートの内容を全部覚えているわけじゃないが、あれは恐らくゾンビだろう。それ以外に近しいものが載ってなかった気がする。


 獲物を捉えていない時の動きは実に緩慢だが、見つけた途端に恐ろしいハンターと化す。桁外れの筋力、無尽蔵のスタミナ、傷つけられ対処が遅れたなら、壊死は免れない爪と牙。視覚以外の何かでも獲物を判断しているらしく、夜でも関係なく襲ってくる。ポピュラーでありながら最も警戒すべきモンスター。

 知能は低く、仲間意識というものも全くない。だが、生きた獲物にしか興味ないという特性と、動物の死体から生まれるという発生条件から度々集団行動をしているように見える事例がある。囲まれれば先ず死ぬので先に発見できたのなら逃げ出すべきだ。

 息を殺し、物音を立てず、背後から襲うことができれば倒すことはできるだろう。正面からの戦闘は覚悟をしておいた方が良い。他にも力を使える信者ならば、魂を清めて倒すことはできるかもしれない。


 こういった紹介が成されていたはずだ。説明に従うなら、背後を取っている今が好機といえる。


「あれは、ゾンビだよな」

「ああ。ここら辺には出てこない筈なんだが、どういうことだ」

「俺にはわからないが……あの背中のマークはゾンビに付いている物なのか?」

「どれだ?」


 ハルトの位置からは丁度背中が隠れているらしく、こっちに来いと手招きする。

 何を象った紋章なのだろうか、獣の爪痕や足跡にも見えるし、簡略化した盾にも見える。一つの点から上に1本、その左右斜めに1本ずつ伸びた線を、大きな横線が結んでいる。時折鼓動を刻んでいるかのように、紋章全体が蠢いていた。

 ゾンビの説明であんな模様は言及されていなかったし、あの模様自体ノートに記述がなかった。


「いや、俺があまりゾンビを見たことがないからかもしれないが、あのマークは知らないな。その様子じゃ旅人であるお前も知らないんだろ」

「全く」

「となると非常事態だな。親父が何か知ってるかもしれねぇ。急いで戻るぞ」

「待て、アイツは倒さないのか?」


 素早く移動を始めたハルトを呼び止めて、ここで倒しておこうぜと剣を抜く仕草を見せる。


「あいつ1体なら俺とお前でやれるかもしれない。だが、ここから見えないだけで付近にもう1体居たら? この事を知ってるのは俺らだけなんだぞ。下手をしたら二人がかりでもやられるかもしれないんだ。無理はできない」

「お前の弓でやれないか」

「ダメだ。エンチャントしても威力が足りない。それに、あの模様がどんなものなのかまだ未知数だ。躍起になって倒す必要はないだろう」

「……そうだな。わかった」


 ぼーっ、と突っ立っているゾンビを尻目に森を駆け抜けていく。全く音の立たないハルトの走りは素晴らしいものだった。

 別にムキになって倒そうとしたわけではない。戦ってみたいだとか、あいつを倒せばどれだけ強くなれるんだろうとかいう子供じみた好奇心からでもない。

 ただ説明のしようも無い、得も言われぬ不安が胸の中で巣くっていた。

昨日は諸事情で投稿できず申し訳ありません


ここらへんから大きく動きます

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