54.結婚披露パーティーの裏で
さて、どうにかこの手をかわす方法はありませんかね?
主役であるのですから、壇上で微笑んでいればいいというのは甘い読みだったらしく、最初に旦那様とサシで踊り、次に来賓がくるくると泳いでいらっしゃっている中で兄と踊りながら盛大にこっそりと愚痴を言い、ほかの来賓のかたがたの手を取り、もう一度旦那様と踊り、そして次に申し込んでいらっしゃったのが王弟殿下でした。
成程こうして正面から笑顔を向けられますと、気付くことがあります。このかたは私や旦那様など可愛らしいと思えてしまうほど、目が笑っていません。いえ相手が私だからかもしれませんが。でも印象としては、手合せを願われたときとそれほど変わっていませんので、‥‥あぁでもそれも、相手が私だったからでしょうか。
疲れたので部屋で休みたいです、は、婚姻を済ませた淑女として旦那様に願っても不自然ではありませんでしょうけれど、それも親族の手をとってからが自然ですよねやはり。
「義姉上、とお呼びしても、もう構いませんね?
ぜひ私と一曲お願いしたい」
「えぇ、よろこんで」
息を吐くくらいは許していただきたいものです。
「儀のあれは、一体何のつもりだ」
口元には笑み。台詞と眼光は剣呑。私も似たようなものでしょうけれど。
「世界に刻むわけにはいかなかったものですから」
何を、とは王弟殿下は訊きませんでした。完全に私はあの誓いにだけ的を絞っておりましたし、今更言わなくてもお分かりいただけるでしょう。
「‥‥国元に残した男でもあったのか」
「そんなものいないと、お分かりでしょう?」
だって貴方は諜報に長けているのでしょうから。
「‥‥知っていたのか」
飾らない口調と苦々しげな声が心地よい、と言ったら変態でしょうかね。口に出さず、冷静に会話をつづけました。身体は流れるように踊っています。むしろ音楽に流されているというか、リードがうまいのですね。
「その出自でその地位で、その魔力があれば当然のことだと思いますけれど?」
私だって、この名を見出さなければおそらく国許から出させられなかったでしょう。そうなったらわが姫は誰に託したものだったでしょうかね、あぁその場合は、私はわが姫を見出すこともなかったでしょうから、詮無き疑問でしたか。
「‥‥では、何故」
「旦那様には私よりも幸せにしていただかなければならないかたがいらっしゃいますので」
それは誰だ、とは王弟殿下は訊きませんでした。丁度一曲が終わったところでしたし、ただ思案するように黙られました。
そしてそのまま旦那様の所に戻されて、晴れて夫婦と世間に認められたところの私たちは、その場を辞しました。




