56.初夜の裏で②
沈黙に耐えかねて、出歯亀根性も手伝って旦那様の心を手繰り寄せましたが、瞬間後悔いたしました。他人の情事など覗くもんじゃありませんよね!急にぶんぶんと頭を横に振って、垣間見たピンク色を追い出そうと挙動不審に陥っている私を王弟殿下が不審そうに見ていましたが私はちょっと焦ってそれどころではありません!無理!何ですかあのピンク色は!私はもう金輪際、わが姫と二人きりのときの旦那様のことは気にしません。わが姫の身の安全には気を配りますが。
ま、まぁ、上手くいっている証拠ですよね、ここまで私がお膳立てをして振られていたらあんなことにはなりませんしねっ。‥‥とにかくこれなら、私の計画もうまくいきそうです。きっと。
「‥‥私は産後の肥立ちが悪くて死ぬことにしているのですよ」
突然口にした私の言葉に、王弟殿下はぎょ、と目をむきました。
「突然何を‥‥」
「私が何を考えているのか、と聞かれましたので。貴方にならば聞いていただくのもよいかと」
ついでに協力を取り付けられそうな医局のかたの紹介もしていただけたらと思いまして、と本音を告げると脱力され、ソファに沈まれました。
「先ほど申しました通り、わが姫には旦那様と結ばれて頂きました」
えぇ、それは名実ともに。世間に公表されている妃は私ですが、世界に向けては先ほどやり直しまして、わが姫と旦那様とは夫婦の契りを刻まれました。
「私はわが姫には、考えうる限り全ての幸せを享受していただきたい」
そのためには、世間に公表された私と言う妃が邪魔なのです。わが姫は決して邪険にはされませんが、私が嫌なのです。わが姫が恋した旦那様と並び立つことができないなどと。
「‥‥それで、産後の肥立ちが悪くて死ぬ、と?」
その通りです。頷いて、
「そしてわが姫には、残されたお子の世話をする侍女上がりの乳母、という役回りに立っていただきます。
献身的な乳母に、旦那様が絆されることは、別段おかしくはないでしょう?」
この計画はまだ胸に温めていただけで、わが主様がたにはひとことも告げていませんけれどね。わが姫が身籠られたら告げる予定でいました。私にその予定はありませんし。
「生国にしても、この国にしても、王妃が産んだ王の子が王位を継ぎさえすれば、それでこじれないと思いますし」
そのためにも、協力してくれる医局のかたが絶対不可欠なわけですが、生憎と私にはこの国に伝手がありません。いざとなれば魔法で私とわが姫の容姿を入れ替えるくらいのことはできますが、できればわが姫の御身に要らぬ負担はかけたくありませんし。ですので協力が取り付けられるのならば願ってもいないのですが、いかがでしょうか。わが姫の出自を教えた以上、この計画には何も問題はないと思いますが。世間体くらいでしょうかね、差し障りと言えば。




