33.兄の無知
結論から言えば、兄はいじけていただけみたいです。
どんなに軽薄でもそこはやはり王族として生まれた身。婚姻が重要なものであるということくらい理解しています。
「父上は、何て?」
「兄殿下のお式がもうすぐでしょう?
婚約者様をお呼びしてあるから、そのお帰りに同行せよ、と」
一応挙式自体はまだ先のようですが、兄の妃様も滞在してそのまま挙式であったことを鑑みても、おそらくそのまま輿入れでしょう。
「‥‥そんな急な‥‥」
「と言ってもお話自体は前々からありましたし、むしろ一度も赴いたことがないほうが珍しいのでは?」
「え、前から?俺聞いてないよ?」
どうやら兄はすっかりと、そのあたりの事情から取り残されていたようですね。
「確かあれは‥‥立太子の儀の前後でしたか。そのときに初めてお会いしましたし、父陛下からのお話もその前後だったと思いますが」
「聞いてないよ?」
兄はまったく気付いていなかったみたいです。
それどころか、私は国内の貴族に降嫁されるものだとばかり思っていたとのこと。父の陰謀でしょうか。
「でも私、成人前も成人してからも、特定のかたとお近付きになった覚えはありませんが」
一体誰との関係を勘違いさせられていたんでしょうね。
何やら落ち込んでしまった兄は部屋から出て行きました。
それを見送って、充分経ってから結界を通常の強度に戻します。そして隣室に赴きました。
「‥‥わが姫」
「エン。お話は終わったの?」
隣室は寝室です。本来ならば、おつきであっても侍女の部屋は別に用意された小部屋となるのですが、我儘を発動した結果、私の寝台とわが姫の寝台は隣り合っています。わが姫へと用意された、小さいほうの寝台を私が使っていますので、かつて私が使っていた(今も私が使っていると思われている)ものの良いほうの寝台に腰かけて、わが姫は刺繍をしてみえました。
「‥‥窮屈な生活をさせて申し訳ありません‥‥」
そんなことないと姫は笑顔を見せてくださいますが、心苦しいことに変わりはありません。




