55.初夜の裏で①
「‥‥それで何故貴女がこの部屋にいる」
「‥‥それはこちらの台詞でもあるのですが‥‥」
確かに非常識でしょうよ、婚姻を済ませたということは今宵は初夜、そんな日に花嫁が夫婦の寝室におらず、侍女の控室にいるだなんてね!ですけれど、それはそちらにも言えることですよ、いくら身内とはいえ、夫婦の寝室を訪ねるだなんてそれもこっそりと!私でなければ寝首をかかれていましたよ、全力で魔法にて補助していらっしゃいますねさては。
「兄上の真意を尋ねようと」
「左様ですか。ではこれが答えなのでは?」
疲れて応えながらも、私は右手の一振りで、先ほど寝室に張った結界をさらに強化しました。間違っても声が漏れないように。加えてこちらの控室にも結界を張ります、それらを感じ取り、王弟殿下が眉根を寄せました。
「‥‥だから何の真似だ」
「秘密の話をいたしましょうか」
言葉も表情も、飾ることをやめたのか、苦々しそうで私は楽しい。常の柔らかな物腰など忘れたかのように、しぶしぶと、王弟殿下は頷きました。何やら悔しそうにも見えるのは、きっと私の結界に触れられなかったからでしょうかね。
「‥‥貴女が宵闇の再来だ、と」
「再来と言うより本人ですが。受け継いだのは記憶くらいで、魔力は大分落ちましたけれどね」
遺志を継ぐとかそのようなことではなく、真実私は宵闇のエンです。その自覚があります。
「‥‥そして貴女の侍女が、貴女の姫だと」
その通りです。頷くと、王弟殿下はどこか投げやりに、ソファに腰を落とされました。先ほどまで勧めても勧めても立ちっぱなしていらっしゃいましたのに。
「‥‥それで、貴女は何を考えている‥‥?」
そんな、侍女の制服まで着て。吐き捨てるようでしたが、何がそれほど気に食わないのでしょうね、私がいろいろと規格外なのは自覚していますけれど。
「これは、わが姫の身代わりですよ。
私が考えているのはわが姫の幸せそれのみです」
「貴女は不倫を推奨するのか」
それにだけはきっぱりと首を横に振ります。
「いいえ」
「‥‥あぁ‥‥
そのために、兄上との婚姻を嘘にした、と?」
その通りです。世間などいくらでも騙くらかしますよ、わが姫のためならば。
主役だし主人公なのに、裏で地味に戦うしかしない娘ですいません。




