32.妹想い
年頃の娘の部屋などこんなものだと割り切ることにしたようで、腰を落ち着かせぬまま兄は歯切れ悪く口を開きました。言いよどむだなんて、考えなしに言葉を発することが多い兄にしてはなんと珍しい。
「マールは、さ」
「はい?」
「‥‥本当にお嫁に行くわけ?」
「‥‥はい?」
今更?
思わずまじまじと兄の顔を見つめてしまいましたよ。
「だって、マール、この国でやりたいことがあるって言ってたし」
‥‥えぇと‥‥それは何年前の話でしょうね‥‥
「それにあいつ、性格悪いよ」
「‥‥意外と人を見る目あったのですね‥‥」
表面だけを見れば、あれほど王子らしい王子もいないのですけれど、確かにわが婚約者様は結構いい性格をしていらっしゃいます。
いやしかし、これは。
「‥‥心配してくださるのですね」
幼いころから、私のほうが兄を心配してばかりだったように思いますが。
照れたのか、そっぽを向いた兄が妙に可愛らしい。このひとも今年で御年21におなりの成人男子なのですが、いまだに可愛らしいのはどうしてでしょうね。
「‥‥そりゃ、可愛い妹のことだし」
「ありがとうございます」
「別にお礼を言われたいわけじゃなくて」
こんなに可愛げがない私などよりも余程、兄のほうが可愛らしいと思います。
「大丈夫です」
「‥‥何が?」
普段から私は笑顔の仮面ですが、久方ぶりにわが姫と共にいる以外に、心からの笑顔が浮かびました。
「この国でやりたかったことは、数年前に果たしたのです」
「‥‥え」
本当に気付いていなかったみたいですこの鈍感。わが姫を見出してからの私はかなり落ち着いたと評判だったのですが。
「それに、婚約者様ともきっとうまくやりますよ」
だって似た者同士ですから。
請け負ったのに、兄はどこか不服そうでした。だからなんでそう、いちいち動作が可愛らしいんでしょうねこの男は。ふてくされる様も可愛いなんて、どこの婦女子ですか。




