エピローグ
第12代の国王は、逸話に事欠かない。
幼少のころから武に文に秀で、国の内外に勢力を拡大しただとか。若くして父王から位を継いだ後も精力的に国力増強に努めただとか。事実、彼の代にカミナンド王国は3つの小国を併呑し、1つの大国にまで手を伸ばした。一時王国は、その時代の最大の国土を得た。それでも彼の治世が揺るがなかったのは、ひとえに双子の弟の支えあってのことだとも言われている。弟は成人と同時に王位継承権を放棄し、生涯を神官として彼に仕えて過ごしたという。
ところが、彼の快進撃は王妃を得たことでぴたりと止まった。
腑を抜かれたのだと言うものもいれば、心優しい隣国の王女だった妃が、その命を懸けて諫めたのだと言うものもある。あるいはまた、時期を同じくして実は国王は弑され、その後の彼は影武者であったその弟なのだ、といった説まである。
ただひとつ確かなことは、彼のあまりに急な拡充政策に誰かが異を唱えるよりもあっさりと、その流れを終わらせたことだ。その後は国力の維持に努めた。侵略の手を休めたところでその才覚が衰えたわけではないことは、急速に膨らんだ国土であっても、彼の代には反乱のひとつも起らなかったことからも確かだろう。腑抜けになったわけではなさそうだ。
そしてまた、彼は生涯にただひとりの寵姫しか持たなかったことでも有名である。
隣国から嫁いできた王妃は、ひとり王子を産み落とすと同時に儚くなった。跡継ぎであるその王子を育てるとともに、彼の王の寵愛を得たのが、王妃が小国から連れてきたという侍女だと言う。だが、その実態は誰も知らない。国王が表に出したがらなかったからだ。後宮は王子王女の養育の場となり、侍女は寵姫は王の私室に囲われていたという。
そしてまた、彼の代には1人の高名な騎士があった。
その前身は不明だが、その者はめきめきと頭角を現した。騎士団の下っ端から有力な騎士へ、そして近衛に抜擢された。実力でいえば騎士団長になってもおかしくなかったということだが、そのためには家名が足りなかったという。その騎士は彼に忠実な友だった。知られざる寵姫に目通りを許された、数少ない一人でもあった。また、その騎士は王弟とも気の置けない仲だった、と伝わっている。
有能な王と、その補佐と、あるいは時代もあって、一時は大陸の半分を手中に収めた彼の国だったが、その繁栄はそう長いこと続かなかった。
長く王位にあった彼の時代は、その全てが繁栄の中にあったが、彼は長く王位にありすぎたのだった。彼の死と同時に、王国は没落への道をたどり始めることとなる。




