46.仮面夫婦のすゝめ
「‥‥確認してもいいかな」
「何をでしょう?」
えらく疲れたように、旦那様が言いました。私は小首を傾げて次の言葉を待ちます。
「‥‥姫は、私のところに嫁に来るのではなかったのかな?」
「父陛下の、あるいは我が国の、つもりとしてはそうでしょうね」
「‥‥つまり、姫にはその気はない、と?」
問われ、反対側に首を傾けて、考えました。
「‥‥そうですねぇ。義務として、こなすつもりはありましたが」
「‥‥それは失礼なのではないかしら‥‥」
そうですか?
それにしても先ほどから首を傾げすぎて少し目が回ります。
「えぇ、でもけれど、私にとって旦那様は生涯の友、なのです」
「‥‥それは、空に刻んだ文句ではなかったか」
あぁ、覚えていてくださったのですね。あのときの喜びは本物でした、今でこそ、わが姫を見出した私はわが名を呼ばわっていただけるのですけれど、あの頃は、もうずっと、仮名だけで生活していたものですから。
「そうですよ?
いつか嫁ぐのだと分かっていましたが、生涯の伴侶は何やらしっくりこなかったものですから」
結果的に、私も旦那様もわが姫を見出して、心のままに生きるのであればお互いの伴侶として空に刻まなくて正解でしたね。あれは、世界に対する宣言ですから、人間社会の契約などよりも余程強力な縁となります。裏切られないのです。
「よいのではないですか?
わが姫と旦那様と私とで、世界にお芝居をするのですよ」
わが姫と私とは主従です。
旦那様と私とは、世間に対しては夫婦で、その実は生涯の友です。
わが姫と旦那様とは、世間的には直接のつながりはありません。我が国からは姫君とそのおつきが輿入れをしたのです。奥でその役回りが逆になっていたとて、誰に分かることではないでしょう。
「私は正直、旦那様と夫婦として並び立つ自分が想像できませんし、お二方が惹かれあっていらっしゃるのであれば、それが一番みな幸せなのだと思うのですけれど」
あぁ、けれど、やはり表面上は私が皇太子妃でいるのが一番角が立たないのでしょうね。私個人としては、わが姫に着飾っていただきたいものですが。
世継ぎの問題はありますけれどね。まぁ、それはどうとでもなりましょう。
というのが私の提案なのですけれど、いかがでしょう?




