34.悔恨
「‥‥ねぇ、エン。あなたが謝ることなんて、何もないの」
穏やかにわが姫はおっしゃる。それはとても嬉しいはずなのだけれど、心が苦しくてたまらないのです。
「だって、わたしは、誰にも注目されないことなんて初めてで、嬉しいの」
「‥‥だってわが姫は麗しいのです。注目しないなんて、無理ですよ、普通なら」
あれ、このふてくされる感じは、まるで先ほどまで会話していた兄にそっくりではありませんか。わがことながら、何やら微妙なところで血のつながりを感じてしましました。よりによってあの兄との。とても微妙な気分です。
「ありがとう。でもわたしは、ずっと、それが嫌だったの」
「‥‥知っています」
それはもう、昔から、かつて宵闇のエンと呼ばれた私であったころから、わが姫の内心は分かっていました。わが姫はかつてだって非の打ちどころのない完璧な姫でしたが、それでも幼いころは本心を隠すのが苦手でいらっしゃいましたから。
「けれど、誰にも目を止められないというのは、そろそろ苦しくなるのではありませんか」
そうしたのは私だけれど。それは、わが姫の望みであったかもしれませんが、多分に私の自己愛を含んでいるというのに。
それでもわが姫は微笑むのです。
「いいえ。全然」
「‥‥ですが、もう4年、4年も私としか関わらないで」
かつては文字通り世界の中心だったお方です。
言い募る私自身も、どうしたいのか自分で分かっていませんが、何やらわが姫を非難するような調子になってしまいました。違うのです、非難したいのは私自身なのに。けれどわが姫が、私のすることを肯定してしまったから、と言いたい自分がいるのも確かです。あまりの自分勝手な思考に絶望すら覚えます。
「エンは、わたしの願いを叶えてくれてばっかりだわ」
「‥‥それが本当に貴女だけの願いだとは思えないのです」
だから私は苦しい。
けれど、あぁ、確かに微笑むわが姫からは、かつて感じていたような儚さはまるで感じられず。私はどうしたらいいのか分からないのです、かつても、今も。
「あなたが好きよ、エン」
「私は貴女を愛しています」
それは、生臭い思惑などない告白でした。
「だから、わたしはあなたがいる世界なら、いいの」
微笑んでそう言われたら、私は、もう、跪くことしかできない。




