35.団欒
奇妙な虚脱がありました。
私が何を言おうとも、わが姫は多分、今の生活を変えられることはない。それが分かってしまって、そしてそれが苦痛ではないものだから、私は受け入れるしかないのです。
数日、何をしていたものやら分かりませんが、あっという間に時間は過ぎました。
「そろそろ、賓客が到着する」
そう、夕食の時に父が言ったのはそれから何日後でしたでしょうか。
「‥‥賓客」
「‥‥え。父上、それはもしかして」
「それは勿論、お前の成婚の儀の列席者たちだ」
「‥‥兄殿下‥‥自分のお式の日取りくらい把握していてください‥‥」
まぁそういう私も、まるで知りませんでしたけどね。
「‥‥あと何日くらいありましたっけ」
兄の虚ろな笑顔にとても不安になりました。
「‥‥お前はまた、各師の手を煩わせるのだろうな‥‥」
でも不安を覚えたのは私だけではないらしく、父も溜息を吐かれました。あぁ、思い返されるのは成人の立太子の儀の騒ぎ。逃げ出す兄を何度捕まえたことか。
「‥‥兄殿下。ちなみに逃げられた場合には、私、以前にも増して全力を以て追いかけさせていただきますので」
「‥‥えぇー‥‥」
「‥‥それは頼もしいな」
姫君がすることではないのは分かっていますが、だってこれでも皇太子ですから遠慮なくしばくことができるのって私くらいなのですよ。だから父よ、そう諦めたように息を吐かないでください。恐らく私がこの国で行う、最後の仕事ですし。
「‥‥義姉君はどうなさっておいでです?」
兄に訊いてもどうせ分からないでしょうし、私は背後に控えていた兄の騎士に声をかけました。
「物思いはされているご様子でしたが」
無口で存在感もありませんが、訊かれたことにはきちんと答えてくださいます。
「‥‥では、このあとお声をかけに参りましょうかね」
これからちょっとばたばたするお詫びも兼ねて。
「‥‥お前の婚約者殿も、数日内に到着予定だが」
「あら、そうなのですね。ではなおのこと、今のうちにお話ししに参らねば」
義姉妹として過ごす時間はまるでないでしょうけれどね。
それくらいしか、私にはできませんし。どうしようもない虚無感を持て余しても、やるべきことだけやっていれば、時間など過ぎていきます。




